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48.伯爵一家に土下座されてほとほと困りました

 ついにやってしまった。

 俺がよく注意していなかったばかりに女に手を上げたことにされてしまった。


 俺は姫様の護衛騎士として、姫様とエーベルの仲を修復して仲直りというか、婚約破棄を阻止しようとしていたのに……

 俺は頭を抱えたくなっていた。


「ラフィー、ラフィーは全然悪くないわよ」

 帰りの馬車の中でアンジェが俺を慰めてくれた。


「ありがとうございます、姫様。でも、今回は俺が悪いです」

 俺は首を振った。


「何言っているのよ、ラフィー。あんなに軽く触れただけで骨折するんなら、ダンスの練習しただけであの女は骨折するわよ」

「いや、奴らがやってくれそうなことでした。俺がもっと注意していれば良かったのです」

 そうだ。今回の件は、あの女、ミーナが考えてくれそうなことだった。


 絶対にあの女がしてくれたことを考え出したのはゲームのヒロインのミーナだ。


 それも見え見えの手だ。


 俺がもう少し注意すれば良かったのだ。


 俺は学園長から一週間の謹慎を言い渡されていた。 



 せっかく姫様の横にいてミーナが出してくる手を次々に壊して、エーベルトアンジェの仲を修復というかちゃんとして二人をくっつけようとしたのに……

 バルトも使って少なくともアンジェとエーベルの初デートというか顔合わせは出来たのだ。


 これからと言うときに、その俺様が一週間もの謹慎処分を食ってしまうとは……

 最悪だった。


 俺が一週間もいなくなったらアンジェは大丈夫だろうか?


 ミーナの奴は傍に俺がいなくなったら更にいろんな悪辣非道なことをしそうだった。

 俺がアンジェの傍にいればそれを防ぎきってやるのに、俺は馬鹿ミーナの下らない策に引っかかり、一週間の謹慎処分にされてしまった。

 本当に馬鹿だ!

 俺は邸宅に帰ってからもドヨーンとしていた。



「ラファエル様、大変でございます!」

 俺が寝室で頭を抱えている時だ。執事のセバスチャンが部屋に飛び込んできた。


「大変って、今度は何だ? バルトでも遊びに来たのか?」

 俺が今以上に大変なことなんてないと思いながら聞くと、

「それがボルドー伯爵家の皆様がいらつしゃったのですが……」

「何だ。あれだけ文句を言っていたのに言い足りずにまた来たのか?」

 俺はうんざりした。


「元剣聖か何か知りませんけれど、女に手を上げるなんて騎士道精神をなくしてしまわれたのね」

「騎士の風上にも置けない奴だな」

 とか散々俺を貶めてくれた夫婦だ。

 今度は隠居まで出てきたのかもしれない。


「それが皆様、文句を言うどころか、正門の前でこちらに向けて土下座していらっしゃるのですが?」

 セバスチャンが言いにくそうに説明してくれた。


「はい? 怒っているのに、何故土下座しているのだ?」

 絶対におかしいだろう!

 俺が信じられないでいると、


「門番によると謝っておられるとか……」

「謝っている?」

「帝都の目抜き通りで土下座して大声で謝っておられるので、通りかかる人々が立ち止まって皆で見ておられるのですが……」

 セバスチャンの困った声に、俺はますます混乱した。

 怒りすぎて、頭でもおかしくなったのか?


「ラフィー、大丈夫なの?」

 セバスチャンの声に隣の寝室の扉を開けて顔を出したアンジェが尋ねてきた。

 お前はどこから顔を出しているんだ!

 俺は叫びたかった。

 主寝室のドアは鍵をかけていたはずなのに、アンジェはその鍵を持っているらしい……

 何故保護者の俺が持っていないのにアンジェが持っていると俺は頭を抱えたくなった。


 まあ、良い、それよりも今はボルドー家だ。

 俺は取りあえず、慌てて正門に向かった。


「剣聖ラファエル・サンティーニ様! 申し訳ありませんでした」

 歩いている俺に大声が聞こえてきた。

 この声はボルドー伯爵の声とは違うような気がした。


「「剣聖ラファエル・サンティーニ様、申し訳ありませんでした」」

 その後ろでぼそぼそした声が聞こえた。


「貴様等。声が小さいわ! 持つと大きな声で謝罪せい!」

 老人のドラ声が響いた。

「「「剣聖ラファエル・サンティーニ様、申し訳ありませんでした!」」」

 少し、声が大きくなった。

「もっと、大きな声で」

「「「剣聖ラファエル・サンティーニ様、申し訳ありませんでした!」」」

 自棄になった声がこちらにも聞こえてきた。


「ラファエル様には我が領地が存亡の折りに助けていただいたにもかかわらず、孫娘が失礼なことをしでかし申し訳ありませんでした」

 老人のドラ声が響いてきた。


「おいおい、これは何だ?」

「なんでも、ボルドー伯の孫娘が剣聖様の逆鱗に触れたみたいだぞ」

「剣聖様って?」

「貴様は知らんのか。我が帝国が魔王に制圧されようとした時に、陛下と一緒に戦って魔王を討伐されたあの剣聖様だ。あの銅像だよ」

「剣聖様は戻られたのか?」

「何でも陛下が度々お願いしてやっとお戻りになられたのだ」

 見物人の男達の声がこちらにも聞こえてきた。

 大通りに面しているので大勢の者がボルドー伯一行を遠巻きにしてみていた。

 

「おい、剣聖様だぞ」

「ああ、本当だ」

「銅像のままの凜々しいお姿だ」

「おおおお」

「なんまんだぶなんまんだぶ」

 俺が正門から出てきたのを見て民衆がどよめいた。

 何故か俺を拝む者までいるのだが、何故仏様を拝むようなことになっているのかよく判らなかったが……


 俺が出てきたのを見て、一番端の老人が大きく頭を下げていた。

「貴様等も下げんか!」

 ガツン!

 大きな音がしてボルドー伯の頭が地面にめり込んだ。


「これはボルド伯爵家の皆様、一体どうされたのですか?」

 俺は唖然として老人達に尋ねていた。

「この度は孫娘が失礼なことをして申し訳ありませんでした」

 老人が頭を下げたまま叫んでくれた。

「いや、俺の手がそちらの令嬢に当たったのは事実で」

 俺が困惑して言うと


「我がボルドー家の存亡の折りにラファエル様にお助けいただいた恩、このリヒャルト、未だに忘れておりません。その剣聖様に対し、失礼なことを働くなど許せません。それにもかかわらず、両親共々更に剣聖様に無礼を働いた由、この上は三人斬り捨てて、このリヒャルトもこの場で自害する所存です」

 俺はこの老人が本気で叫んでいるのが判った。

 そう言えば昔バルト等と魔王討伐のおりにボルドーの町を尋ねたとことがあったのを俺は思い出していた。


「ボルドー伯、いや、もう引退されたのならリヒャルト殿、学園内であったことは学園内で対処すればいい話です。学園外では気にされなくて良いのでは」

 俺は首を振った。


「しかし、ラファエル様」

「この様なところで土下座されては俺も困ります」

 そう言うと、老人の手を掴んで立たせようとした。


「いや……しかし」

「ならば学園であったことは無かったことにしていただけたら嬉しいですな」

 俺はそう言うと笑った。

 そうなれば謹慎処分も解けるのではないかと少し期待したのだ……


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