44.女達に嵌められました
アンジェは帰る時も静かだった。
「何かあったのですか?」
と聞いても、
「何も」
ととりつく島もなかった。
でも、反応が何か変なので絶対に何かあったのは確かだった。
フランク王国にいるときはこういうことも多々あった。
俺はどちらかというとがさつな男だから、アンジェの気分を害することも時たまあった。
そんな時にはマイヤーになんとか二人の間を取り持ってもらったのだ。
でも、この国ではマイヤーは伯爵家に帰っていた。
どうすることもできない。
やむを得ず、カミラにそれとなくアンジェの様子を確認したが、
「何かがあったのは確実ですね。皇宮に行かれてから少しおかしいです」
ただ、その先は尋ねても教えてもらえなかったとのことだった。
マイヤーなら原因まで探ってくれて判るのだが……まだカミラではそこまでは難しいらしい。
どうしようか?
俺は悩んだ。
夕食の時も結局聞きそびれて、食後のお茶の時に聞こえとしたら
「ラフィー、今日は少し疲れたから早めに休むわ」
「ああ、お休み」
アンジェは俺が何か聞こうとする前に、あっさり寝室に入ってしまった。
アンジェが寝てくれたので、俺もやることがなくてさっさと寝室に入った。
俺の寝室に昔のように訪ねてくるかと思ったのだが、訪ねても来なかった。
俺は気になって中々休めなかった。
でも、年なのかその日も早朝に目が覚めた。
「ああ、もう、うじうじ悩んでも仕方が無い」
俺はそう言うと日課の素振りを始めた。
ビュンビュン
何も考えずにただひたすら木刀を振った。
なんか身も心も研ぎ澄まされていくようだ。
無の境地とかいう奴だろう。
俺は久々に素振りに浸っていた。
でも、シャワーを浴びながら気付いたのだ。
いつもなら必ずやってくるアンジェが来なかったことに……
こんな事は初めてだった。
絶対におかしい。
俺は2時間目と3時間目の間の休憩時間に職員室にマイヤーを訪ねた。
「どうしたのです、ラフィー様?」
訪ねてきた俺を見て驚いたマイヤーは俺を別室に連れて行った。
「実は姫様の様子が少しおかしいんだ」
俺は昨日のことをマイヤーに話した。
エーベルと二人で出て行って帰ってきたときからおかしい事を説明した。
「どうだろう? やはりエーベルハルト殿下に何か言われたんだろうか?」
俺はマイヤーに尋ねてみた。
「さすがに、それだけでは判りませんね」
マイヤーは首を振った。
「娘からも尋ねられましたから私も調べてみますが、そこはあまり気にされなくても良いのでは無いですか?」
マイヤーは楽観的に言ってくれた。
「そうかな?」
「娘を育てているとこのような事は良くあることです。ラファエル様。アンジエリーナ様はもう16歳です。過保護すぎるような気もしますわ」
そして、マイヤーに笑われてしまった。
確かにそうかもしれない。
過保護すぎると言われたそんな事は無いと言い返したかったが、俺はマイヤーの言葉に従ってもうしばらく様子をみることにした。
そして、教室に帰ってきたときだ。
「あっ、ラファエル様。アンジェリーナ様が上級生の女どもに連れ去られました」
俺を見かけたオスカーが慌てて俺に報告してきた。
「何だと?」
連れ出したのは令嬢達は3年生のA組のミーナの取り巻きらしい。
昨日バルトを見かけたフッセン男爵はアンジエリーナが何かされないように見張るようにオスカーに命じていたらしい。
さすがバルトだ。
オスカーは昨日までの態度と180度変わっていた。
でも、そのバルトの威力も上級生には通用しなかったらしい。
「ちょっと貴方たち、何故ついてくるの?」
「煩いわね。アンジェに何の用よ」
「貴方たちには用はないからさっさと帰りなさいよ」
「ふんっ、それを言うのはこっちの台詞よ。痛い目に合いたくなかったらさっさと消えな」
空き教室の中から争う声が聞こえた。
ガラッ
俺は教室のドアを大きく開けた。
「姫様、大丈夫か!」
俺はアンジエに駆け寄ろうとした。
「貴方、何者なの?」
女達がアンジェ達と俺の間に入って俺が近付こうとするのを邪魔しようとしてきた。
慌てた俺はアンジエ達を囲んでいた女達をかき分けて俺が近付こうとしたら
「キャッ」
わざとらしく女の一人が大きく転けてくれた。
心配した俺がアンジェに近付くとアンジェはイレーネとヒルデに囲まれて無事だった。
「私は大丈夫よ。この女達が集団で私を連れて行こうとしたけれど、イレーネ達が助けようとしてくれたのよ」
アンジェの声を聞いて俺はほっとした。
でも、俺はあまかったのだ。
「何をしているのです」
その時叱責の声が響いた。
何かと俺達に突っかかってくるカンタローネだ。
「カンタローネ先生。私達がアンジェリーナさんに注意しようとしていたらこの男がパトリツィアさんに乱暴を働いたのです」
真ん中にいた偉そうな女がカンタローネに告げ口してくれた。
「まあ、なんて事なの? 貴方騎士のくせに令嬢に乱暴を働いたの?」
「いや、俺はちょっとかき分けただけで、大げさにその女が転けただけで」
俺が指摘すると
「痛たたたたた。先生、腕がとても痛いです」
パトリツィアと呼ばれた女が盛大に呻いてくれた。
「まあ、パトリツィアさん。ひょっとして腕が折れたかもしれませんわ」
カンタローネが大げさに言ってくれた。
「まあ、酷い」
「なんて酷い事をしてくれますの」
「騎士が令嬢に手を上げるなんて本当に最悪の事ですわ」
女達が大騒ぎしてくれた。
俺は唖然とした。
殴った訳でも思いっきり押した訳でもない。
ほんの少し手が当たっただけだ。
それで骨が折れるか?
女は皆に見えないように俺を見てニタリと笑ってくれた。
俺は女達に嵌められたのをやっと知ったのだ。




