36.皇子が取り巻きとかとやってきて失礼な事を言ってくれましたが、皇帝がいたので真っ青になりました
授業がやっと終わった。
礼儀作法の授業は結局ぐだぐだになっていた。
というか、そもそも礼儀作法なんて大半の者が初めてだった。
なおかつ皇帝のバルトに会ったのも初めてだ。
これで皇帝への謁見なんて普通は上手く出来る訳はなかった。
多くの者がカチンコチンになって転ける者も続出していた。
バルトは礼儀作法に慣れない者に謁見されるのも初めてだったみたいで、本人は結構楽しんでいたが……礼儀作法の教師のカンタローネは完全に疲れ切って帰って行った。
「いやあ、授業を受けるのは本当に40年ぶり久しぶりだな」
バルトはとてもご機嫌だった。
「いやいや、皇帝が授業を受けるっておかしいだろう。本当にこんなところで油を売っていて良いのか?」
俺はバルトとの為に聞いてやった。
「ふんっ、俺は貴様と違って今まで汗水垂らして働いてきたんだ。少しくらい息抜きしても良かろう」
そうバルトが笑ったときだ。
「ちょっと悪役令嬢のアンジェリーナ! 貴方、昨日はエーベル様にとんでもない事をしてくれたんだって!」
そこにヒロインのピンク頭のミーナがいつもの如くエーベルの腕に胸を押しつけて登場してくれた。
「私は昨日はされた方よ」
アンジェリーナが反論した。
「何を言うか。俺は貴様から攻撃された雷撃を反射しただけだ。元々攻撃してきたのは貴様からだ」
エーベルが反論した。
「それよりも問題は貴様の護衛騎士だ」
エーベルは俺を睨み付けてくれた。
「そうだ、貴様、高々平民の護衛のくせに、俺達に何をしてくれた?」
「そうよ。あんな大技我が国の騎士団長様でも使えないのよ!」
エーベルの取り巻きとミーナが叫んでくれた。
騎士団長が出来ないからって俺に文句を言ってもらっても困る。俺は一応周りから剣聖と呼ばれているのだ。騎士団長が出来て俺が出来なくて文句を言われるのなら判るが、逆は普通だろう!
まあ、しかし、昨日はアンジェを攻撃されたとぷっつん切れてソニックブレードで攻撃したが、バルトにもやり過ぎだと注意されたところだし、ここは謝罪した方が良いのか?
俺は一応バルトを見た。
でも、バルトは首を振ってくれた。
ということは好きに言い返していいそうだ。
「ふんっ、人を年寄り扱いしてくれたからな。取りあえず真の剣術がどんな物か見せてやっただけだ。感謝してほしいものだな」
俺は一応言ってやった。何しろソニックブレードは危険なので、訓練の時もやったことはない。
何もない平原で時たま素振りの時にやる程度だ。
これはやると周りにも凄まじい被害を与える。
「何を言っている。あれはソニックブレードだったぞ。騎士団長ですら使えないのに、普通の奴は使えん技だ。貴様どんな卑怯な手を使ったのだ」
側近の男が言い出した。
「いや、別に俺は普通にやっただけだ」
「本当に馬鹿ね。ラフィーは剣聖よ。ソニックブレードくらい出せないでどうするのよ」
横でアンジェが俺の援護をしてくれた。
「何を言っているのよ。剣聖だったのは大分前でしょ。今はもう還暦よ。完全なおじいちゃんじゃない! そんなじじいがソニックブレードなんて大技使える訳はないでしょう」
ミーナが勝ち誇ったように言ってくれたんだが……
横でバルトが年寄りというところでうんうんと頷いているが、お前も同い年だろうと俺は余程叫びたかった。
「そうだ。年寄りのよぼよぼじじいが使えたのがおかしいだろう」
「どんな卑怯な手を使ったんだ?」
皇子の側近共が更に騒いでくれた。
「貴方たちラフィーのソニックブレードを身に浴びたんでしょ? ラフィーが卑怯な手を使っていないことくらい見て判らないの?」
アンジェが心底馬鹿にしたように側近達を見下した。
「黙れ、悪役令嬢アンジェリーナ。貴様などミーナ様に比べて月とすっぽんだ。直にエーベル様に婚約破棄される身だろうが。口は慎め」
生意気な男がアンジェを貶めてくれた。こいつは確か、侯爵家の次男だ。
「おい、貴様。アンジエリーナ様はフランク王国の王女殿下だ。高々侯爵の息子風情が呼び捨てにするな」
俺はその無礼な男に完全に切れていた。
「おい、ラフィー、抑えろ。ランツフート。謝罪しろ!」
バルトが俺に抱きついて止めようとしたが、俺は完全に切れていた。
「な、何だと誰が謝罪を……」
男は俺を押えている男が誰かわからなかったみたいだ。
でも、エーベルがぎょっとした顔をした。
こいつは気付いたみたいだ。
「何なの? なんでまた偉そうな白髪のじいさんが増えているの?」
ミーナがバルトを見て指摘した。
「偉そうな白髪のじいさん!」
俺は思わず噴きだしてしまった。
「ミーナ」
バルトを見たエーベルは慌ててミーナを止めようとした。
「じいさんは黙っていろ!」
自国の皇帝に向かってこいつは何を言っているんだ?
自国の皇帝くらい顔を覚えていろと俺は言いたかった。
「ヨーナス、黙れ!」
「何でだよ、エーベル?」
ヨーナスはまだ判らないみたいだ。
「も、申し訳ありません。お祖父様」
エーベルは慌ててバルトの前に跪いた。
顔が青い。
「お祖父様って、えっ、皇帝陛下……も、申し訳ありません」
ヨーナスも慌てて跪いたけれど、遅いだろう。
「バルト、お前は自国の高位貴族にすら名前を覚えてもらっていないぞ」
俺が馬鹿にしてやった。
「貴様、陛下に対して呼び捨てとは」
「良い。剣聖ラフィーは我が友ぞ。ラフィーがいなければ今頃貴様らも魔王との戦いにかり出されていたのだ。
貴様らはもう少し敬意を持て。
ランツフート。特に貴様の侯爵家はラフィーに対して計り知れない恩義があろう。帰って祖父に尋ねてみるがよい。今貴様が取った態度がそれで良いかどうかな」
「はっ?」
ランツフートはよく判っていないみたいだった。
ただ、他の取り巻き達は蒼白になっていた。
そうか、こいつがランツフートのじいさんの孫か!
代が替わると替わるものだ。
俺はつくづく思い知ったのだった。




