34.皇帝が俺の席にふんぞり返って座っていました
「何故お前がここにいる?」
俺はまさかここにいるはずのない奴の姿を見たとき、唖然とした。
むかつく皇子一行を弾き飛ばすと俺は一同を引き連れて慌ててゴールを飛び越えて医務室に突入した。
「先生! すぐにアンジェを治してください!」
看護師の癒やし魔術師の先生の前にお姫様抱っこしたアンジェをずいっと差し出す。
「いや、そんなに迫られても」
先生は俺の勢いに引き気味だった。
「先生、アンジェは治りますか? きれいな肌に跡は残りませんか? 大丈夫ですか?」
「ええい、煩い! というか、男は部屋から出ていけ!」
俺は背中のイレーネも受け取られてそのまま部屋から叩き出された。
そして出たところでは、これまた怒り心頭の学園長始め取り巻き連中に集中砲火を受けた。
「ラファエル様。困るのですよ。帝国の皇太子殿下の第一皇子殿下を怪我させてくれるなんて! 一体何を考えられるのです」
「本当ですわ。マイヤー先生、これはどういう事ですか?
本来ならばラファエルさんのような大人は学園に入学を認められる訳はないのです。それをマイヤー先生が認められるからこういうことになるのです!」
礼儀作法のカンタローネがそれ見たことかとマイヤー先生に詰め寄っていた。
「いや、マイヤー先生は関係無いでしょう。俺の入学を許可してくれたのは学園長ですから。どうしても問題ならバルトに頼みます」
俺の一言に、
「ラファエロ様。皇帝陛下のお名前を呼び捨てにするのはどうかと」
学園長が目を見開いて俺を見た。
「こ、皇帝陛下ですか?」
カンタローネがその横でぎょっとした顔をしていた。
俺への追及はそのまま何故かうやむやに終わってしまった。
さすがバルトの名前は使える。
俺はバルトに心の底から感謝したのだ。それが間違いだった。
アンジェは元々丈夫だったので、看護の先生の尽力もあって翌朝はいつも通り元気に起きてくれた。
「大丈夫なのか、姫様」
通常モードになって俺は尋ねていた。
「全然大丈夫よ」
アンジェの言葉に安心した俺はそのままアンジェを連れて学園に行ったのだ。
そうして教室に行くと何故か教室の前で多くの人間が集まって中を見ていた。
クラスメートも驚いた顔をして中を見ている。
「何をしているんだ?」
中を見ると俺の席に偉そうにふんぞり返って座っている男がいたのだ。
「おお、ラフィー、久しぶりだな!」
俺は手を上げた男を見て顎が外れるくらい大きく口を開けた。
教室の中には全然様になっていない制服を着た銀髪の初老の男が、偉そうに俺の席にふんぞり返っていた。
「何故貴様がここにいる?」
俺は叫びつつ中に入った。
「それは俺の台詞だ。ハンニバルと楽しい旅をした後に、貴様が学園に入学していると聞いてな。それなら俺も来るしかあるまいと入学したのだ」
いけしゃあしゃあとバルトは言い訳してくれた。
「いや、お前、この国の皇帝だろうが! そんな偉い奴が学園に入学は出来ないだろう!」
「何を言う。貴様こそ魔王を倒した剣聖様ではないか! そのような英雄がこんなところにいるのはおかしかろう」
二人して言い合っていると、
「おやじ、頼むぞ、俺をボコボコにしてくれたあの爺に言ってやってくれ!」
教室の外で大きな声がした。
「オスカー様!」
「お前らどうしたんだ? あれ、爺が二人になっている」
オスカーの馬鹿面が教室を覗き込んでくれた。
「誰が爺だ!」
バルトが怒りだしたが、
「俺に比べたら既に銀髪に白髪が混じっている貴様は十分に爺だよ!」
俺は教えてやった。
「生意気な爺が二人だと」
その後ろから偉そうな親父が入ってきた。
でも、入って俺達を見た瞬間ぎょっとした顔をした。
「親父、この生意気な爺達に一言言ってやってくれ」
オスカーが皇帝を前にして言い放った時だ。
「どうした。フッセン男爵。俺の友人に何か用か?」
「こ、こ、こ、こ」
「どうした、おやじ、剣聖だかなんだか知らんがズバッと言ってくれよ」
「お、愚か者!」
フッセン男爵は飛び上がるとすぐにオスカーの頭を下げさせた。
「な、何をする親父!」
「愚か者。皇帝陛下の御前だぞ。頭が高いわ!」
「えっ、このおっさんが皇帝陛下?」
「ええい、愚か者。皇帝陛下、申し訳ありません」
オスカーの頭を思いっきり地面に付けさせたフッセン男爵は平伏していた。
「まあ、良い。フッセン男爵。俺が爺とは。その方の息子が生意気なのはその方の血筋か?」
ぎろりとバルトがフッセン男爵を睨んだ。
「いえいえ、そのようなことは。この母親が甘やかしすぎて申し訳ありません」
「何かラフィーに文句があるのか?」
「決してそのような事はございません。剣聖様に息子と一緒に謝罪に訪れただけで」
「えっ、おやじ。どこの馬の骨とも判らぬ平民など儂が一言言えばふっとぶ……」
ダン!
フッセン男爵はまだ何か言いたそうなオスカーの頭をそのまま地面に叩きつけていた。
「痛い!」
オスカーが悲鳴を上げた。
「重ね重ね申し訳ありません」
「でもおやじ」
「お前は二度と話すな」
強引にフッセン男爵は息子を黙らせていた。
「おいおいお前の顔を知らない生徒までいるぞ」
俺がバルトに教えてやると、
「儂もまだまだじゃな。のう、フッセン男爵」
不機嫌そうにバルトは男爵を見た。
「申し訳ありません」
もう男爵は青いを通り越して蒼白になっていた。
その俺を後からツンツンとアンジェがつついてきた。
「バルト、こちらが俺がお仕えしているアンジェリーナ・フランク様だ」
俺はアンジェをバルトに紹介した。
「お仕えしているってお前……」
何か不満そうにバルトが言いだしたが、
「皇帝陛下にご挨拶申し上げます。剣聖ラファエル・サンティーニに育てられたアンジェリーナ・フランクと申します」
アンジェはきちんとカーテシーしてくれた。
「ラフィーに育てられたか? こいつが女の子を育てるとは信じられんが……」
「何を言う。俺もやれば出来るぞ。尤も女らしさはマイヤーがしつけてくれたが」
「まあ、そうじゃろう。貴様に女は育てられんだろう」
「陛下、私をここまで見守って育ててくれたのはラフィーです」
アンジェがそう言うとバルトの前で俺に寄り添ってくれたのだが……
育ての父親ってこんな感じなんだろうか?
バルトの前では面はゆい。
「何かお前ら恋人みたいに見えるが」
バルトが呆れて言ってくれた。
「えっ、恋人のように見えますか?」
何故かアンジェが喜んでいるが、
「恋人には見えんだろう。親娘だな」
「ええええ!」
俺が訂正するとアンジェは少し膨れてくれたんだが……
「何を皆して外に立っているのです。さっさと座りなさい」
そこに礼儀作法の担任のカンタローネが入ってきた。
「先生。この男に席を取られたんですが」
俺が先生に言いつけると、
「な、何ですって、こ、皇帝陛下!」
文句を言おうとしたカンタローネは次の瞬間バルトの顔を見て固まっていた。
「ラファエルさん。あなた、まさか本当に皇帝陛下をお連れするなんて……」
カンタローネは絶句していた。
「ラフィー、お前はカンタローネに俺を連れてくると約束したのか?」
「いや、俺がお前の孫を怪我させたとか言って昨日はこの先生に怒られたのだ」
「おお聞いたぞ。貴様、昨日はソニックブレードを使ったそうではないか? 学生相手にそんな大技を使うなどみっともないぞ」
バルトはそう言ってくれるが、
「その学生相手に昨日は貴様のところの近衞騎士団長がわざわざ出て来たが、それはどうなんだ?」
「ああ、あれは孫が頼み込んだらしい。奴は貴様と戦えると喜々として行ったらしいが、そちらのお嬢さんに雷撃されてボロボロになっていたぞ」
「申し訳ありません。ラフィーの剣が折れてしまったので危ないと思ってつい本気を出してしまいました」
アンジェがしおらしく言うが
「さすがダニエルとアンナの娘だな」
バルトは呆れて言った。
「まあ、雷撃だけは身を守るために訓練させたからな」
「いや、お前身を守るためって、あんなの受けたら、うちの騎士団長でなかったら多分死んでいたぞ」
「普段は魔道具で制御させているさ」
首を振るバルトに俺は説明していた。
「あのう、皇帝陛下、そろそろ授業を始めたいのですが」
カンタローネは言外に出来たらさっさと帰って欲しいと言っていたんだと思う。
「おお、そうか、フッセン男爵、俺の席が無いんだが」
バルトは平伏したままのフッセン男爵を見下ろして言いだした。
「陛下のお席ですか? それは私に人間椅子になれと御命じられている訳で」
フッセン男爵が変なことを言いだした。
「はああああ? 貴様が可愛い女の子ならいざ知らず、何を好んで男の上に座らないといけない?」
むっとしてバルトがフッセン男爵を睨み付けていた。
それはそうだろう。俺でも嫌だ。
「陛下、私の席をお譲りいたしましょうか」
「いや、しかし、姫様はどうされるので?」
「私はラフィーの膝の上に座れます」
「えっ?」
俺はアンジェの言葉に絶句した。
「いや、アンジェリーナ嬢。俺の膝なら提供するが」
「エロ親父はさっさと帰れ! カンタローネ先生も困っているだろう」
俺は変なことを言い出したバルトを睨み付けた。
可愛いアンジェをエロ親父の上に座らせるなどとんでもないことだった。
「カンタローネ、別に俺が貴様の授業を聞いても良いだろう?」
「そ、それは全然問題はありませんわ」
バルトとの問いかけにカンタローネは引きつった笑みを浮かべていた。
結局授業は教師席に座った皇帝陛下に対しての謁見方法にいきなり変わっていた。
成績最低で騎士志望の多いEクラスの面々にそれを求めるのはとても酷なことだったのは言うまでもない。




