33.皇帝視点 剣聖が学園に滞在しているのを初めて知りました
「はああああ!」
俺は大きくため息をついた。
「陛下、何を遊んでいるのですか? 書類は山積みですぞ!」
「さっさと処理して下さい!」
宰相のマインブルクや侍従長のハーゲン達の側近どもが今日も煩い。
俺の執務机の上は他の物の置き場所がないほどの書類が山積みになっていた。
それが日々溜まっていくのだ。
「つまらんぞ!」
俺は呟いた。
昔は良かった。
ラフィー達と魔王退治の旅は野宿の連続で命の危険も多々あるとても大変な旅だった。しかし、手に汗握る冒険はスリリングでとても楽しかった。
まあ、最後は魔王の威圧の前に俺もダニエルも手も足も出なかったが、アンヌを妾にするとラフィーの前で宣った魔王がラフィーにボコボコにされていたが……俺はその時に思ったのだ。ラフィーだけは逆らわないでおこうと……
「父上! もう許せませんぞ」
そこに息子の皇太子が飛び込んできた。
「おお、ブルクハイト、やっと俺と代わってくれることにしたのか!」
俺は嬉々として息子に皇帝位を譲ろうとした。
「何をふざけたことを言っているのです! ふざけるのはその書類の山を処理してからにして下さい」
「そうです。殿下ではまだ辺境の蛮族共を押さえるのは無理です」
「魔王退治した陛下が君臨なさっいるからこそ、奴らもおとなしくしておるのです」
皇太子の言葉に宰相と侍従長が追従してくれた。
「何を言うか。俺もそろそろ引退しても良かろう」
「引退してどうするのですか? そんな年ではもうダンジョンにも潜れませんぞ」
「何をいう。貴様等が危険だと言って俺を行かせないだけだろうが。俺でもまだ十分に現役が務まるぞ」
俺が宰相に反論したが、
「そういう冗談はその書類の山を処理してから言って下さい」
こいつも息子と同じことを言ってくれた。
ほんとうにどいつもこいつも書類書類と煩いことだ。
俺はそんな中で真っ赤に朱書きされた書類が目に付いた。
そこには『超重要』とでかでかと書かれている。
「なんだこれは?」
俺がその書類を取り上げると
「ああ、それはハンニバル辺境伯からの報告書ですな」
「ハンニバルからの?」
「陛下が捨て置いて良いと言われたではありませんか?」
「しかし、ハンニバルは国境の辺境伯だぞ。それが超重要と書いてくるのは余程のことではないか?」
俺が中身を見ようとすると、
「大して重要な事は書かれておりませんでしたぞ」
宰相があっさりと話してくれた。
「そうか」
そう言えば彼奴は何でもないことをとても重要な事のようにいつも書いてくるのだ。
その上口うるさいから今は近衞騎士団長の座も降りたのだから、ほっておこうと最近は報告書も見ていなかった。
そう言えば孫娘が今度学園に入学するとかほざいていたから、その件に関するつまらないことだろう。
「それよりも父上、エーベルトルトのことなのですが」
息子が切り出した。
「孫がどうかしたのか?」
「あの、アンジェリーナとの婚約、なんとかなりませんか?」
息子が言い出した。
「アンジェリーナとの婚約か?」
俺は遠くを見た。
俺達のパーティーは俺が勇者で、ラフィーが、剣士だったが、それは俺が剣術も魔術も使えたのとバイエルン帝国の皇太子だったから便宜上そうだっただけで、剣術ではラフィーが圧倒的な力を持っていた。
そんなラフィーが魔王からアンヌを守ったことから言っても、俺はラフィーとアンヌが一緒になると思っていた。
それを横からダニエルのボケナスがかっさらっていきおって、俺はあれほど頭に来たことはなかった。
アンヌがまさか平民のラフィーよりも国王のダニエルを選ぶなど信じられなかった。
それ以来俺はダニエル夫妻とは断交状態だ。
フランク王国の婚姻にも大使を参加させただけだ。
その後一度だけラフィーと飲むことがあった。
心配した俺がラフィーの所に魔術師団の面々を強制して転移したのだ。
ラフィーは、酒に溺れていた。
俺はソンナラフィーは見たくなかった。
「この国に居づらいなら嫌なら我が国に来い! 女なら掃いて捨てるほどいるぞ!」
俺はラフィーにそう提案した。
「少し、考えさせてくれ!」
ラフィーはそう言ったきりだった。
でも、いつか踏ん切りが付いたらラフィーは帝国にやってくると思って、俺は待ち望んでいた。
しかし、一向にラフィーは帝国には来なかった。
その後心配した俺は何度か、ラフィーに手紙を出した。
その中で、
「俺は今はアンヌの忘れ形見のアンジェリーナを育てるのに忙しい。もし、俺の事を気にしてくれるなら、そのアンジェリーナと皇太子の息子とを婚約をさせてほしい」
何で恋敵との間に出来た娘をお前が育てる?
何か違うだろう?
俺はそれを聞いたとき憤りのあまりグラスを地面に叩きつけた。
「人には色々と思うところがあるのだ。剣聖ラフィーの頼みならば聞いてやればどうだ?」
俺は父にそう言われてやむを得ずそれを認めた。
だから、ダニエルとアンヌの娘と俺の孫との婚約は俺の一存ではどうしようもないのだ。
「ブルクハルト」
俺は息子を見た。
「人類は剣聖の活躍によって救われたのだ。魔王を前にして俺もダニエルも威圧されて動けなかった。そのなか、ラフィーだけが、動けたのだ」
「それは父上から散々聞きました」
不満そうにブルクハルトは言いだした。
「ならわかるだろう!」
俺はブルクハルトを睨み付けた。
「ラフィーは、我が父が差し出した子爵位も受け取らずにさっさとフランク王国に帰還したのだ。そのラフィーが唯一帝国に望んだのが貴様の息子とアンヌの娘の婚約だ。ラフィーへの唯一の褒美だぞ! それを反故になど出来る訳はなかろう!」
俺は机を叩きつけていた。
さすがの皇太子も俺の剣幕にビクッとしていた。
「エーベルハルトが婚約破棄したいと言うのならばその場合は廃嫡させろ」
「父上、さすがに廃嫡は」
皇太子は躊躇したが、
「何を言っている。この婚約はそれだけ重いのだぞ。我が帝国はそれだけラフィーには恩義があるのだ。で、その上で貴様が婚約破棄したい理由は何だ?」
俺は仕方なしに話を聞いてやった。聞くだけなら出来る。
「いや、そのエーベルハルトがアンジエリーナの護衛騎士によって重傷を負わせられたのです。そんな危険な護衛を持った婚約者など認められません」
「女の護衛騎士風情に重傷を負わされるとはどういう事だ? エーベルハルトがそんな理不尽なことをしたのか?」
「違います。オリエンテーションの一環でエーベルハルトが役を担っているときに、ソニックブレードを喰らったと」
「おい、待て、ソニックブレードなど使えるのは帝国でも5人もおらんぞ。そんな大物をフランク王国は王女の護衛として派遣してきたのか?」
俺は驚いて息子を見た。
「そもそも競技の一環ならば何故護衛騎士が出てくる? 競技は生徒しか参加出来ないはずだぞ」
俺は不審に思って聞いていた。
「それは判りませんが……」
「さすがラファエル様ですな」
皇太子の後ろから来なくて良いのに、ハンニバルが顔を出した。
どこから出て来たのだ?
「閣下、今陛下は皇太子殿下とお話し中ですぞ」
「いやあ、申し訳ありません。つい、ラファエル様の活躍が聞こえたので口を挟んでしまったのです」
「おい、ちょっと待て、ハンニバル。 ラファエルだと! あいつはアンジェリーナについて帝国に来ているのか?」
俺はハンニバルを見た。
「さようでございます。何でもアンジェリーナ様が心配だと申されて学生として入学されたと」
「そんな話は初めて聞いたぞ。そもそもハンニバル、そんな重要な事を何故知らせん!」
俺は思わず執務机から立上がっていた。
「これはしたり、陛下が知りたいと思いまして超重要と赤字で書いたお手紙を出していたはずですが……」
ハンニバルの言葉に俺は絶句した。
「マインブルク、貴様知っていて俺に黙っていたな!」
俺は宰相を睨み付けていた。
「何のことやら。そもそも陛下がハンニバル様は碌な事を言ってこないから無視しろと申されたのでは無いですか」
俺は何も言い返せなかった。
「こうはしておれん。直ちに行くぞ!」
「行くとはどちらに?」
「そんなのはラフィーの所に決まっておろう!」
俺は叫んでいた。
「陛下、行かれるならばこの書類を全て片付けてからになさいませ」
「はああああ! そんなのは」
「敵前逃亡は重罪だと存じます」
「しかし……」
「さっさとやっつけてしまいましょう」
「さあ、陛下早く」
俺は側近どもに囲まれて到底逃げ出せるような状況ではなくなった。
おのれ、ラフィー1人で学園で遊ぶなど許さん!
俺は絶対にラフィーの所に行こうと心に決めたのだった。




