27.やる気をなくしていた王女は水晶を光らせました
「食事も終わったし、ついに後半戦ですね」
ニコが食堂から出ると背伸びをした。
「後半戦は私も頑張ります!」
ヒルデが力こぶを作った。
「そうよ。今まで私におんぶに抱っこだったんだから後半は頼むわよ」
イレーネが自慢してそうに言ってくれたが、
「何言っているのよ。ここまでの一番活躍したのはラフィー様でしょ」
「そらあそうだけど編み物で一番貢献したのは私よ」
ヒルデの指摘にイレーネは一部自分の非を認めたが、まあ、編み物はイレーネが一番貢献したのも事実だ。
「ね、アンジェもそう思うでしょ」
「……」
イレーネが振ったが、アンジェは返事をしなかった。
「どうしたんだ、アンジェ?」
「ううん、なんでもなやいわ」
俺がアンジェに尋ねるが、慌ててアンジェは首を振った。
「そんな訳ないだろう。元気がないぞ?」
俺は心配してアンジェを見た。
「何でもないったら」
アンジェが首を振ってくれた。
「何でもないのならば良いが……」
俺はアンジェを心配そうに見た。
「大丈夫だって言っているでしょ」
アンジェはそう言うとさっさと歩き出した。
「まあまあ、ラフィー様。後半戦頑張りましょう」
ヒルデが俺の手を引いて歩き出してくれた。
普通俺が他の女と親しくしているのをアンジェが見ると怒り出すのだが、今回はちらっと見ただけだ。
「あれ、変ですね」
ヒルデまでそう言い出す始末だ。
アンジェは余程重症なのではないかと俺は危惧した。
キンコンカーンコーン
しかし、そこに開始のベルが鳴ったのだ。
「いかん、時間が無い」
俺達は慌てて一年D組の教室に走り込んだ。
次の授業は帝国の地理だった。
俺は前任者のラファエルの知識でなんとか合格した。
イレーネは当然楽勝だったし、ニコとヒルデも2回目で合格してくれた。
しかし、アンジェが全然だった。
「アンジェ、頑張れ!」
俺が応援するもアンジェの反応は今ひとつだ。
「どうしたの、アンジェ、しっかり!」
イレーネが応援してもさっぱりだった。
「イレーネが悪いんじゃない?」
ヒルデがイレーネに白い視線を送った。
「えっ、私?」
イレーネはキョトンとしていた。
「そうよ。アンジェの前でクラーラ様にラフィー様に告白なんかさせるから、アンジェはショックを受けたんじゃないかな?」
「そんな訳ないと思うぞ。どう考えてもクラーラは冗談だろう」
俺が横からそう答えると、
「うーん、あれは本気だったと思うんですけど」
「まあ、ラフィー様も鈍いですからね」
ニコとヒルデが俺の事を貶めているような気がするんだが……
アンジェは4回目でやっと合格してくれた。
でも、出て来たアンジェはなんか生気が無い。
俺達はそのまま最後の一年A組の教室に乗り込んだのだ。
「やっと来たわね。悪役令嬢アンジェリーナ!」
そこには満を喫したミーナが聖女の格好をして仁王立ちしていた。
「ここで貴方は終わりよ。私の課題が出来ずに貴方のチームはここでリタイヤするのよ」
そう言うとミーナは高笑いしてくれた。
「好きに言っていれば」
アンジェが反論してくれた。
少しは気分が戻ったんだろうか?
俺達は少しほっとした。
「ふふふふ、そう言っていられるのも今のうちよ」
ミーナはまた笑い出してくれたんだけど
「で、何をすれば良いんだ?」
いい加減にピンク頭の高笑いを聞くのに飽きてきた俺が尋ねた。
「誰でもいいからこの水晶に向けて聖魔術を発して水晶が光ればクリアよ。出来なければ2時間お休みなの」
俺は廊下で何であんなに多くの人がいる理由を初めて知った。
聖魔術を使える者は限られている。
この学年にも1桁もいないだろう。
だから大半のチームはここで2時間休憩なのだ。
「でも、遅くに来た貴方たちは2時間経てばもう、終了時間よ。ここで終わりって訳」
嬉しそうにミーナが言ってくれた。
「そんな」
「最低じゃない!」
「横暴だ」
イレーネとヒルデとニコが叫んだ。
「ラフィー様。この偽聖女を吹っ飛ばしていきましょう」
過激なヒルデが言いだしたが……
俺は聖魔術のことを考えた。
アンヌは俺が知っている中では最高の聖女だった。
「アンジェは聖女アンヌの娘だから、聖魔術は使おうと思えば使えるんじやないか?」
俺はアンジェを見た。
「本当ね。アンジェのお母様は目の前のエセ聖女じゃなくて、魔王を退治したラフィー様のパーティーの聖女様だったんですもの。アンジェが聖魔術を使えるようになれば、エーベルハルト様をあのエセ聖女から取り戻せるんじゃない?」
イレーネも俺の案に賛成してくれた。
「ちょっと、私とエーベル様は真実の愛で結ばれているのよ。悪役令嬢の入る隙間はないわ」
「えっ、別に私はエーベルを取り返したいなんて、思っていないわよ」
ミーナとアンジェの声が重なった。
エセ聖女はどうでも良いが、アンジェはゲームではとてもエーベルに執着していたはずだ。全く関心を寄せないのは何故だ? まあ、ゲームよりも今のアンジェの方が圧倒的に見目も性格も可愛いが……
「それに私はお母様じゃないから」
アンジェは首を振ってくれた。
「大丈夫、姫様なら出来ます!」
俺はそう言うとアンジェを見た。
「でも……」
アンジェは下を見た。
「ラフィー様。もっとアンジェをやる気にさせて下さい!」
イレーネが横から俺を煽る。
「やる気にさせろって言ってもな……」
俺は考えた。食いもので釣れば良いのか?
「頼むから姫様、やってみてくれ」
俺が頼むと、
「それはやるだけなら出来るけど」
アンジェは不承不承水晶の前に立ってくれた。
「ふんっ、悪役令嬢が聖魔術なんて使えるわけないでしょう」
この時まではミーナは余裕で笑っていた。
「姫様。頑張って下さい!」
「そうよ、アンジェ!」
「がんばって下さい!」
「アンジェなら出来る!」
俺達は頑張って応援した。
「ヒール!」
アンジェが水晶に向かって詠唱した。
しかし、水晶は全く反応しなかった。
「はっはっは。そう簡単にできる訳ないわよ」
ミーナが馬鹿にして笑ってくれた。
「姫様、もう一度!」
俺が言う。
「ヒール!」
アンジェが詠唱するが、全く水晶は光らなかった。
「姫様、もう一度!」
「えっ、無理だって!」
アンジェは弱々しく首を振った。
「大丈夫です」
「アンジェなら出来るわ」
「アンジェリーナさん。がんばって!」
皆で応援するが、
「ヒール!」
アンジェが唱えても水晶はびくともしなかった。
「こうなったら最後の手段よ。アンジェ、水晶光らをせたらラフィー様が1回限り、何でも言うことを聞いてくれるっておっしゃっているわ」
イレーネが飛んでもないことを言い出してくれたが、
「おいおい、俺はそんな事は……」
俺が否定しようとして口を塞がれた。
「ラフィー様。良いですよね!」
イレーネに真剣な顔で念押しされて、
「まあ、姫様の言うことを聞くくらいは問題ないが……」
俺は強引に頷かされた。
「えっ、本当に?」
目を輝かせてアンジェが俺を見てきた。
「いや、その……」
そう言われたら考えてしまうが
「痛い!」
イレーネに思いっきり足を踏まれてしまった。
「何でも聞いてくれるの?」
「大丈夫よ、アンジェ、騎士に二言はないわ」
俺に代わってイレーネが太鼓判を押してくれるんだが……俺はまだ頷いていないぞ!
「そうなの? 何でも?」
「光らせたらキスくらいしてくれるわよ」
「ええええ! ラフィーとキスだなんて!」
アンジェはそう言うと何故か真っ赤になってくれたんだが……いや、普通はこの年で保護者にキスされるのは嫌がるだろう! アンジェはまた、幼稚化しているのか?
と言うか婚約者のいるアンジェとキスするのは良くないだろう!
「ほっぺにキスくらいなら、問題ありませんわ。ラフィー様はアンジェの保護者なんですから」
平然とイレーネが問題ないと肯定してくれるんだけど、それは違うのでは?
「頑張って、アンジェ!」
「アンジェの希望を何でも一つ叶えてくれるそうよ」
「頼んだら何でもしてくれるって!」
「何でも!」
なんかアンジェが真っ赤になっているんだが……
「何を変な顔して喜んでいるのよ。聖魔術なんてそう簡単にできるわけないわよ。私なんて出来るまでに丸三年かかったんだから!」
ミーナが叫んでいた。
「姫様、あんなエセ聖女ですら聖魔術が使えるんですから、絶対に姫様なら使えますって」
「そうよ。アンジェ、出来たらラフィー様にキスしてもらいなさいよ」
アンジェに俺とヒルデが応援した。
「アンジェ!」
アンジェの傍にイレーネが近寄ってぼそぼそ何か話してくれた。
「うそ、本当に?」
アンジェがまじまじとイレーネを見た。
「本当よ。私はあなたを応援するわ」
「ありがとう。じゃあ、やってみるわ」
アンジェがなんかやる気になってくれた。
「いくらやっても無駄よ」
ミーナはアンジェが出来るなんて端から思っていなかったみたいだ。
「よーく見ていなさいよ、行くわよ、ヒール!」
アンジェがそう叫ぶと、アンジェから金色の光が飛び出した。その光は水晶を直撃した。
そして水晶がキラキラ金色に輝いたのだ。
「「「えっ、嘘!」」」
皆唖然とアンジェを見ていた。
「そんな!」
ミーナは口を大きく開けて絶句していたのだ。




