26.食堂で王子に睨まれ、辺境伯令嬢に告白されました
昼食時間、俺達は皆で学食に向かった。
場所はイレーネが知っていた。というか学園の真ん中にある学食は人で溢れていてすぐに目に付いた。
なにしろ学食に並ぶ列は凄まじい長さになっていた。
俺達は最後尾に並んだ。
俺は遙か昔の大学に入った頃の学食を思い出していた。
あの時も入学式が終わった当初はとても混んでいた。
何故かゴールデンウィークを過ぎると空き始め二学期になると普通に少し並べば食べられるようになったが……
不真面目な生徒達が授業に出なくなったのだ。小心者の俺は1年目は真面目に最後まで授業を受けていた。二年生になったら適当にサボりだして、卒業はギリギリに間に合った口だったが……
学園の学食は大学の学食を思い出させる作りだった。
食券売り場があってそこでお金を払った後にその食券とトレイを持って給食のおばちゃんの前に並ぶのだ。
違いと言えば机や椅子が木製で少し高価そうだったくらいだった。
後はどこの学食も同じだ。
学園の学食は余裕があるのか800人くらいが座れるようになっていた。
並んでいる俺達を見て、
「おいおい、あれが噂に聞く悪役令嬢だぞ」
「ああ、計算問題で次の回のチームにまで抜かれたって言う」
「王女様なのに、全然計算が出来ないって、フランク王国では何を勉強していたんだか……」
「こんなの出来るかって数学の家庭教師の先生を叩き出していたみたいだわ」
アンジェを見て皆クスクス笑っていた。
俺は少しむっとした。
まあ、確かに数学の教師を何回もアンジェが変えていたのは事実だが……
その時だ。
「ああら、制限時間オーバーでお情けで数学部屋を出してもらえた悪役令嬢アンジェリーナじゃない!」
ピンク頭のミーナがエーベルの腕に胸を押しつけて登場した。
こいつらは本当にもう恋人みたいだった。というか、婚約者のアンジェがいるのにその前にこんな格好で出てくるってどういう精神をしているんだ?
俺は絶対にバルトに文句を言ってやろうと心に誓った。
「何言っているのよ。ちゃんと全員計算できて、時間内に部屋は出られたわよ」
アンジェが言い返した。
「よく言うわね。次の回のチームにも次々に抜かれたって聞いたわよ」
「そうそう」
「出来ないって本当なのね」
周りにいる連中もこそこそ笑う。
「あら、私はお嬢様から、2年前、制限時間内で計算部屋を出られなかったのはピンクの髪をたなびかせたお方だとお伺いしましたけれど」
明後日の方向を向いてイレーネが大きな独り言を呟いた。
ピンク頭は俺が知る限りこの学園ではミーナしかいない。
「な、何ですって! そこの貴方、何か言ったの?」
今度はきっとしてミーナがイレーネを睨み付けた。
「いいえ、独り言ですわ」
イレーネが押し黙ると、
「ああ、そう言えば、俺達が一年の時は聖女様が一番遅かったって」
「しっ! それは禁句よ」
一人の男が叫んで周りに注意されていた。
このゲームのヒロイン達は皆計算が不得意らしい。
「アンジェリーナ。計算はある程度は出来た方が良いぞ」
そこで珍しくエーベルがまともなことを言ってくれた。
「煩いわね。貴方に言われたくないわよ!」
しかし、せっかくエーベルがアンジェに声をかけたのに、アンジェは無視した。
その上、胸をエーベルの腕に押しつけているミーナを見ると今度は俺の腕にすがりついてきたんだが、アンジェは胸が無いから押しつけられないぞと俺は余計な事を考えてしまった。
「何だと、俺はお前の事を心配してやってだな。というか、護衛騎士に抱きつくな!」
エーベルは怒りだした。
「ふんっ、貴方こそそこのピンク頭に胸押しつけられているじゃない」
「いや、これはエスコートしているだけで……」
エーベルは思わず言い訳しようとしたが、
「私もよ」
何故か売り言葉に買い言葉になっているんだが……
これでは二人をくっつけようと考えている俺の作戦が全く上手くいっていないんだが……
「おのれ、そこの護衛、後で覚えていろよ!」
アンジェのせいで俺が睨まれてしまったんだが……
「悪役令嬢、アンジエリーナ。覚えていなさいよ。私がいる限り貴方のチーム、最後まで絶対に行かせないわ」
高らかにミーナが宣言してくれた。
俺達の前に聖女が出てくる訳はないと思うんだが……
でも、俺の考えは甘かったのだ。
俺達の番がやっと回ってくると、食事は今日は全て同じ物だそうでお金を払うとそのままトレイを渡された。肉を焼いた物に野菜の煮物とスープにパンがついていた。
それをもって席を探す。
端の方がまだ空いていた。
俺を真ん中に右がアンジェ、俺の左がヒルデ、前にニコとそのヒルデ側にイレーネだ。
「本当にあなたたち、脳筋が過ぎるわ」
学食の席に着くなりイレーネが呆れて俺達を見て言い出した。
「そんなことないわよ」
アンジェが否定したが、
「あれで出来たって言うの? あなた、フランク王国のお姫様なんでしょ。何で計算も歴史も出来ないのよ。編み物なんて最後になっていたじゃない」
「何言っているのよ。私は計算はニコやヒルデよりも早かったわよ」
アンジェが胸を張って反論したが、
「この二人はどう見てもただの騎士じゃない。あなたの方が出来て当然でしょ。あなたは将来この国の皇后様になるのよ。会計の書類とか見なければいけないわよ。と言うか王女なら今までの会計報告とか見なくて良かったの?」
「だってラフィーが計算なんて数が数えられれば良いって言っていたんだもの」
アンジェが俺のせいだと言いたげに見てきたが、
「何言っているのよ。ラフィー様は計算は誰よりも速かったじゃない。あの速さなら城の文官も十分に通用するわよ」
「本当よね。今まではできなくて当たり前だって顔していたのに、何故私より出来るのよ!」
アンジェが少し逆ギレ気味に尋ねてきた。
「まあ、俺もやる時はやりますから」
俺は笑って誤魔化した。
「それよりも俺程度では城の文官は務まらないだろう」
俺はイレーネを見た。
俺は計算はそんなに速くない。前世では営業とは言え見積書とか請求書とか自分で作るので計算は当然出来たが会計に比べれば全然だった。
こいつらが出来なさすぎだと思ったが、中世の世界はそんな甘くはないだろう。
「いえいえ、確かに文官の仕事は計算だけではないと思います。でも、私はお城では計算仕事も忙しい時は手伝わされていましたので判るのですが、あれだけ出来れば十分に通用すると思いますよ。少なくても辺境伯家では雇いたいレベルです」
「絶対にあげないからね」
アンジェが俺とイレーネの間にわざわざ手を入れて断ると、
「決めるのはアンジェじゃなくてラフィー様では?」
イレーネが俺を見てきた。
「いやいや、俺なんか辺境伯が嫌がるだろう」
「旦那様は大喜びされると思いますよ。ついでにお嬢様のお相手になって頂ければ我が辺境伯家は万々歳です」
何かイレーネはとんでもないことを言い出してくれるんだが……
「こんなじじいが相手ってクラーラも嫌がるだろう」
俺なんかのお相手にされたらいくら何でもクラーラが可哀相だ。
「あら、私で宜しければいつでもラファエル様のお嫁になりますわ」
そこに何故かいきなりクラーラが現れてくれた。
「いや、クラーラ、冗談はここだけで」
「お祖父様には学園でもできる限りラファエル様をお助けするように言われているのです」
あのじいさんならそれは言うだろう。
「でも、クラーラは俺見たいなじしいの相手は嫌だろう」
「何をおっしゃっていらっしゃるのですか? ラファエル様は魔王を倒された英雄ではありませんか。それに爺とおっしゃいますが、昨日の剣さばき素晴らしかったです。あれだけ出来れば、まだ、十分に現役ですわ。私なんかで宜しければいつでも立候補いたしますわよ」
クラーラがそう言うと俺の隣に近付いてきたのだ。
「ちょっと、クラーラ、あなた、私のラフィーに近付きすぎよ」
アンジェが俺とクラーラの間に入り込んできた。
「まあ、アンジェリーナさんったら。いい加減にラファエル様を解放されてはいかがですか? ラファエル様は奥様も娶られずに貴方の養育に今まで励んでいらっしゃったのです。ただ、祖父によりますと、剣聖を子育てに使うだなんて損失だと申しておりましたわ。その点我が辺境伯家に婿として来て頂ければ、活躍する場はいくらでもございましてよ」
クラーラはアンジェに勝ち誇ったように見下ろしてくれた。
「いや、絶対にラフィーは上げないんだから!」
そう言うアンジェの声はどこか力が無かった。




