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21第一皇子視点 聖女のミーナと真実の愛に目覚めました

 俺はエーベルハルト・バイエルン、この国の皇太子の第一皇子だ。


 基本的に我が国は第一皇子が継ぐ決まりになっており、皇太子である父の第一皇子だった俺は将来的にこの大陸一広いバイエルン帝国を継ぐことは決まっていた。


 その俺の婚約者は俺が小さい時から、帝国に次いで広い国土を持つフランク王国の第一王女アンジェリーナだと決まっていた。


 まあ、将来帝国を継ぐのにこれほどふさわしい相手はいないと周りからは言われていた。


 俺としては大陸最大の国家である帝国の跡継ぎだから、別に隣国の機嫌をとらなくても構わないと思えたが、祖父とフランク王国の国王夫妻が親しかったので、事はトントン拍子に決まったと聞いていた。


 帝国の侯爵家出身の母としては他国の王族を自分の息子の嫁に迎える事については多少は思うところもあったみたいだが、勇者パーティーの聖女の娘を迎えるのは当時は国を挙げて歓迎されていたと言われた。


 俺はその婚約者のアンジェリーナと一度も会うこともなく、十数年が経った。

 国をまたいだ婚約は往々にしてそんな物だと俺は思っていた。

 まあ、見も知らぬ仲だし、どんな容姿かも全く知らなかった。


 アンジェリーナから一度手紙が届いていたようだが、色々と忙しい俺は側近達に適当に返事させていた記憶がある。



 16になって俺は帝国の学園に通うようになった。


 家庭教師について学園で学ぶことは全て終えていたが、学園では多くの人と接して人との付き合い方を学ぶようにと両親からは言われていた。


 初めての学園で、こんなに多くの同年代の者達と交わる機会など初めの俺は戸惑うことも多かった。


 その生徒達の中に教会から来た聖女ミーナがいた。


「第一皇子殿下にご挨拶させていただきます」


 ミーナはこの辺りでは珍しいピンク色の髪を靡かせて、心地よい声で俺に挨拶してきた。

 小柄だったが、キラキラ輝く緑の瞳は俺の心を惹き付けた。


 俺はミーナの立ち居振る舞いから目が離せなくなった。


 どうやら俺はミーナと恋に落ちてしまったようだった。


 しかし、俺には婚約者がいる。

 俺はミーナのことを考えるのを止めようと思ったのだが、本能には勝てなかった。

 同じAクラスに通う俺は、どうしてもミーナを目で追ってしまうのだ。


 そんな俺とミーナが相思相愛になるのに時間はかからなかった。


「エーベル様はお信じにならないかもしれませんが、私は予知夢をよく見るのです」

 ミーナは突然心配そうに話し出した。


「エーベル様の婚約者のアンジエリーナ様はとても嫉妬深い方で、私は散々虐められた後にアンジェリーナ様が雇った破落戸どもに襲われて、二度とエーベル様にお会いできないような体にされて殺されるのです」

 ミーナが言うことは突拍子もないことだった。


「まさか、そのような事にはなるまい」

 俺は一笑に付したが、

「でも、私にはその様がまざまざと夢に見えるのです」

 一度目は笑っていた俺も何度もその言葉を聞くとそうなのかもしれないと思うようになった。


 そもそも俺の婚約者はそのアンジエリーナなのだ。

 本来はミーナと愛を交わす事なんて許されることでは無かった。

 しかし、禁じられた恋ほど燃え上がるというではないか?

 俺はミーナを既に愛してしまっていた。


 そもそも俺とアンジェリーナの婚約は祖父の肝いりだった。

 何事にも厳しい祖父が俺が他の女と結婚するなど許されないだろう。


「ああこれが真実の愛と言う物なのですね。

 でも、良いのです。

 私はエーベル様と今だけの関係で。

 いずれ捨て去られる身分ですから」

 俺はそう言うミーナが愛おしくて仕方が無かった。


 この帝国にフランク王国のように側妃の制度があればミーナを側妃にしたいと俺は思うようになっていた。

 しかし、我が国の教会は厳格だった。

 俺はどうしようもない焦りを感じていたのだ。



 アンジェリーナがこの国の学園に入学するまで一年を切ったときだ。

「殿下、真実の愛をご存じですか?」

 側近の母の出身のランツフート侯爵家の次男のヨーナスが俺に話しかけてきた。

「今の俺とミーナの関係だろう」

 俺がそうやけ気味に言うと、


「それはそうですが、私は今の巷で人気の演劇の話をしているのです」

「演劇の話?」

 何でもヨーナスの話によると、我が帝国の隣の国アムス王国では真実の愛に目覚めた王女がおのれの騎士と駆け落ちして、無理心中を図ったというのだ。王女は一命は取り留めたが、護衛騎士は死んでしまい、王女は修道院送りになったそうだ。国民の多くはその王女に同情的だという。

 その事件を題材にした演劇が帝都でも流行っていて、人気になっているという。


「真実の愛か」

 俺は自嘲気味に言った。


「殿下とミーナ様のご関係ですな」

「うまくいかぬというのだろう」

 俺は暗くなった。


「そう一概には言えぬようですぞ」

 横から宰相の孫のユリウスが助け船を出してくれた。


「どういう事だ?」

「何でも、皇帝陛下は今回の殿下の婚約に対してもあまり乗り気では無かったそうです。それを昔の繋がりでフランク国王から頼まれて仕方なしに認めたそうです。ただフランク王国側でも前王妃のアンヌ様が亡くなられて側妃様が王妃様になられて状況が変わったようで、アンジェリーナ様は王国内では浮いておられるとか」

「それは私も聞きました。そのような娘を俺の孫に嫁がせるつもりかと陛下が切れられたとか」

 祖父の侍従の息子であるレオポルトも頷いてくれた。


「それは誠か?」

 俺はミーナとの仲に一抹の光が差し込むのを感じた。


「持って行きようによっては殿下とミーナ様の真実の愛が成就するかと」


 ユリウスの言葉に俺達はミーナや教会を巻き込んで謀を巡らせたのだ。


 元々他国の王族が嫁いでくることに反対していた母はすぐに賛成してくれた。

 その上で俺とミーナの仲を真実の愛だと皇宮内外で大々的に流したのだ。


 それと同時に教会側からも両親にアプローチして、父から祖父に話してもらうように頼んだのだ。


 しかし、祖父は踏ん切りが付かないらしく、

「約束は約束だ。破ることは出来まい」

 と否定的だったと聞く。



「やはり難しいではないか!」

 俺はがっかりした。


「そんな、エーベル様!」

 ミーナのすがるような視線に、俺は忸怩たる思いだった。


「しかし、陛下は今回の婚約に乗り気ではないみたいです。後一押しなのです。学園内でもアンジェリーナ様がミーナ様を虐める悪役令嬢伝説が流布されており、在校生の皆は殿下とミーナ様の真実の愛を応援しております」

「そうです。このまま噂が広まればいくら気が強いアンジェリーナでも、学園に居づらくなるはずです」

「というか、噂を聞いて、来ないかもしれませんよ」

 側近達はそう言って俺とミーナを応援してくれた。


「まあ、皆様はなんてお優しいんでしょう。皆様が何かあったときにはこの聖女のミーナが何としてでもお助けしますわ」

 ミーナが喜んで側近達に笑みを振りまいた。

 俺はそれに少しいらっときたが、ここは我慢だ。


 なんと俺達の祈りが通じたのか悪役令嬢のアンジェリーナは学園の始まる10日前になっても国境に現れなかった。


「例え現れたとしても、入学式に間に合わないようにすれば、プライドの高い悪役令嬢のアンジェリーナ様は怒って帰国されるのではないですか?」

 ミーナ達がそう言うので、俺は国境警備隊に、アンジェリーナを何かとケチを付けて国境を通すなと指示を出したのだ。


そう、その作戦はあと少しで成功するところだったのだ。


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