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演技であれば、ね。

 文のやり取りはあれからずっと続いてる。

 時々、たわいもない事を歌にして送り合う、そんなゆるい感じで。

 泉の君 ――湖で出会ったのでそう呼んでる。湖の君より泉の方が響きがいいのでそれで――

 彼がわたしのことを好ましく思ってくれてるのは分かる。

 しかしそれ以上踏み込んでこない事も。


 男女の恋愛の文であれば、きっと既に次の段階に進んでいただろう。

 でも。


 そうなればこの関係は続けられない。受け入れられることは無い。そう思うと、今のままでこの曖昧な関係であっても続けられる事がわたしの支えになっていたのだ。




 そして数ヶ月が過ぎ、冬に差し掛かろうかという時に都のおもうさまから一通の報せが届いた。


 あのにいさまが出奔した、と、いうのだ。


 ああ。とうとうそうなっちゃったか、と、思ったのが最初。


 手紙には、わたしに戻りにいさまの代わりをして欲しい、そういう旨の事が婉曲に書かれていた。

 それがわたしにとっても最良の選択だ、というような意味の事も。


 確かに。


 わたしが普通に女子として育ったというだけであればそういう結末が普通なのだろう。

 人生を正常に戻すチャンスでさえ、あるのかもしれない。


 でも。


 嫌だ。


 確かにこのままでは結婚も仕事も人生さえままならず、生きていくのも援助無しでは難しい。それは承知しているのだ。

 でも。

 ダメだ。


 宮中に出仕し仕事をこなすだけであれば、今まで学んだ学問の知識も活かせるしやり甲斐もあるのだろう。

 しかし、男性として振る舞えと言われても、どうしていいのかわからない。

 いや、演技であれば、可能だろう。物語や日記を読み漁ったわたしには知識はあるのだから。


 だけれども。


 どうしても男性として過ごし男性として女性と恋愛するという想像をするだけで、違和感と嫌悪感でいっぱいになる。

 そして。

 好きな人を好きでいられない、そう思うことが悲しい、のだ。




 おもうさまには曖昧な返事をして、わたしはここでの生活があとどれくらい続けられるのか、不安になっていた。

 呼び戻されるくらいならわたしも出奔しなくては、そうも思い。

 でもそうすると、泉の君には一生会えないな、と、悲しくなる。


 夜更けに、そう一人物思いにふけっていた時。


 ガタガタ、と、庭から音がする。


「瑠璃姫、いるかい?」


 御簾の中に滑り込みながらそう声をかけてきたのは、女姿のにいさまだった。

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