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みっともないほどに涙が溢れて。

 計画を決行するのにちょうど最適な夜。


 今夜は瑠璃との宿直が決まっている。



 ここの所自分との宿直を避けるように、都合よく物忌みだといって出仕しなかった瑠璃。

 しかし今日は右大臣家から牛車に乗って何事もなく宮中に入ったのを確認済みだ。


 しばらく接近しないようにもしていた甲斐もあったのか、あからさまに避けられると言うことも減っている。

 先日の失敗に対する怒りは溶けたのか?

 そうであってくれると有り難い。そうも思う。




 狙いは他のものが寝静まったあと、瑠璃と二人きりになる瞬間。


 自分が瑠璃を救うのだ。

 その為には。


 解らせなければいけない。


 彼女に自分の事を。

 こんな男社会で生きていてはいけないのだ、と、そういう事を。





    ☆☆☆




 ああ。もう。どうしようか。


 このまま生きていくのが辛い。



 あたしがいなくなったらみんなどう思うのかな。



 あたしはわりとさっぱりしてるだの心が強いだの言われるけど、そんな事はない。

 自分の子供じゃない子供が生まれて、周りのみんなから笑われているような気がして辛い。

 あたしなんか、居なきゃよかったって、そんな気持ちになって辛い。

 そもそもこんな生き方間違ってたんだと、そんなふうにも思えて辛い。


 というか、あたしの人生がすべて無駄だったようなそんな気持ちにもなってしまって。



 もう生きるのが辛い。


 時々、あの大きな川に身を投げたら楽になるのかな、なんて誘惑も心をよぎる。




 もう。


 本当に。


 どうしよう。



 ああ。

 もしかしたら。

 あたしが死んだら瑠璃姫はあたしになれるんじゃないかな。

 あたしの代わりに男性に戻れるのかも。


 それならそれでいいかも。

 うん。きっと、それが、一番いい。




 そんなこと考えてたら今日が宰相の中将との宿直だったっていうのをすっかり忘れ、出仕してた。

 あの出来事があった後、彼とはなるべく二人きりにならないように注意してた。

 あたしが女だとバレた事で、彼の歯止めが効かなくなったらと思うと怖い。


 男が怖い。

 以前では考えもしなかった。そんなこと。


 喧嘩でも負けない、そんな思い上がりもあったかも。


 でも。


 触られるのが怖い。

 自分が女だと思い知らされるのが、怖い。




 まあここの所避けてた甲斐があったのか、最近は大人しい。

 彼にも子供が出来た事でもあるし、一度四の君の去就についても話し合わないといけないかも。

 そんなことも考える。


 だから。





 月が雲に隠れ、人気の無くなった夜半。


 松明の光だけがあたりをぼんやりと照らす。



 宿奏(とのいもうし)を済ませて部屋に戻るとあたしは、

「話があるのですが」

 と、彼に声をかけた。


「ああ。私もだ」

 と、そう宰相の中将。


 微妙な空気が流れる中、あたしは彼と向き合って座ると。


「四の君が子供を産んだ。女の子だ」


 と、そう切り出した。



     ☆☆☆





 瑠璃の顔が松明の明かりで赤く照らされた。

「話があるのですが」とそう囁くように動く唇。


「ああ、私もだ」


 と、誘うように先に胡座をかくと、彼女も私の前に座った。


 その優雅な物腰は相変わらずでそそる。


「四の君が子供を産んだ。女の子だ」


「君の子だよね。どうするつもりですか?」


 そうぶっきらぼうに喋る瑠璃。


 ああ。嫉妬しているのか? そうか、それならば。


「わたしが大事なのは瑠璃、貴女だけだよ」


 そう囁き押し倒す。


「やめてください、貴方には四の君がいるでしょう」


 そう最初は抵抗していた瑠璃だったが。


 観念したのか無口になった。


「ああ。愛してる。瑠璃。愛しい人よ」


 そうそのまま彼女の唇を塞ぐ。


 彼女の瞳から、とめどなく涙が溢れた。




     ☆☆☆





 組み敷かれ、最初は抵抗したものの強引に押さえ込まれてしまったらもうどうしようもなく。


 自分の運命にも急に気弱になり。


「もう、どうしたらいいのか」


 と、みっともないほどに涙が溢れて、零れた。


 ああ。だから男なんて信用しちゃいけなかったんだ。


 あたしがバカだった。




 そう情けなく思っているところで、涙に怯んだのかそれとももう観念したと思ったのか少し抑え込まれる力が弱まるのを感じ。


 あたしは一気に飛び上がりその場から抜け出した。


「許さない! このバカ!」


 そう捨て台詞を残してその場から走って逃げる。


 狩衣の前が少しはだけてるけどそんなことにも構っていられない。




 あたしは暗闇に紛れ京の街を走り抜け、左大臣家の自室に飛び込むと、そのまま髪を下ろした。


 楓を起こして訳を話し。


 町娘が着てもおかしくないような着物を出してもらう。




 そのまま。


 その夜のうちに京の都を後にした。

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