11「神々の斗い」その3
『その男ケインは、この世界にいずれ破滅をもたらす。』
「♥『様』を付けろよデコ助野郎。そうと決まったワケじゃ無いですぅー。」
―俺はこの世界の、ゲームで言うトコロの『バグ』なのだろう。
バグを放置すればゲームに不具合が起きてゲーム進行が不能になったり、
酷い時にはデータが全て消えてしまうコトさえある。
だからゲーム製作時にはバグを徹底的に見付けては潰し、修復する作業が必要不可欠になる。
入れ替わった『神』は秩序第一主義で、完全にバグ潰しをしてこそ正しい世界だと思っている。
確かに俺という『バグ』が入り込んだせいで、この世界の理は変わってしまった。
この世界の責任者なら、俺を消去してこの世界を元通りの流れに戻したいという気持ちはあるだろう。
一方、俺をずっと助けて来てくれた『神様』は、真逆の価値観なのだ。
ゲームでもバグを利用して面白いプレイが出来るモノがあったり、
時には制作側がそのバグを利用して、快適なシステムを実装するコトだってある。
この世界に良い影響を与えるのであれば、『バグ』も世界を構成する要素の1つとして容認すべきだ、と。
だからこそ、逆に言えばいつも俺を目に掛けて、『悪いバグ』にならない様に導いてくれていたのかも知れない。
そうじゃ無ければ、神様が頻繁に会ってくれるワケが無い。
「聞いて下さい!ケインさんはこの世界の人々のために、今までずっと善行を積んで来ました!」
「そうっす!やくたたずだったオイラを、たすけてくれてくれたっす!」
「主は魔族のために『こんびに』を作ってくれた!民草が諸手を上げて歓迎しておる!」
「…マスターは困ってる人を決して見捨てない。マーシャは知っている。」
「ケイン殿はこの世界に必要なお方、ロリ・カイザーなのです!」
「オーナーはエメスの様なゴーレムにモ、別け隔て無く接して下さいまス。」
「その通りだわ!ダーリンはこの世界の歴史に残すべき大偉人よ!」
『それはお前達の目線でしか無い。神から見ればその全てが、本来起こってはならぬ事。』
「♥それすらも、お前の目線でしかありませんよー。」
『―平行線の様だ。話はここまでにすべきであろう。』
『神』がゆっくりと手を前に伸ばす。
8人の幼女は一斉に身構える。
「せんてひっしょーっす!!」
「…そうそう、そのとーり。」
パトルとマーシャが先陣を切る!!
パトルの大剣と、マーシャの蹴りが迫るが、『神』は全く動こうとしない。
そして2人の攻撃が命中!!…と思った瞬間、2人は消えた!!
と同時に、
ドサササッッ!!!
俺達の後ろで何かが落ちた音が。
振り向くと、そこには…、尻餅をついたパトルとマーシャがキョトンとしていた。
「な、何が起きたんですか!?」
「どうして前に飛び出して行った2人が、後ろにいるのです!?」
―転送だ!!
攻撃が当たる直前に、2人の位置を数十メートル後ろに飛ばしたんだ!!
「これならどうじゃ!!」
「付き合うわよ姫様!!」
デヴィルラとワイズィの魔法攻撃!!
だが、その火球と雷撃は『神』の手前で見えない壁に当たったかの様に、ピタリと空間に留まる!!
「何ぃ!?」
そして魔法は霧散した。
―今度は、自分に到達するまでの僅か数十センチの空間を、何百メートル、何十キロにも伸ばしたのか!?
それで魔法の具現時間が切れて消えてしまったのか…!?
「ずるいのです!!」
『―ならば我は何もせぬ。試せ。』
「それでハ、遠慮無ク。」
アスミスがハンマーを放り投げる!エメスが魔導砲を撃つ!
―が、『神』の体をすり抜け、その背後に突き刺さり、着弾、爆発した。
「!!」
『いかなる武器も神に触れる事は出来ぬ。』
全員が物音1つ立てずに静まり返る。
―「勝てない」。そう悟ったから。
これじゃ何をやっても、向こうに攻撃は決して届かない。勝負にならない。
今までずっと呑気に話し込んでいられたのも、ご都合的な展開じゃ無かったんだ。
太陽が西から登ろうとも俺達相手に負けるコトは絶対に無いから、余裕でお喋りさせてくれていたってワケか…。
『我はこの世界を正す。異世界から来たお前の及ぼした影響は、最早、無視出来る大きさでは無い。』
俺達は何も出来ずに『神』の言葉を聞き続ける。
『よって、この世界を終わらせ、新たに作り直す。』
「―終わらせるじゃと!?」
「それって、全てを消すってコト!?」
「何故そうなるんだ!?」
俺だけならまだしも、この世界の全てを消すだって!?
冒険者ギルドの顔見知りも、初めてのクエスト依頼の女の子も、宿屋の女将さんも、魔王様やコンビニ店員の魔族達、
武器屋のニート息子にそのお婆さん、メイドさんハーピーにデヴィルラの爺やさん、カツ丼屋の店主に蕎麦屋の若夫婦、
バザーの町のスリやハゲ男達、奴隷船の船長、アスミスのお父さんを始めとするドワーフ達、他にも一杯いる。
その人達まで、俺と関わったというだけで消してしまうのかよ!!
「そんな横暴は許されないのです!!」
『神はお前達の味方では無い。この世界の秩序を保つものである。』
―ギリシア神話に『4つの時代』という話がある。
最初の金の時代、人間は正直で争うコトなく幸せに暮らしていた。
が、銀の時代になると、人間は暴力的で傲慢になり勝手し放題になる。
そして主神ゼウスの怒りをかって、全て滅ぼされた。
そして、次の青銅の時代に現れた人間は更に好戦的になり、親兄弟まで殺す様になった。
主神ゼウスはほとほと呆れ果て、大津波を起こして再び人間を滅ぼした。
つまり、世界に害を成す『バグ』を消してリセットしたワケである。
この『神』がやろうとしているコトは、正しくそれなのだ。
俺達から見れば大虐殺。『神』から見ればただの雑草取り。その感覚の隔たりは余りにも大きい。
「♥おいおい、それは違反行為じゃねーのか?ですぅー。」
スレイが『神』に詰め寄る。違反行為?
だが、その言葉の意味を深く考えるヒマさえ無く、
『それには当たらぬ。そこのゴーレム、ここへ。』
「ゴーレム…?エメス!?」
『神』がエメスを名指しした。それにエメスが応対する。
「マスター不在の現状でデ、エメスに命令出来るのハ、オーナーだけでス。」
『―我がマスターである。』
「何ぃいいーっ!?」
「『神』が、あの謎だったマスター登録者…だったのです!?」
『神』のその言葉を聞いたエメスの様子がおかしくなる。
「―畏ま…りましタ。マス…ター…。」
エメスがゆっくり、一歩、また一歩と『神』の元に歩んで行く。
「い、行ってはダメなのです!!止まるのです!!」
「あんな奴の言うコト、聞くんじゃないわよ!!…ちょっ、みんなも手伝って!!」
「わ、わかったっす!!」
「…ヤッテヤルデス。」
パワー担当のパトル、マーシャ、アスミスがエメスを止めようとしがみ付く。
だが、その3人掛かりでもエメスの歩みは止まらない。
俺も遅れて助っ人に入るが、状況は変わらない。まるで徐行するトラックを相手にしているみたいだ。
一体何だよ!?この力!!まさか、これも『神』の力なのか!?
そう思った瞬間、俺達はエメスがメイドアーマーの装甲を大きく展開した勢いに弾き飛ばされる。
「うわぁあああっっ!!」
「大丈夫ですか!?ケインさん!!」
「♥あんちくしょー!ヤツの血の色は何色ですかぁー!」
そしてエメスは『神』の横位置に並ぶ。
「エメス!戻って来い!!」
「オーナー…、のご命令…、」
『撃て。』
「―畏まりま…」
「エメス!!しっかりしろ!!」
「オーナー…、エメス…ハ…」
『撃て。』
「―畏まりましタ。発射準備。」
「エメス!!」
駄目だ!!向こうの方が命令の優先順位が上だ!!
機械であるエメスに、システムに逆らえと言うのは無理なハナシか!!
エメスが魔導砲を撃つ!!
俺は咄嗟に魔剣を抜き、光弾を斬り付ける!!光弾は次々に空中で霧散して行く!!
こりゃ自分でやっておいて何だけど、ロボットアニメで見た『光になれハンマー』みたいだ。
「や、やれば出来るモンだな。理論的には可能だと分かっていても、怖かった…。」
「すごいっす!ボスー!!」
「最高よ!ダーリン!!」
「…ずっとマスターのターン。」
この世界のあらゆるモノのマナ結合を破断するアスミスの魔剣。
魔法相手でもイケるとは思ったが、ぶっつけ本番は緊張したわー。(汗)
『寿命が延びただけの事。今こそ汝の真の目的を果たせ。』
「―畏まりましタ。」
エメスのメイドアーマー装甲が展開され、空中で組み直され接合し、大口径の砲塔に姿を変える。
そこに集まる魔力は膨大の一語。
―これは一体!?
『ゴーレムは元々、我が、爪も牙も魔力も乏しいか弱き人間達に労働力として与えた物。
だが、愚かにも人間共はそれを魔族と戦うための兵器に転用した。そして魔族は、対抗してモンスターを作り出した。
争いは激化し、その末にこのゴーレムが生み出された。これは魔導巨人、その初号機である。』
「何だって!?」
『一旦稼働すれば制御不能となり、世界を滅ぼすと判り封印された哀れな機械人形。
破損して使えぬと思っていたが、こうしてお前達が直すとは皮肉なものよ。』
「記録に残っていたゴーレムと比べて異様に出来が良過ぎると思ったら、そういうカラクリだったのです!?」
大地が揺れる。空が歪む。空気が震える。
「―これが、今までセーブされて使えなかった武装…なのです!?」
「あれは…もしや無属性波動か!!」
「あれだってマナの塊だろ?だったら魔剣で…、」
「魔剣1本で防げる範囲じゃ無いわ!!」
「皆さん!私の後ろに!!」
無属性波動は絶対に防げない!!唯一の対処法は、プリスの最上級神聖魔法を用いて
衝撃波で負うダメージ分と同じ量の回復を、受けるダメージと同速度で全員一度に掛けるしか無い!!
魔族の国のコロシアムで、合体モンスターと戦った時の戦法だ!
でも、最上級神聖魔法は代償とするマナの量、『課金』もケタ違いだ。
一度使ったらオシマイの可能性が高い。ここを凌いでも、その後の作戦が全く浮かばない…!!
構えるプリスを見た『神』が、感慨も無く淡々と言う。
『蟷螂の斧にもならぬ抵抗。だが、煩わしい。』
「―!!うっ…、」
突然プリスが倒れた!!
俺は思わず抱きとめる。
「プリス!!どうした!?」
「♥魔力が空っぽになって、気絶してますぅー!」
「えぇ!?」
「♥プリスさんに神聖魔法を使われるのがイヤだったのですぅー。」
「畜生!!」
こっちは何も出来ずに、向こうは何でもアリかよ!!こんなのハンデどころじゃねーぞ!!
そして、エメスが構える大口径の無属性波動が光を放つ。
『消えよ。』
俺はみんなと目を閉じて抱き合う。せめて最後の一瞬まで一緒にいられる様に。
「♥まだですぅ!まだ終わらんですぅー!!」
『何?』
その時、飛び出したのは…スレイ!?
ドゴァアアアアアアーーーーーーー!!!!!!
スレイが俺達の盾になって、無属性波動を防いでいる!?
必死に伸ばすスレイの指先が、光に飲み込まれて行く!!
「スレイ!!…神様!!」
「♥ケイン様ぁー…、」
「!?」
「♥これからの冒険でも、辛く苦しい時があると思いますぅー。
でもぉ、みんなが今まで培ってきたものを信じて下さぁい。どんな苦境に打ちのめされてもですよぉー…。』
「あ、あぁあああ……!!」
俺達は何も言葉が出て来ない。
スレイは、顔をこちらに向け、ニッコリと微笑んで俺に言う。
「♥―スレイの冒険は、ここまでですぅ。」
「スレイぃいいいいーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!」
そして辺りは、全てが白に覆われた。




