12「神々の諧謔」その1
※前回のあらすじ
俺達を襲うプリス、パトル、デヴィルラ、マーシャ。
それは何と、俺達の知らない別の『神』が作ったニセモノであり、
一緒に冒険をして来たスレイこそ、俺達の知っている『神様』だったのだ。
『神』は太古のゴーレム、エメスにマスター登録をしており、エメスは『神』の軍門に下ってしまう。
そして俺や俺と関わった人達を、この世界の『バグ』だとして排除しようとする。
エメスの最大出力の一撃から、スレイ…神様は俺達を庇ってくれて…消滅してしまった!?
そして俺達の運命は…。
「…さん、ケインさん!」
「―!? …ん…?」
俺は意識を取り戻す。
目を開けると、そこには見知った天井。…中央都市の、俺達がいつも借りてる宿屋の部屋だ。
俺はハッとなって飛び起きる。
「え!?ここ、宿屋か!?…どうなってんだ!?」
「分かりません。私も今、目を覚ましたばっかりで…。」
俺を起こしてくれたプリスも、この事態に困惑の色が隠せない様子だ。
周りを見れば、他のみんなも倒れている。
―エメスと…、スレイの姿は無い。
ふと、俺は自分が何か握っているコトに気付く。
手を開いて見ると、そこにあったのは…
―スレイの…メンバープレート。
冒険者ギルドで、エメスやワイズィと一緒に冒険者登録した時に渡された、名前入りのプレート。
これをもらって、凄く喜んでいたっけ…。
俺の胸は、熱いモノが込み上げて来て詰まりそうになる。
―俺はそのプレートを握りしめ、ポケットの奥にしまい込む。
「取り敢えず、みんなを起こそう。」
「はい。」
俺とプリスはみんなを起こして回る。
1人起きる度に「―何で宿屋に!?」と、俺と同じ反応をしてくれる。
ちょっと可愛い。いや、凄く可愛い。
「私達は『神々の住まう場所』にいたハズなのです。」
「やどやでねていた、ってコトは、これはゆめっすかねー?」
「ここの7人全員で同じ夢を?無理過ぎないかしら?ソレ。」
「―じゃな。ならば、中央都市まで飛ばされた、というのはどうじゃ?」
「理屈は合いますが…何か様子がおかしいんですよね…。」
そこにマーシャが血相を変えて(無表情)、飛び込んで来る。
いないと思ったら、部屋のドアを開けに行ってたのか。
「…マスター、あ…ありのまま 今起こった事を話すぜ。
マーシャは 宿屋の部屋のドアを開けていたと思ったら いつのまにか魔王の住んでたお城に出た…。
何を言っているのか分からないって思うが、マーシャも何が何だか分からなかった…。」
「え、何!?」
「何じゃと!?」
全員が頭の上に『?』マークを出して固まる。
そしてドヤドヤと慌ただしく、揃って部屋のドアをくぐって外に出た。
―そこに広がっていたのは白亜のフロア。床には赤い絨毯。
俺も何度か来たコトがあるから覚えている。ここは確かにデヴィルラの父親、魔王様の住む城だ。
一番驚いているのは、デヴィルラだ。
「余の…城じゃ。」
「デヴィルラ。いつの間に、魔王城は中に宿屋を併設したんだ?」
「し、知らぬ知らぬ!!余は聞いておらぬ!!」
首と手をブンブン振って、否定するデヴィルラ。
そんな馬鹿なコトがあるワケ無い。しかし、この状況はそう言い表す他は無い。
デヴィルラは声を張り上げる。
「誰かおらぬかー!?」
声はフロアに反響すれど、誰も応える者はいない。
「誰か―!近衛はおらぬかー!…誰でも良い!応えよ!!」
気味が悪い程に静かだ…。
俺はデヴィルラの肩に手を置き、なだめる様に言う。
「デヴィルラ、ここは冷静に、だぞ。」
「―分かっておる。」
「ダーリン、これは少し変ね。」
「あぁ、かなり変だ。」
俺達7人はフロアを見渡す。
「何は無くとも、まずは現状把握と情報収集だな。手分けして調べてみよう。念の為、2人1組で。」
「でもケイン殿、それだと1人余るのです。」
「あ、そうだな…。」
「でしたら、ケインさんがここに残って下さい。」
「え?俺が居残り?」
「そうね。それが良いわ。情報は司令塔に集まるべきよね。」
幼女6人は俺を放置してどんどん話を進め、組み分けまでさっさと済ませてしまう。
みんな自主的で凄く助かるけど、ちょっと寂しい。
「それじゃあボス、いってくるっすー!」
「…おみやげ期待していて。」
みんな行ってしまった…。
こうなると、俺もココを動くワケにも行かない。
―大人しく宿屋の部屋で待っているか…。
どの位待ったのか。やがて次々にメンバーが帰って来る。
そして口にするのは、どれもこれもが驚愕の内容。
【プリスの報告】
「2階に、冒険者ギルドの喫茶店がありました。ケインさんと私がお茶した、あの喫茶店です。」
【パトルの報告】
「おくに、しょくどーがあったっす!オイラがボスにひろわれて、いっしょにいったしょくどーっす!」
【デヴィルラの報告】
「玄関から外に出たら…そこは裏口だったのじゃ。逆に、裏口から出ると玄関に来ておった。」
【マーシャの報告】
「…露天風呂があった。マーシャが初めてみんなと入った、温泉村のお風呂…。これ、おみやげの桶。」
更に奇々怪々な内容が続く。
【アスミスの報告】
「私の家の鍛冶場が、そっくりそのままあったのです!炉に火まで入っていたのです。」
【ワイズィの報告】
「アタシがいた『防人の塔』の最上階の部屋があったわ。本も全てそのままでね。」
―これは一体、どういうコトなんだ?
兎に角、大人1人に加えて、幼女とは言え6人もいると流石にこの部屋じゃ狭い。
プリスの発見した『ギルドの喫茶店』に場所を移そう。
宿屋の部屋から魔王城のフロアに出る。
そして、そのフロアの階段を登ると…、冒険者ギルド2階にあった喫茶店になっていた。
「マジかよ…。」
今さっきまで多くの冒険者達で賑わっていたかの様な生活感さえある。
取り敢えず、俺達はテーブルを合わせて椅子を集め、いわゆる『パーティー席』にする。
そこに座ると、誰とも無く出て来るのは、事態が飲み込めずに漏れるため息。
「―何か、もう、さっき出た『夢』というコトで片付けたくなって来たな…。」
「ケインさん。気持ちは分かりますが、それはどうかと…。」
「のう、アスミス、ワイズィ。2人の部屋は紛うこと無き自室であったのか?」
「はいです。小物の位置も、工具の擦り減り方まで全く同じだったのです。」
「棚の本の並びも、筆跡も一緒だったわ。アタシがこの旅に行く時に持ち出した本の分、ちゃんと隙間が空いてたしね。」
つまり、誰かが精密なスタジオセットを組んで俺達を放り込んだ、ってワケでは無さそうだな…。
「…はい、マスター。」
「どうした?マーシャ。」
「…喉乾いた。」
俺達は、空気を読まないマーシャの一言に思わず破顔する。
いや、言われてみればそうだな。色々あり過ぎて、落ち着くためにも何か飲みたい気分だ。
「そうだな。俺はコーヒーが飲みたい。」
「私はメロンソーダですね。」
「オイラ、げんまいちゃっす。」
「紅茶をストレートで欲しいのう。」
「…コーラフロート。」
「私はほうじ茶が飲みたいのです。」
「やっぱりミルクティーよね。」
見事に全員バラバラだな。(苦笑)
こういうのも個性豊かと言うべきかねぇ。
「―ん?ボス!!コーヒーのにおいがするっす!」
「そんな馬鹿な…ん!?本当だ!!」
みんなも匂いに気付いたのか、辺りをキョロキョロと見渡す。
「あそこっす!!」
パトルが指差したのは、奥にある配膳口だ。
そこには、俺が飲みたいと言ったコーヒーを始め、全員分の望んだ飲料が並んでいたのである。
「え?いつからあったのです?全然気が付かなかったのです!」
「―これ見て下さい。コーヒーも紅茶も、湯気が立っていて熱くて淹れたてです。
私のメロンソーダとマーシャのコーラフロートの氷も、少しも溶けていません。」
「つまり何じゃ、今、我々の注文を聞いて、ココにポンと出て来た…と言うワケか?」
「でも、厨房には誰もいないわよ?」
「…ペロッ…これは…アイスクリーム。」
『気を付けろ』と、俺が言う前に、マーシャが既にコーラフロートのアイスを舐めていた。
―本物か。
こうなると、今の俺達に出来るコトは…、
「ずずず…ふぅー、美味い。本当にコーヒーだな、コレ。」
もう開き直り、7人揃って出されたモノを飲んで一息つくだけだ。
「おいしーけど、さすがにきみわるいっすねー。」
「うん…。まぁ、話を続けよう。この建物にあった部屋は、みんなが見付けたので全部か?」
「今のトコロはそうね。こんな不思議な状況じゃ、これから増えたり減ったりするかも知れないけど。」
さもありなん。(汗)
で、これからどーしたモンかねぇ。
「全員で各部屋を確認してみてはどうかのう?1人では見落としていたコトにも、誰かが気付くやも知れぬし。」
「その位しか、今はやるコト無さそうだしな。よし、決定。」
「それじゃ、しょくどーにいくっすよ!!」
「パトル…。貴方もしかして、お腹が空いただけなのでは?」
「げ、なぜバレたっすか?」
また起こる笑い声。
ウチのメンバーの良いトコロは、いつもこういう自然体ってコトかな。
やって来た食堂。ココに来て試すコトは、もちろん1つ。
「えっと、ハンバーグステーキセットを。コーンスープとパンでお願いします。」
「おこさまランチのおおもりっす!!」
「ハンバーガーセット。ピクルス抜きで所望じゃ。」
「…ラーメン餃子セット。ライスを半チャーハンで。」
「唐揚げ定食を、胸肉でお願いしたいのです。」
「ケーキセット。マジパンのダーリン付きで。」
マジパンで俺とか、何だよそりゃ。(汗)
ここまで聞いたら分かると思うが、みんなには敢えて難易度を高くした注文をしてもらった。
この不思議な現状が、どこまで『アリ』なのかを確認するためだ。
そして俺は、更に注文のハードルを上げてみる。
「カップ焼きそばが食べたい!」
カップ焼きそばは、俺が転移したプリス達の住む世界にはまだ無い。
さあ、どう来る!?
―今、俺の目の前には、白いスチロール製容器に入って、湯気を立ている『カップ焼きそば』がある。
みんなの前にも、注文通りのモノが1つも欠けるコトなく並んでいる。
完敗だ。(汗)
しかも、注文して出て来るまでが一瞬。気が付いたら『そこにある』状態。
みんな自分の注文したモノを、神妙な面持ちで睨んでいる。
「出てしまいましたね…。」
「出てしもうたのう…。」
「マジパンでもダーリンって素敵ね…。」
「…注文通り。完成度高けーなオイ。」
取り敢えず、冷めたら勿体無い。ここは何も考えずに食べよう。
「「「「「「「いただきまーす!」」」」」」」




