09「温泉回再び」その3
急いで顔と頭を洗った俺は、心を落ち着かせるためにエメスを風呂場の椅子に座らせ、ボディを洗ってあげている。
ゴーレムは肌が汚れると、エネルギーにしている大気中のマナの吸収率が落ちるからな。
それにエメスには…、その…アレが付いて無いから無心になれるんだよな。ほら、乳首と性器がさ。
「どうだ?洗い足りないトコロとか無いか?」
「はイ…。とても快適…でス。」
エメスの身体が上気して桃色になっている。ゴーレムもお湯で温まるとこうなるんだな。
後ろを見ると、湯船に浸かったアスミス達がジト目でこちらを睨みながら、何やら呟いている。
「羨ましいのです…。」
「あのエメスの反応…、ココでそう来たかってカンジね…。」
「♥ケイン様ぁー、お背中流しましょ―かぁ―?」
「いや、いいって!ゆっくり浸かってろ!」
「♥えー?でもぉー、いつもはパーティーの4人の子にぃー、泡まみれの身体で洗ってもらってたんですよねぇー?」
な、何故それを知ってるっ!?誰にも言ってなかったハズだぞ!!
それを聞いてザバッと湯船から上半身を乗り出す2人。
「そ、それは本当なのです!?ケイン殿!!な、なら、貧相な私の身体でも宜しければ…!!」
「そういうコトは早く言いなさいよね!してあげないアタシが悪者になるじゃないの!!」
ヤバイ!野ネズミを見る猛禽類の様な目つきしてる!!こりゃもう逃げるしか無い!!
俺は風呂場からエスケープ!!
―なお、まにあわんもよう。エメスが俺の腕を左手の重機アームでガッシリと掴んでいた。
「オーナー、洗っていただいたお返シ、致しまス。」
「♥スレイも突撃でぇーす!!」
うわぁあああああああああああ!!!!!
「決めたわ!今日からアンタのコト、ダーリンって呼ぶから!!」
「わ、私は旦那様とお呼びしたいのです!」
「エメスモ、オーナーの呼称を変更するべキ、でしょうカ?」
「♥ケイン様ぁー、真ん中が凹んでいる金色の椅子、見付けましたぁー!」
「どこにあったんだよ!?そのス◯ベ椅子!!使い方も知らんクセに!!」
「♥いえ、分かる!分かりますぅ―!スレイの本能が使い方を理解していると訴えますぅー!」
「お前のアタマは淫猥ハッピーセットか!?」
4人の幼女に揉みくちゃにされるという混沌の中で俺は気付いた。
風呂場の壁に開けられた覗き穴から、ドワーフの露天風呂管理人の目が見えていたコトに。
テメェ、そっちは女湯だろうが!!
そして狂騒が過ぎて、その翌日。
最初の目的だったゴーレムのお披露目。
エメスの紹介をしたコトで、技術系ドワーフ達は大盛り上がりとなり、毎日、朝から晩まで研究会が催され、
俺達がこの村に訪れてから、本当に三日三晩不眠不休の勢いで白熱した論議が展開されていた。
何か1つ試したり見たりするにしても、俺以外の命令ではエメスは了承しないので、仕方無く俺も強制参加。
戦闘では一時的に他のパーティーメンバーの命令も聞く様に出来ていたのに、頑固だなぁ。
そこで判ったコトが幾つか。
まず、エメスの目の照準機能がズレていたコト。
イカクラーケン戦で魔導砲を撃った時、ワイズィが「ヘッッタクソ」と言ったのは、それが理由だったのだ。
照準がズレて急所から外れたため、あの後、イカクラーケンは再度浮上して襲って来てしまったワケだ。
先日のツインモンスター戦で問題が無かったのは、近接戦闘だったのでズレが誤差範囲内に収まっていたのである。
これは長期間放置されてた影響だろう。
「どうやって直せば良いんだ?」
「エメス本人はちゃんと狙っているツモリなので、このズレは自分では修正出来ないのです。
誰かが実際に狙って、お手本を見せて修正してあげるのが一番なのです。」
―というワケで、外に出て射撃訓練だ。
岩に☓印を書き、イカクラーケン戦と同じ位の距離を取る。魔導砲のパワー指定は最小だ。
まずエメスにそのまま撃ってもらうと、 …成る程、隣の岩に当たった。かなりズレが大きい様だ。
「じゃあ修正だ。誰か射撃の上手な…弓とかの得意な人を―、」
「オーナー、お願いしまス。」
―え? エメスが自分から、自分の意志で俺を指名して来た!?
「いや、でも俺は弓とか得意じゃ無いし、」
「オーナー、お願いしまス。」
食い気味に頭を下げて俺に頼むエメス。何だ、この圧は…。
「ちょっとアスミス!見た?今の!?」
「はいです。これはひょっとすると、ひょっとするです…。」
アスミスとワイズィが何やらコソコソ話し合ってるが、まぁいいや。
こりゃ仕方無いな。俺はご要望通りエメスの後ろに立つ。彼女の背だと後頭部が俺の胸辺りに当たる。
砲に変形した彼女の右腕をそっと持つ。ピクン!と震えるエメスの腕。
「あっと、どこか触っちゃ駄目なトコロがあったか!?」
「―いいエ。支障…ありませン。」
俺は屈んで、エメスの腕越しに照準を定める。俺の顔がエメスの耳元に来る位置だ。
「あッ…、」
またエメスが震える。
「おい、本当に大丈夫か?どこか調子悪いとか…?」
「―いエ、大丈夫…でス。」
その光景を見て、まーたアスミスとワイズィがジト目で何か話してる。
エメスに再度撃ってもらう。 今度は☓印の僅かに上だ。惜しい。
俺もゲームでMMORPGはやり込んだけど、FPSとか射撃のプロってワケじゃ無いからなぁ。なかなか上手く行かない。
もう一度調整。 今度は上手く行った。見事、☓印のド真ん中に命中!
「よし、今の感覚を忘れるな。」
これ、言ってみたかった台詞ね。(笑)
「―もう終了…なのですネ。有難う御座いまス、オーナー。」
ペコリと頭を下げるエメス。顔を上げると、その頬にピンクのブラシが掛かって、にこやかに微笑んでいた。
おぉ、可愛い!!
「ワイズィ殿!今のエメスの顔、どうです!?」
「えぇ。いずれこうなるとは思っていたけれど、予想以上に早かったわね…。」
「ん?2人とも、何のハナシ?」
「ダーリンは気にしないで良いのよ!!」
「お、乙女の秘密事項なのです!」
何だそりゃ…。
「♥ケイン様はモテモテですよねぇー。」
「こんなあしらい方されるのがモテ期だとは思わなかった…。」
次に判ったコトは、エメスは不完全体だという事実。
これは左腕や目のコトを指して言っているのでは無く、元は外装があったのだろうという推測からである。
エメスの出力の大きさから計算すると、魔導砲よりも更に大きな威力の武器が装備されているハズで、
それが現状で使用出来ないのは、外装が紛失しているコトで本体にダメージが及ばぬ様にセーブが掛かっているからだろう、というワケだ。
これに関して以前、エメスにも聞いてみたが、
「現在の装備ハ、記憶に親近感がありまス。時間を頂けれバ、詳細な情報が引き出せると思いまス。」
現在の装備…、つまり、今着ているメイド服が昔の正式な装備に『近い』ってコトか?
どーゆーコトだ?昔もエメスはメイドだったのかな?でも、戦闘系ゴーレムなんだよなぁ…?
「そこでエメスの記憶情報を元に、我々技術系ドワーフが総力を結集して作ったのが、この装甲なのです!!」
勢いも良くそう言って、アスミスがエメスを連れて来る。
まるで新しい服を買った時の自宅ファッションショーのノリだな。こういう時、男は得てして退屈なのだが…。
どれどれ…。ん?これが装甲?これが鎧なのか…?
「エメスがメイド服に親近感を持っていたと言っていたので、メイド服をデザインのメインに据えたのです。
しかしながらこの『メイド服』は至って強固、全てが合金による装甲部品の集合体なのです。」
それはパッと見、ちょっとロボットっぽい『メイドアーマー』とでも言うべきデザインだった。
「惜しむらくは、ここまで作ったものの、左腕を復元しないと装甲の能力も完全には引き出せないというコトなのです。」
「技術系が大勢いるんでしょ?ここで左腕も直せないの?」
「痛いトコロを突かれるのです。流石は太古のゴーレム技術、恐るべしと言ったトコロで、
我々でもこの腕の完全復元は、まだまだ困難な様なのです…。はぁ…。」
「♥あー、しょげちゃいましたぁー。」
「ちょっ…、アタシが悪いみたいじゃない!?―わ、悪かったわよアスミス。そんなつもりで言ったんじゃ無くって…、」
「お気になさらずとも良いのです。精進すれば、技術は必ず追い付けるモノなのです。」
健気なアスミスがいじらしい。
ちょっとでも元気付けてあげられたらなぁ…。 ―そうだ!
「アスミス!その左腕の復元だけど、中央都市に行けばどうにかなると思うぞ。」
「え?それは本当なのです!?し、しかし、一体どうやって…!?」
「それは着いてのお楽しみだ。」
エメスが微笑んで俺に会釈する。
「オーナー、これからモ、ご寵愛よろしくお願い致しまス。」
「お、おう。」(汗)
ツインモンスターの襲来やエメスの装備改造と、何だかんだでドワーフの村で3日間を過ごし、
ドワーフ達に見送られながら俺達は一路、中央都市に向かうのだった。




