09「温泉回再び」その1
※前回のあらすじ
アスミスの故郷であるドワーフの村に行ったら、モンスターが横に繋がったツインモンスターの襲撃を受ける。
苦戦する中で起死回生となったのは、以前にアスミスが究極の剣として打った『魔剣』だった。
誰も持つコトさえ出来ないハズの『魔剣』を俺が振るえたコトで、またまたメンバーからの評価が高まってしまった。
ここはドワーフの村の奥、採掘場。
岩山に幾つもの採掘用の穴が空き、日々引っ切り無しにドワーフ達が出入りしている。
ただ、今日は話が別だ。
大勢のドワーフ達が仕事を放り出し、俺のパーティーメンバーも含めて全員、俺も含めて
『あるコト』で、ため息混じりの感嘆の声を上げている。
「これは…本当に凄いわね…。」
「♥うわー、町で売ってる鏡よりも綺麗に顔が映ってますぅー。」
みんなが囲んでいるのは1つの岩。今、アスミスが打った『魔剣』で、俺が試し斬りをしたトコロである。
岩は見事に袈裟斬りとなり、まるで磨かれた様に綺麗な切り口を見せていた。
「ツインイノシシボアを斬った時もそうだったけど、手応えがほとんど無いんだよな。
包丁でキャベツとか切ってる時よりも軽いんだ。もう、何て言うか、素通りに近い感触だよ。」
「オリハルコンすら真っ二つに出来るんだから、そうでしょうね…。
ね、アスミス。この剣の最初の試し斬りって、どうやったのよ?コレって、持ったら即ダウンでしょ?」
「はい。剣に長けた戦士系ドワーフに頼んだのですが、オリハルコンの棒を前にした途端、バッタリと行ったのです。
偶然にも倒れ込んだトコロにその棒があり、『斬れた』というワケなのです。
今こうしてみると笑い話ですが、あの時は騒然としたモノなのです。」
いや、笑い話じゃ無いだろ、それ。(汗)
て言うか、こんな伝説級の武器を8歳で…つまり、去年に作っちゃったのか、アスミスは。
彼女は俺のコトをロリ・カイザーとして敬愛してくれてる様だけど、いやはや、彼女の方がずっと優秀じゃないか。
一体、どういう理屈でこんな凄まじい切れ味が実現してるんだ?
「ワイズィはこの剣、どう見る?」
「多分、アスミスはこの剣のコンセプトを考えた時、『斬る』という意味を『物体のマナ構成を崩す』と解釈して、
コレを作ったんじゃないかしら?
この剣は触れた相手…この剣を握る者は勿論、斬られる相手も含めて、剣が魔力を瞬時にマナに変換して吸い出し、
大気中に放出する…といった理屈でしょうね。」
この世界のあらゆるモノ、動植物から石や水に至るまで、マナは物質を構成するモノとして含まれている。
それを吸い出してしまえば、この世の全ての物質は原型を留めているコトが出来ずに崩壊する。
―つまりこの剣の触れた跡には、物質が崩壊して生まれた『切断面』が残る、というワケか。
「流石はワイズィ殿。ご明察なのです。」
おぉ、正解だったか!やっぱりワイズィは賢いなぁ。
「普通の剣は刃を鋭く研ぎ、物体への接地面積を0に近付けるコトで大きな圧力を生み出し、
その力で物体を構成する結合力を打ち破り、崩し、進んで行く。これが『切る』というコトなのです。」
そうか。普段、漫然と剣を振るっていたけれど、改めて理詰めで説明されると『切る』って、そういうコトだったんだ。
「しかし、それでは刃の素材や振るう力、剣の技術に切れ味が左右されてしまうのです。私はソコが不満だったのです。
そこで、一切の力も技術も必要としない『切断』を模索し、力で物体の結合力を破壊するのでは無く、
物体に含まれるマナを吸い出すコトで、物体の構成そのものを消失させるコトを思い付いたのです。」
ワイズィが滅茶苦茶に微妙な顔をしている。
「―ソレって、危険思想よねぇ? 理論的には、この世界の全てのモノが切れるって意味じゃない。」
「いやはや、若気の至りなのです。」
「今だって幼女だろ!!」
成る程、対象物の魔力を吸って放出するワケか。だから、魔力を持たない俺は平気だったワケね。
―何か、俺が魔力を持って無いコトが、意外にメリットになってる場面って多い気がする。
魔導巨人の放った消滅の光の時も、バザーの町でやった腕相撲の時も、そして今回も。
どれもこれも、この世界で魔力を持った相手に通用する裏ワザ的なモノだから、
この世界の住人じゃ無い俺がそれに対応しないのは当たり前、と言えばそれまでなんだけどね。
「ところでアスミス。この剣って、刃も切っ先も鍔も握りも鞘も付いてないよね?」
この『魔剣』、長さは1メートル程。幅3センチ、厚さ7~8ミリといった長細い四角い板。
何も知らずに見たら誰でも俺と同じで、金属製の定規くらいにしか思えないだろう。
「先程も説明しました通り、相手のマナを吸い出して物質構成を破壊するので、刃を付ける必要が無いのです。」
「鍔は?」
「この剣には『相手の武器を受け止める』という概念が無いのです。打ち合った時には既に相手の武器が斬れているのです。」
「握りは?」
「振るうのに力が要らず、手を痛めるコトも無いので必要無いのです。」
「鞘は?」
「剣に刃が無いから、怪我するコトもないですし、剣を傷から守る必要も無いのです。
それに、そもそも鞘に納めた時点で鞘が斬れてしまうのです。」
「納得…。」
使用時において剣の常識を破った結果、無駄が一切削ぎ落とされて、形状まで常識破りになったワケか。
「―で、何で周りはこんなに盛り上がってんの?」
俺の周りにはドワーフ達が戦闘系、技術系問わずに群がっており、岩の切り口を見てはあれこれと感想を言い合っている。
「この剣でちゃんとした試し斬りをしたのは初めてですので、皆、興奮しているのです。
かくいう私もこの成果に先程から膝が笑い、手に汗握り、頭は興奮し、我を忘れる5秒前なのです。」
「忘れないでくれ。頼む。―もう実験は良いだろ?この剣、家に返しに行こうぜ。」
そこへアスミスの親父さんが前に出てきて、俺に言う。
「そのコトなのであるが、この『魔剣』、ロリ・カイザー殿に持っていてもらいたいのである。」
「―え!?」
「はい父様、私もそれが良いと思うのです。」
「そうね。異議無しだわ。」
「♥はーい。スレイも賛成でぇーす。」
「オーナー、それが宜しいかト。」
全会一致かよ!!
「どうせアンタ以外には扱えないんだし、ココに置いてても宝の持ち腐れでしょ?」
「誰かに盗まれるコトも、悪用されるコトも無いし、安心なのです。」
「オーナーノ、ひいてはパーティーの戦闘力の向上にニ、役立つかと思いまス。」
「♥専用武器なんてカッコ良いですぅー。あ、スレイもケイン様専用のぉー、性、」
「それ以上言うな!!」
あ、危なかった…。この大勢の前で何を言おうとしてんだ、この脳ミソ桃色メリーゴーランドは!!
でも、俺が持ってて良いのか?
「英雄であるロリ・カイザー殿が使ってくださるのであれば、この『魔剣』の汚名も雪げるというモノである。」
あぁ、そーゆーコトか。確かに『持ったらブッ倒れる不吉な剣』よりは聞こえが良いもんなぁ。
でもなぁ…。これ、凄く危険な剣だよね。何の苦労もせず何でも切れるって、チートアイテム過ぎる。
これじゃ剣術を研鑽したり、身体を鍛えたり、そういったコトの意味が無くなってしまうぞ…。
「オーナー、僭越ながラ。」
「うん?どうした、エメス?」
「誰にも使われない道具ハ、不憫だと思うのでス。」
「!!」
「私も同意見なのです。武器は使われなければそのまま朽ちて、その一生が鉄クズと変わらないのです。
この剣も誰かに使われてこそ、この世に生を受けた意義があると言うモノなのです。」
「……。」
「エメスはオーナーと皆様に発見していただキ、こうしてお仕えするコトデ、生まれてきた意味を探せまス。
ですかラ、オーナーのご慈悲でその剣にモ、エメスと同じ機会を与えてあげていただければと思いまス。」
しずしずとエメスが俺に最敬礼する。
―まいったな…、エメスがここまで感情豊かに自分の意志を明言するなんて…。
しかも、すっごい良いコト言ってくれるじゃないか。
そう言えば、武器と共に生きる獣人族のパトルも似た様なコト言ってたっけ。
「アンタ、ここで断ったら男じゃ無いわよ?」
「分かってるって。」
ワイズィにもせっつかれ、俺の心は決まった。
「よし!有り難く受け取らせてもらうよ。この剣を持ったからと言って、決して傲慢にならないって約束する!」
「流石はケイン殿!」
「それでこそ、アタシのアンタよ。」
「♥ケイン様、素敵ですぅー。」
「オーナー、感謝致しまス。」
かくして俺は、アスミスが冒険者の町で打ってくれた剣とこの『魔剣』の2本を携え、変則的な二刀流となるのだった。
ちなみに、何故この『魔剣』を俺が平気で扱えるのか?という根本的な疑問に対しては、周りは誰も彼も
『だって、ロリ・カイザーだから…』で済ませてしまった様だ。 お前ら、良いのかソレで。(汗)
その後、何人ものドワーフが自分の武器も使って欲しいと願い出て来た。
「ロリ・カイザー様、どうぞご覧下さい。このハンマーは従来製品に比べて横幅を5ミリ小さくしております。
これにより、手が小さいお子さまや握力が弱い高齢者でも持ちやすくなっております。」
「人間のお子様や高齢者がウォーハンマー持つのかよ。」
「え、えー、また、重量を10キロから9キロに変更したことで、
従来品に比べ、筋肉への負担が約1割軽減され、振りやすくなりました。」
「それって、ハンマーとしての威力も1割減ったってコトだよな。」
「し、失礼しましたー…。」
どこの牛乳パック商法だよ、全く…。(汗)
「嘆かわしい売名行為なのです…。お恥ずかしいです。」
その夜。俺は露天風呂で汗を流していた。
このドワーフの村には温泉が出る。魔導巨人がビーム攻撃をした影響で地質変化が起こり、
豊富な鉱石が採れる様になったのと共にもたらされた恩恵らしい。
アスミス達は勿論、女湯の方に入っている。ずっとプリス達と一緒に入ってた頃を思うと、ちょっと静かで寂しい気もする。
いやいや、何を言ってるんだ俺。本来コレが男女のあるべき姿なのだぞ。
ドワーフの温泉管理人にはこう言われた。
「いいっぺか兄ちゃん!女が露天風呂に入るってコトは、覗いてくれって意味なんだっぺ!」
「何故そうなる!?」
「考えてもみっぺ!覗かれたく無けりゃ内風呂に入りゃ良いっぺ?わざわざオープンな場所で裸になるっぺさぁ、
つまり、そんだら覚悟…いや、女には覗かれたいという期待があんだっぺ!んなコトも分かんねぇっぺか?」
「―理屈は通ってる!!だが、オカシイぞアンタ!!」
危うく言いくるめられて、風呂場の壁にこれ見よがしに開けられた穴から女湯を覗くトコロだった。
管理人自ら覗きを推奨してんじゃねーよ。
何だよ、穴の横の張り紙の『天国はココにある!→●』って。(汗)
大体、万が一覗いてあの生真面目なアスミスと毒舌のワイズィにバレでもしたら、もう一生クチきいてもらえなくなるわ。
いやその前に、100tハンマーと魔法の連発でボッコボコにされるだろうな。
覗かれても平然としてるのはゴーレムのエメスと、脳ミソ桃色宙返りコースターのスレイ位なモンだろ。
バターン!!
「♥『突撃ぃ!隣の男湯』の時間でぇーっす!!」
「ファッ!?」




