08「剣ヶ峰の里」その3
ボフッ!!
―っ、む!? 何だこの柔らかさは? エアマットでも敷かれていたのか!?
凄く甘くて良い匂いまでする。この匂い、前にも嗅いだ覚えが…!?
「♥だいじょーぶですかぁー?ケイン様ぁー。」
「―!! スレイ!?」
エアマットだと思ってたのは、スレイの特大おっぱいだった。
俺はスレイの柔らかく弾力のある爆乳の谷間に顔を突っ込んだおかげで、一命を取り留めたのだ。
「ぷはっ!! ―はぁはぁ…た、助かった…!!」
「♥ご無事で何よりですぅー。」
「あ、ありがとうな、スレイ。お前がいなかったら、顔から地面に突っ込んで首の骨が折れてたわ…。
―え?ちょっと待てよ?お前…、さっきまで俺と一緒に上にいなかったっけ?」
そうだ、そうだよ。スレイは俺達と一緒に屋上の広場に向かい、そこで周りの避難や救護の助けをしていたハズだ。
「♥イヤですねぇー。スレイは最初からココにいましたよぉー?」
「んなバカな?」
「♥それよりケイン様ぁー、あのモンスター、どーしますかぁー?」
「う…、そうだな。今はそっちが最優先か。」
色々と疑問はあるがここは切り替えて、ツインイノシシボアを倒すのが先決だ。
しかし、あの暴走トラック並のヤツをどうやって…。
あ、剣が無い。牙で跳ね飛ばされた時に、どこかに飛んで行ったか…?
「♥ケイン様ぁー、コレ見てくださいー。」
「ん?あれ?ココ、アスミスの家か!?…そうか、爆走するツインイノシシボアに飛ばされて、
―で、屋上広場を突っ切って、アスミスの家の真上まで来ていたってワケか。」
スレイは俺の手を引っ張って、アスミスの家の中へと入って行く。
親父さんはいなかった。どこかにこの事態の連絡に行ったのだろうか。
「♥ケイン様ぁー、コレ、使っちゃいましょうよぉー。」
「はぁ!?」
そう言ってスレイが指差したのは、棚の上に安置された金属製定規。
―いや、アスミスが打った『魔剣』だ。
「いや、コレ、握るだけでブッ倒れるってシロモノだぞ!?」
スレイは何の躊躇もせずにその『魔剣』を取って、
「♥はい、パスですぅ。」
ポイと投げて寄越す。
「おわっと!」
思わず俺はそれを手に取ってしまった!
―ん?あれ? 何とも無い?
「♥ほらぁー、やぁーっぱりケイン様なら大丈夫でしたぁー。」
「ど、どうなってんだ、コレ? …スレイ、お前は平気だったのか?」
「♥スレイは運が良いですからぁー。」
こんなコトまで運任せか!!
いや実際、スレイの運の良さは、いちいちあれこれ考えるのが面倒臭くなる程に神憑り的なんだけどもな。
「♥ケイン様ぁー、ホイ。」
「え?」
そんなコトを考えていたら、スレイが不意に俺に向けて何かを投げて来た。
俺は驚いて、反射的に右手で持った『魔剣』を振る。
キィン!!
甲高い金属音がしたかと思った次の瞬間、俺の足元にゴトリと何かが落ちて来る。
―それは淡い金色をした鉱石。 …オリハルコン!?
え!?今、俺、オリハルコンを斬ったのか!? ほとんど手応え無かったぞ!?
「♥ホラホラぁー、これなら、あのモンスターも三枚におろせますよぉー。」
「いや、コレは…三枚どころか、なます切りだって楽々だぞ…。」
とんでも無い切れ味だ。いや、斬ってるという感覚すら無い。触れた相手が勝手に真っ二つになってるというカンジだ。
確かにコレならツインイノシシボアを倒せるかも知れない。
疑問だらけになって来たが今はコレをチャンスと考え、迷ってるヒマは無いか。よし、屋上広場に戻ろう!!
「♥モンスターの解体ショー開催ですぅー!」
「寿司屋のマグロかよ!!」
アスミスの家を出ると、目の前に誰かが現れた。
「オーナー、ご無事ですカ。」
「うおっ!エメスか!」
エメスが上の屋上広場から飛び降りて来たのだ。
「戦況は?」
「ツインヘビスネークとツインノラドッグハ、殲滅完了しましタ。現在ワイズィ様がツインイノシシボアと交戦中でス。」
「そうか。でも、何故お前はここに来たんだ?ワイズィと一緒に―、」
「ワイズィ様のご指示でス。オーナーへの援助を優先しろト、仰りましタ。」
くぅっ!憎いコトしてくれるぜ! でも丁度良かった。
「エメス、俺を抱えてここから屋上広場まで飛べるか?」
「支障ありませン。」
「よし、頼む!!」
「畏まりましタ。」
また内部通路を走り回るのは一苦労だもんな。第一、もう道順を覚えていない。
でも、これなら一発で上まで戻れる!
「♥ケイン様ぁー、頑張ってぇー!」
「おう!お前も気を付けて避難誘導してくれ。」
「♥うけたまっ!」
敬礼をするスレイをそこに置いて、俺はエメスの肩に手を回す。
「参りまス。」
ジャンプ一発!! 一瞬、凄いGが掛かったが、もう屋上広場の上空だ。
エメスが俺の腰に手を回して掴んでくれていたお陰で、難無く着地出来た。
「ケイン殿…!」
「来た…わね…。」
見れば、アスミスとワイズィが倒れている。周りの壁や柱もボロボロだ。
これ全部、ツインイノシシボアの突進で壊れたのか!?
そのツインイノシシボアは、炎系魔法を受けたのか身体から煙を燻らせているが、まだ健在。
ブルルッとその身をを震わせ、次の突撃へと前足を掻いている。
「二人とも大丈夫か!?」
「生命には別状無いのです。ただ、もう我々ではヤツへの対処が出来ないのです…。」
「アンタがきっと戻って来るって信じて、足止めはしといたけど…、」
「―ありがとう。」
俺は2人の前に立ち、ツインイノシシボアと対峙する。手には直定規の様なあの『魔剣』。
「―ケイン殿、それは…!!」
ツインイノシシボアが俺を目掛けて突っ込んで来る。
俺は僅かに横にズレて、バットスイングの様に横一文字に『魔剣』を振る。
そのままツインイノシシボアは俺を通り過ぎ―、
スパァアアアッッ…!!
上下真っ二つに分かれ、上半分が光に包まれる。
斬られたコトに気付かないで走り続けていた下半分も、暫し遅れて光となる。
そして、アスミスとワイズィの眼前に、モンスターの正体である鉱石が鈍い音を立てて落ちて来る。
一刀両断。正にその字の如し。
ヤバイ。これ、とんでも無く気持ち良い。もう完全に斬鉄剣だ。
アスミスもワイズィも、周りにいたドワーフ達も、皆、言葉を失っている。
普通、こういう時は遅れて歓声が湧いたりするモンだが、それさえ無い。
「―け、ケイン殿…、その剣…は?」
ようやくアスミスが口を開いた。
「あぁ、勝手に借りた。ゴメンな。」
「いえ、あの、それは構いませ…いえ、そうでは無くて、その…、」
「アンタ!身体、何ともないの!?」
しどろもどろの彼女に代わって、ワイズィが言う。
「あぁ。大丈夫。俺も驚いたけどな。」
「どこまで特異点なのよ、アンタ…。」
徐々にドワーフ達が集まって来る。アスミス達も立ち上がる。
エメスがツインイノシシボアに弾き飛ばされた俺の剣を回収して、持って来てくれる。
突然ドワーフの村を襲ったツインモンスター。その討伐は、こうして何とか死者を出さずに終了した。
だが、ツインモンスターの正体は分からず終いだ。この先もこいつらは現れるのだろうか?
ドワーフの村の集会場。
ツインモンスターを退治出来ての祝勝会。併せてゴーレムのエメスお披露目会だ。
戦闘系ドワーフも技術系ドワーフも、もう飲めや歌えやのドンチャン騒ぎである。
俺もドワーフ達に酒を勧められたが、流石は酒豪の種族の酒。どれもこれも凄まじく度数が高い。
こんなの飲んだら急性アルコール中毒一直線だ。アスミスが仲介してくれて、何とか飲まずに済んだ。(汗)
「いやはや、ロリ・カイザー殿には驚かされっ放しなのである!驚愕と感謝しか無いのである!」
「父様の言う通りなのです。まさか、私の打った剣を実際に持って扱える人がいようとは、思いもしなかったのです。
ケイン殿は本当に、私の人生の偉大なるターニングポイントなのです。」
「やはり世界を救った英雄だけのコトはあるのである!」
「父様もケイン殿の素晴らしさの一端を理解していただけた様で、嬉しいのです。」
アスミスと彼女の親父さんが、俺をこれでもか!とベタ褒めする。身体がムズ痒い。(苦笑)
「しかしケイン殿、一体どうやって私の剣を御したのです?」
「えーっと…、それがねぇ…。」
まさか『持ってみたら何か超OK!ってカンジでマジ卍~。』とか言えないしなぁ。
そこにワイズィが来て、俺の頬を両手でピシャリ!と押さえる。
「アンタ!毎回毎回、本当に予想だにしないコトやってくれるわね!!どうなってんのよ!?」
「う…ずびばぜん。」
「アンタが屋上から落ちて、どれだけ心配したか分かってんの!?
そして、アンタが戻って来てくれて、どれだけ嬉しかったか分かってんの!?
そしたらアンタがあの『魔剣』持ってて、どれだけ驚いたか分かってんの!?
更にアンタがモンスターを一発で倒して、どれだけカッコ良かったか分かってんの!?
ついでにアンタがアタシにニッコリ微笑んで、どれだけキュンキュンしたか分かってんの!?」
いや、最後。俺、ワイズィにそんなイケメン的なコトしたっけか!?
「成る程。この魔導師の子は、我が娘アスミスの強力なライバルなのである。」
「そうなのです。頼れる仲間であり、決して負けられない相手なのです。」
「ロリ・カイザー殿!これからも我が娘を贔屓に頼むのである!」
「え"!?」
気が付いたら、そういう話がすっかり出来上がっていましたよ!?
そんな俺の隣には、エメスが姿勢良く起立している。
―そういえば、さっき気になるコトがあったな。俺はエメスに質問する。
「エメス、さっき俺が前に持っていた剣を拾って来てくれたけど、あれは誰に指示されたんだ?」
「どなたにも指示されておりませン。エメスの独断で行動しましタ。」
「ええっ!?」
「いけませんでしたでしょうカ。申し訳ありませン。」
「いや、良い!良いんだよ!!それで良い!!すっごく良い!!ありがとう!!」
「恐悦でス。」
いつの間にかエメスは、自分の判断で動ける子になっていた。
今までも柔軟な対応が出来つつあるのは判っていたが、それはあくまで1つの指示の中でのコトで、
こうして『指示さえされていないコト』を自己判断して行動に移したのは、コレが初めてだ。
「ケイン殿、エメスの判断能力は加速度的に向上している模様なのです。」
「うん。どんどん人間っぽくなって来るな。」
「そうね。アタシも機械扱いするのに違和感覚えて来たわ…。」
宴は尚も続く。
お立ち台ではスレイがアイドル張りに歌って踊って、ドワーフ達の大喝采を受けている。
アスミスやワイズィは俺を超人的な扱いをしているが、実際はあの子の不思議能力で今回も大逆転出来た様なモンだ。
全く本当に…、彼女は一体全体、何なんだろう…。
「♥それでは宴もたけなわになって来ましたのでぇー、脱ぎまぁーす!」
「待てやぁああああああーーーーーーっっ!!!」
ホントに何なんだコイツは!!(汗)




