08「剣ヶ峰の里」その1
※前回のあらすじ
ワイズィを仲間に加えた俺は、港でハゲ男に因縁を吹っ掛けられる。
腕力も魔法も無い俺は、これまでの冒険で培って来た機転とハッタリと、スレイの幸運とで何とか切り抜け、
またまた意図せずに『ロリ・カイザー』の名を高めてしまうのだった。
俺達は中央都市へと向かう。―ハズだったのだが……、
「♥―関所に誰もいませんよー。」
「いや、別にホラー展開とかじゃねーから!」
ここは大陸東側の関所。
南側の大陸からの冒険者を、ここから先の強いモンスターのいる地へと無用に進ませないため、
魔族が門番となって冒険者達の実力を試し、『ふるい』を掛けている場所だ。
なのに、その魔族も冒険者も誰もいない。
かと言って、西側の関所の様に山が崩れて埋まってしまったというワケでも無い。
このまま素通りが出来てしまう状態なのだ。
「一体どうなってんだろう?」
「ここを任された魔族がサボってんのかしらね?」
「♥きっとぉー、恋人とシケ込みやがってる最中じゃないですかねぇー。」
「その『リア充爆発しろ』みたいな、念のこもった言い方はヤメろ!」
あの魔王様の命令を無視する魔族がいるなんて、思えないけどな。
「うーむ。魔族がいれば、デヴィルラ達がココを通ったかどうか聞けると思ったんだけどなぁ。」
「はぐれてしまったパーティーを心配するケイン殿のお気持ち、お察しするのです。」
「でも、そのパーティーの子達が大陸東側に着いていたなら、ココを通った可能性は大きいわね。
ココに魔族の門番がいたのなら、魔王の娘は当然顔パスでしょうし、いなければいないで進んでいたハズだもの。」
「♥通れるならぁー、それに越したコトはありませぇーん。」
ワイズィの推理は正しい。あの子達も俺を探す手掛かりが他に無ければ、中央都市へ向かうだろうしな。
取り敢えずここはスレイの言う通り、フリーパスで突破出来るコトを幸運と思うべきか。
と、アスミスが俺に言って来た。
「あ、あの、ケイン殿!こうも容易く関所を通れるとは思ってもみなかったので、言うのが遅れましたが…、
中央都市へ行く前に、是非とも立ち寄っていただきたい場所があるのです!」
「え、どこ?あんまり遠くだとちょっと困るけど…。」
「いえ、この関所を抜けてすぐ北にある村なのです。」
「村?」
「あぁ、分かったわ。ドワーフの村ね?」
ドワーフの村?つまり、それってアスミスの故郷?
「はいです。父や村のみんなにエメス…ゴーレムを発見したコトを報告したいのです。
これは歴史的大事件でありますし、勿論、ロリ・カイザーであるケイン殿の紹介もさせていただきたいのです。」
「いやぁ、俺のコトは別に…。でも、ゴーレム発見に関しては良いんじゃないか?
技術系ドワーフの念願だったんだもんな。見たらみんな喜んでくれるんじゃないかな?」
「それはもう、なのです。多分、村中の者が3日は寝ずに休まず話し込むと思うのです。」
「半端無ぇな、技術系!!もっと健康に気を配ろうよ!!」(汗)
まぁ、そういうウキウキワクワクの気持ちは分かるけどな。
俺だって、新しいゲーム出たら初日は徹夜しちゃうし、アップデートされる度にやり込んじゃうし。
―あ、そうだ。
「エメス、聞いてたかい?そういうワケなんだけど、君をアスミスの仲間に紹介して良いかな?」
「見たり触ったりはあるでしょうが、分解したりはしませんし、私が責任を持ってさせないのです。」
「―と言うコトだそうだ。エメス。」
「それならバ、支障ありませン。」
「ありがとうな。―ん?どうした、ワイズィ?」
見ると、ここまでのやり取りを見ていたワイズィが、腕組みをして頬をピンクに染めてジト目で睨むという、
何だかよくワカラン表情で俺を見ていた。
「べっ、別に…。本当に、ゴーレムまでこんなに優しく扱うのね…。」
「♥ねー?ケイン様はお優しいでしょー?」
「全く…、アンタ!これ以上アタシを惚れさせてどうするツモリよ!?」
「それ、クレームなんですかね?ワイズィさん!?」
ドワーフの村。
森の一角、そびえる岩山に無数の穴が空いており、住居も村道も坑道も村の全ての施設が掘られて作られている。
鍛冶仕事をするドワーフにとってこの構造は、完全な防火対策になっているんだろうな。
アスミスから聞いた時点で想像してたのは、もっと原始的な横穴式住居みたいなイメージだったんだけど、
実際に見たら床の水平は完璧に取られてるし、穴も正確に掘られている。それどころか彫刻まで施され
石造りの町並みと全く変わらない。こりゃあ凄い。ヨルダンにあるペトラ遺跡も真っ青だ。
流石はドワーフ、村全体に凄く緻密な設計思想がなされている。
「過去の資料で知ってはいたけれど、こうして実物を見るとまた趣が違うわね。本当に見事な作りだわ…。」
「だよなぁ。通路も柱も部屋も、コレ全部、岩山を『彫った』んだもんなぁ。」
「ソコが我々ドワーフの誇る技術なのです。何も無い屋外に石を積み上げるのとは違って、彫るという作業は
後から『付け足す』コトが出来ないワケで、いわば最初から詳細な設計を必要とする逆算の美しさがあるのです。」
掘られた通路を進む俺達の先頭で、アスミスがメチャクチャ流暢に解説してくれる。
やっぱり、技術者ってのはこういう話になるとテンション上がっちゃうんだろうかねぇ。
ドワーフにとっては、この村自体が彼等の自慢の作品なんだろうな。
「着いたのです。ここが私の生家なのです。」
居住区の通りに面した一軒の鍛冶屋。それがアスミスの生まれ育った家だった。
入り口には扉が無い。これは今まで通って見て来たどの家も同じだ。
「村の者は全員が顔見知りですから、泥棒などという不逞の輩はいないのです。
それに『欲しいモノは奪うより作れ』と言うのが我々ドワーフの心情であり気骨なのです。」
うわ、その言葉、すっげーカッコイイ!!
アスミスがとても生真面目なのも、こういうドワーフの教えが根っこにあるからなんだろうな。
彼女を先頭にして俺達も家の中に入り、お邪魔させてもらう。
「父様、只今帰ったのです。」
「ん!?アスミス?…おぉ、本当にアスミスなのである!!」
家の中には、これぞドワーフ!という様な長いヒゲをたくわえた体格の良い小柄な男性がいた。
俺達はアスミスに紹介される。
「おぉ、そなたが噂のロリ・カイザーなのである!?
世界を救った英雄のお供を我が娘が務めているとは、稀有なる光栄にして誇らしき名誉である!!」
いやぁ、それ程でもありませんって。(汗)
ホント、俺の評判って名前と逸話が先行しちゃってるよなぁ…。
「しかしてアスミス。わざわざ帰って来たとは、他にも何かあったと見受けたのである。」
「はいです。実は世紀の大発見をしたので、是非ともご報告にと舞い戻ったのです。
―我々の仲間の1人、このエメスなのです。」
エメスは一歩前に出て会釈をする。
「このメイドの子が何なのである?―む、この左腕は…?」
「左腕は私が道中で作った義手なのです。それよりも、このエメス自身が大発見なのです。」
「?」
「―彼女はゴーレム、しかも戦闘用ゴーレムなのです!」
ちょっとした間が空く。
アスミスの父親は目を丸くして固まっていたが、次の瞬間、
「んなぁああああああああぁああああ!!!???」
部屋が揺れるような大声で叫んだ。思わず耳を押さえる俺達。
「こ、これは、大・大・大発見なのであるっっ!!!」
「あら、一発で信じたのね。」
「アスミスは我が子ながら至って真面目で、決して嘘は付かないのである!!」
「あ、うん。それは俺も同感です。」
取り敢えずは、話が早くて助かった。
全然信じてもらえずに、『お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな。』とか
前傾姿勢で『お前は何を言ってるんだ。』とか言われたら、いちいち説明に苦労するトコだったからな。
と言うよりも、興奮し過ぎて『アイエエエエ! ゴーレム!? ゴーレムナンデ!?』状態に近い。
「では、技術系ギルドにも報告して来るのです。」
そう言ってアスミスは父子の会話もそこそこに飛び出して行ってしまった。
と、アスミスの親父さんが、俺に深々と頭を下げる。
「ロリ・カイザー殿。本当に何とお礼を申し上げて良いか分からないのである。
このコトはあの子のみならず、我々ドワーフとしてのターニングポイントになるのは間違い無いのである。」
おぉう、ターニングポイントは親父さんの口癖だったのか。
俺はちょっと気になってたコトを親父さんに聞いてみた。
「こんな岩山ばかりの場所、暮らし難くないんですか?」
「―この村は魔導対戦以後に作られたのである。人族の兵器が地面をえぐり溶かした先端部に位置しており、
そのために地質が熱変化を起こし、上質の珍しい鉱石が豊富に採掘出来るのである。
確かに些か生活は不便ではあるが、この大鉱脈は我々ドワーフにとって天国の如き場所なのである。」
成る程なぁ。こうしてみると、本当に世の中っていうのは利害なんて裏表なんだなぁ。
「♥ねぇねぇケイン様ぁー、あんなトコロに長くて固くて黒光りしたモノがありますぅー。」
「お前は、他所様のお宅でもワイ談は止まらんのか!?」
スレイがはしゃぎながら指を差した場所を見ると、畏まる親父さんの後ろ、
壁のちょっと高い場所に彫って作られた棚に1本の金属製の定規?が置かれている。
「あんなトコロに定規が? ははぁ、やっぱり技術系ドワーフには、定規は神器みたいなモノなんだろうね。」
「アンタ、バカ?そんなハナシ聞いたコト無いわ。」
「ぐっ…。」(汗)
ワイズィの毒舌に凹まされる俺。そこにアスミスの親父さんが加わって説明してくれる。
「―あれは、我が娘がマイスター昇格試験の時に打った『剣』なのである。」
「剣!? アレが?」
「えぇ?コレが剣なの?見たトコロ、剣先も刃もグリップも付いて無い鉄の板みたいだけど…。」
興味を惹かれたか、ワイズィが近付いてその『金属定規』に手を伸ばす。その瞬間、
「近付いては駄目なのである!!」
大きな声にビクッと跳ね上がるワイズィの手。
「それに触れば無事ではいられないのである。」
「何? まさか…、魔剣!?」
相手の言葉を聞いて一瞬で答えを出す。この頭の回転の良さが、世界中の知識を網羅するワイズィの凄いトコだ。
親父さんはワイズィの言葉に静かに頷く。
「親である私が言うのも何であるが、娘は天才なのである。
どんなモノでも夏の日のバターの様に、いともたやすく斬るコトの出来る究極の剣。
そんな『魔剣』を、娘は齢8つにしてマイスター昇格試験で実際に作ってしまったのである。」
マジか!!本当にアスミスは滅茶苦茶に優れたドワーフなんだな。
「その切れ味は紛うことなき一級品、いや、特級品なのである。
オリハルコンでさえもこの剣の一振りには耐えられず、真っ二つになったのである。
―しかし、実はコレは恐るべき欠陥品だったのである。」
この世で一番固いという金属のオリハルコンが真っ二つ!?
じゃあ、欠陥ってどういうコトなんだ?
「この剣は…、コレを握った者は、例外無く意識を失い倒れてしまうのである。」
「うわ、」
ワイズィが思わずその剣から離れ、距離を取った。
「無類の切れ味を持っているコトもさることながら、被害者が出るのでは余りにも危険。
また、この様な『魔剣』を打ってしまった娘への戒めのため、こうして安置しているのである。」
「♥悪いコトに使われませんかねぇ―?」
「あぁ、それは心配だな。」
「アンタ達、やっぱりバカね。誰も握れないのなら、悪用のしようが無いでしょ?」
「あ、ご尤も…。」
「うむ。この棚に乗せるだけでも、数人が1日掛かりで長いヤットコを用いて慎重に持ち上げたのである。
とても武器として振るうコトなど、誰であろうとも叶わぬコトなのである。」
「♥ケイン様ならぁー、特別だからぁー、使えるんじゃないですかぁー?」
「え!?」
俺は『特別』という言葉にドキッとした。
スレイには…、いや、アスミスにもワイズィにも、俺がこの世界の人間じゃ無いコトはまだ話していない。
「な、何でそう思うんだ?」
「♥えーっとぉ、何となくですぅー。ケイン様はロリ・カイザーですからぁー。」
「根拠になってねぇ!」
あー、ビックリした。考え無しに言っただけ、だったみたいだな…。
と、そこへドカドカとけたたましい足音が聞こえて来た。
あぁ、アスミスが技術系ドワーフの仲間を連れて来たんだろう。足音はどんどん大きくなる。
そして、
「大変なのです!!モンスターの襲撃なのです!!」
「えぇっ!?」




