07「その男、ハリボテにつき」その3
ニコニコと微笑んでいるスレイの服が緩んで、乳が開けそうになっている!
いやいやいや!!幾らエロ奴隷といっても、それはヤバイ!!
現実世界にはモザイクも、謎の光も、散らない濃い湯気も無いんだぞ!!
俺はスレイの着崩れた服を直そうと、小走りで駆け寄る。
―すると、またまた野次馬達の歓声が上がる。 え?今度は何だ? 俺は思わず立ち止まる。
向こうにいるハゲ男が俺の後ろの光景を見てか、ワナワナと震えている。
ふと振り返って見ると、後ろには丁度、奴隷船の乗船口があった。
そしてそこにズラッと並んでいるのは、イカクラーケン対策に積まれるのを待っている大量の火薬壺。
「ケイン殿、ナイスです!これであの男は魔法が撃てなくなったのです!!」
「あの船に雇われてるんだから、船を傷付けるワケにはいかないわよねぇ。」
あぁ!そういうコトか!
スレイに駆け寄ろうとしたら偶然、俺の立ち位置が奴隷船の前に来てたのか。
で、火薬壺はハゲ男が決闘を言い出したんで、積み込み作業の途中で留まっていた、と。
「な、何て聡明な人なんだ!!」
「ここまで全てロリ・カイザーの掌の上じゃないか!!」
「ロリ・カイザーは何も攻撃せず歩いてるだけなのに、明らかに彼が戦局を支配している!!」
いえ、聡明とかとんでも無い。次の一手が全く浮かんで来ない私です。ハイ。
俺も魔法を始め、遠距離攻撃の手段を持ってない以上ハゲ男を攻撃出来ない。これじゃ千日手だ。
「うぐぐぐ…、船を盾にするとは卑怯だぞ!」
「いや、不意討ち上等のお前さんに言われたく無いなぁ。」
「この野郎、どこまでも俺様を馬鹿にしやがって…!! これならどうだ!!」
ハゲ男はそう言うと、両手に魔力を集め出した。まだ魔法で来る気か!?
―しかし、後ろに火薬壺があるから火と雷の魔法は使えないハズだ。
「―かと言って土魔法は船に穴を開けかねないし、水魔法は積み荷の火薬を駄目にするわ。
そして風魔法も、海風が吹いてる今の時間では逆風になって満足な効果は期待出来ない。」
「ではワイズィ殿、あの魔法は…?」
「消去法で考えれば―、」
―氷魔法か!!
氷弾は土と同じ理由で使えないだろうから、俺を凍らせて動きを止めて、そこでボコろうって魂胆だな!?
だが、こうなると魔法を使えない俺には相殺する手立ても無い。こりゃ困ったな…。
いや待て、方法が1つあった!!
俺の着ている鎧は、バラバラだった色んな部品を在庫整理で寄せ集めて一体分にしたセットだ。
その中で、アスミスが見立てた時に『魔法防御力が高い』と言ったパーツがあった。
それは、―右の脛当てか…!
俺の中で作戦は決まった。問題は、練習も無しのぶっつけ本番だというコトだ。
上手く行くかどうか…。
「食らいやがれ!!!」
ハゲ男が魔法を打ち出そうと右手を振りかぶる!!
同時に俺はハゲ男に向かってダッシュする!!
「えぇっ!?」
「魔法に当たりに行ったぁ!?」
悲鳴の様な声が野次馬達から上がる。アスミス達もこれには度肝を抜かれた様で、
「自殺行為なのです!!」
「あのバカ!!」
ハゲ男が魔法を撃ち出す!!魔力の光球が俺に迫る!!
俺は目を凝らして光球を睨む。青い光球の中で小さな結晶が生まれ始める。
―ココだ!!
「エターナルブリザードぉおおおーーーっっ!!!!」
俺はその光球を右脚で思いっ切り蹴り付ける!!
「何ぃいいっっっ!!??」
蹴られた光球はハゲ男に向かって跳ね返って行く!!
「うわぁああああああーーーーーっっっっ!!!!」
ビッッシャァアアアアーーーーーン!!!!
ハゲ男に着弾した光球は白い爆煙を上げ、その冷気の白煙を破って大きなツララが四方八方に伸びる!!
白煙はゆっくりと降りて、地面を這ってやがて消えて行く。
そしてそこには、仰向けに倒れ手足を氷で包まれて身動き取れなくなったハゲ男と、
そのとばっちりを受けて、一緒に凍り付いてるヒョロガリ君の姿があった。
まるでその冷気に当てられたかの様に、周りの観衆はシーンと静まり返る。
俺はハゲ男のトコロまで歩いて行く。霜柱を踏むみたいにサクサクと俺の足音が鳴る。
おもむろに剣を鞘から抜き、顔の半分が氷だらけのその顔に剣先を突き付けて、
こんな時に一度は言ってみたいであろう『決め台詞』を言う。
「―チェックメイトだ。」
うぉおおおおおおおおおーーーーーーー!!!!!
一気に湧き上がる観衆の声。鳴り響く拍手と口笛。そして、次に来たのは
「「「「ロリ・カイザー!ロリ・カイザー!ロリ・カイザー!!」」」」
巻き起こる万雷の『ロリ・カイザー』コールだった。 ヤメて。(泣)
「♥ケイン様ぁー!やりましたぁー!」
「ケイン殿ぉおおおーーー!!」
スレイとアスミスが俺の左右の腕に飛び付いて来る。
その後ろからは、ワイズィとエメスが歩いて来るのが見える。
「♥やぁーっぱり、ケイン様の勝ちでしたぁー!」
「いや、ギリギリの勝利だったよ。」
「ご謙遜を、なのです!こんなに完璧な対人戦を見たのは初めてなのです!!感動なのです!!」
か、完璧…ねぇ。(汗)
「オーナー、お疲れ様でしタ。」
「おう、エメスもみんなの護衛、ご苦労様。」
ペコリと頭を下げるエメス。俺のねぎらいの言葉を受けて、心なしか一瞬、彼女の表情が柔らかくなった様に感じた。
「ところでケイン殿、最後のアレは一体何だったのです!?」
「ん?あぁ、魔法を蹴り返したヤツか。うーん、俺よりも上手い説明が出来るヤツがいるんじゃないかなぁ?」
俺はチラッとワイズィの方を見る。
彼女はそれに気付いて、
「何?アタシに説明役やらせようなんて良い度胸してんじゃないの、アンタ。」
「いやぁ、イチかバチかでやったから、キチンとした説明が浮かばなくてさぁ。」
「アレをイチかバチかでやったの?…本当にアンタには呆れるわね…。惚れ直しちゃうじゃない…。」
ワイズィは咳払いを1つすると、説明役を買って出てくれた。
周りの野次馬達も興味津々の様子だ。奴隷船の船長までやって来た。
「アレは、魔法を蹴ったんじゃ無いわ。『マナ』を蹴ったのよ。」
「どういうコトだい?魔導師のお嬢ちゃん。」
「魔法は魔力の源であるマナをイメージで変換して、火や氷のカタチに具現化させるモノ。ここまでは良い?」
「うむ。」
「だけど、発動から具現化までには必ずタイムラグが生じるわ。
魔法の規模が大きかったり、イメージが貧困な者はその時間が長くなる。」
「はい、いわゆる『タメ』と言うヤツなのです。それは魔法の不得手な私にも分かるのです。」
「でもね、もう1つ、タイムラグが絶対に必要な理由があるのよ。」
ワイズィの言葉を受けて、周りでガヤガヤと「知ってるか?」「何だそれ?」等と、話し声が聞こえる。
そしてみんなワイズィの次の説明を待つ。彼女が口を開く。
「それは自分の身を守るためよ。直に具現化したら、手が焼けて炭になったり、凍り付いて凍傷になったりするわ。
だから、撃ち出す前と撃ち出した直後の魔法は、まだ具現化されずマナの塊の状態、ってワケ。
これは誰しもが本能的にやってるコトだから、改まって聞かれると思い浮かばないでしょうけどね。」
それを聞いて感心した様な声があちこちから漏れる。
「で、コイツ…じゃ無かったわ。ロリ・カイザーは、氷魔法として具現化する寸前のマナの塊なら、
物理的に跳ね返すコトが出来る、と踏んだワケね。」
「あぁ!確かに、蹴った右脚に付いている脛当ては、魔法防御力が高いモノだったのです!!」
種明かしを聞いて、周りから「すげぇ…!」「そんなコト可能なのか?」「あの一瞬でその判断を!」とか声が上がる。
「ありがとうな、ワイズィ。やっぱり賢者だ。上手な説明だったよ。」
「ばっ、バカッ!別にアンタに褒められたって…凄く嬉しい…。」
ワイズィの左側の顔にピンク色のブラシが掛かる。可愛いなぁ。相変わらず口は悪いけど…。
それからも観衆は感想戦を行うかの様に、今の戦いを振り返り、
「結局、ロリ・カイザーは戦いで一度も剣を抜かなかったな。魔法だって1発も撃っていない。」
「それどころか相手を殴ってもいないし、蹴ってもいないじゃないのさ。」
「相手の魔法を利用して1撃で終了だろ?あんな勝ち方があるとは思わなかったぜ。」
「あぁ、凄いの一語に尽きるな。だけどありゃあ、戦闘についてタメにはなったが、参考にはならねぇなぁ。」
「だねぇ。あれは誰にも真似出来るモンじゃ無いよ。やっぱりロリ・カイザーの二つ名は伊達じゃ無いんだねぇ。」
俺の仮想通貨…じゃ無い、仮想評判がうなぎ登りの青天井になっている。(汗)
つーか、『ロリ皇帝』の二つ名と戦いの強さに何の関係があるんだよ…。
アスミスとワイズィも2人して、
「ケイン殿!!やはり私をお嫁さんにもらって欲しいのです!!」
「決めたわ!アンタみたいな男、放っておけない!これからアタシが全力で尽くしてあげるから覚えておきなさいよ!!」
一体、何が起こってるんだ…。(汗)
その後、ハゲ男とヒョロガリ君が俺の元に謝罪に来た。
「いやぁ、格の違いってのを見せ付けられたよ。本当、済まなかったな。」
「いいよ、もう。互いに大怪我もしてないんだし。」
「全く、サバサバしてやがる。俺もアンタを見習って、幼女にモテる様に頑張るわ。」
「えーっと、うん、何だ、その、幸運を祈ってるよ。」
「バザーの町に来るコトがあったら寄ってくれ。何かあれば、微力だけど手を貸すぜ。」
そう言って2人は、帰りの奴隷船に乗り込んで行った。
何だ。こうして腹を割って話せば、結構良いヤツじゃないか。
「それにしてもスレイ、勝てたのはお前がハゲ男と握手させてくれたお陰だよ。影のMVPはお前だ。」
「♥えへへ。お役に立てて嬉しいですぅー。」
そうそう、奴隷船を盾に出来たのも、スレイの服が開けたお陰だしな。
マジでこの子の超絶的な運の良さは、個人だけで無くパーティーメンバーにまで効果があるんじゃなかろうか…。




