07「その男、ハリボテにつき」その2
そう腹が決まれば、まずは敵の観察だ。
ハゲ男は筋骨隆々で、見るからに格闘系の戦士だ。あそこまでの体格だと、そう素早くは無いだろう。
技巧派と言うよりは、どちらかと言えばパワー重視。一発が怖いタイプと見ていいと思う。
アイパッチをしていて隻眼というコトは、視界が狭くて立体視が効かないかも知れない。ソコは狙い目だ。
ただ、明らかに戦い慣れしてる風貌で、決して油断は出来ない。
多分、いつもはあのヒョロガリ君とタッグを組んで戦ってるんじゃないかな?
スキを見てヒョロガリ君が相手に触り、魔力を奪って昏倒させ、無防備になったトコロをボコる。
きっとこういう必勝パターンなんだろう。
だけどそれは、元々吸い取る魔力の無い俺には通用しない。ソコは連中も分かっているハズだ。
第一、一対一の決闘を言い出して来たのは向こうだ。今回、ヒョロガリ君の手出しは無いだろう。
あるとすれば、ヒョロガリ君が他にも補助魔法を使えて、事前にハゲ男にバフりまくってる可能性か。
―ハゲ男の能力を高目に計算しておくか。量産型よりも30%増で。
俺はアスミスとワイズィ、スレイを安全な位置まで下げる。エメスには3人のガードを任せる。
「ケイン殿なら問題無いとは思いますが、ご武運を祈っているのです。」
「アンタの力がどれ程のモノか、見させてもらうわ。」
「オーナー、お気を付け下さイ。」
―兎に角、格闘系の相手には近接戦をさせないコトだ。
魔法が使えない俺に取ってそれは、こちらの攻撃方法も無くなるコトを意味するが、まずは当たらない様にする。
そこから先は…、またそこで考えるしか無い。
俺はハゲ男から少し距離を取る。ハゲ男は体格差が有利と見たか、ニヤニヤとこちらを余裕で眺めている。
うーん、もっと情報が欲しいな…。外見だけから伺えるモノには限界がある。
「♥はーい!はいはい!提案がありまぁーっす!」
「うおっ!またお前は!!危ないから下がってろよ!」
またまたスレイが俺の横に来ていた。
「♥折角ですからぁー、戦う前に握手しましょーよぉー。」
「握手?」
「な、何を言い出してんだ?奴隷の嬢ちゃん…。」
スレイは俺の手を引いてズンズンとハゲ男のトコロに歩いて行く。
ハゲ男もスレイのかき回しっ振りに唖然としている。
しかし、これは考え様によっては相手を間近で観察出来るチャンスかも知れないな…。
「♥はい!お二人ともぉー、せーせーどーどー戦うコトを誓って、握手しましょー。」
「こ、これからブチのめそうって相手と握手なんか出来っか!!」
「♥えぇー?駄目ですかぁー?グスン…。」
「うっ…!!♥」
うわ、あざとい!!スレイのポーズ、あざと過ぎる!!コイツ間違いなく『あざと学』主席だったろ!?
さり気なく胸元と太腿をチラ出ししながら、身体をS字にくねらせて涙を浮かべての上目遣い!!
何が凄いって、あざといのが分かってても可愛い過ぎて、全く怒る気にならないのが凄い!!
「毎度、スレイのあの技は見事なのです。」
「女の目から見ても、ムカツクより可愛さが勝っていてウザく感じないってのがね…。」
「エメスにハ、習得不可能な技でス…。」
アスミス達も腕組みをして感心するばかりだ。
で、ハゲ男もたちまちメロメロになったみたいで、
「わ、分かったよ…、握手する位なら減るモンでも無ぇしな…。♥」
ハゲ男は俺の前に歩み出す。仕方無い。スレイに言われた通り、ココは俺もカッコ良く決めるか。
指をポキポキ鳴らしながら、ハゲ男が俺に悪態を付く。俺も負けじと返す。
「フッフフ。ロリコン坊主とやるのは初めてだぜ。」
「俺もハゲたゴリラとやるのは初めてだ。」
「テメェ…、口のきき方には気を付けな…。俺様は気が短けえんだ!」
「腹を立てるとどうするんだ?ウサギラビットとワルツでも踊るのか?」
「この野郎、いい気になってられんのも今のウチだぜ…。」
それでも俺とハゲ男は仲良く(?)握手を交わす。目が笑っていないけどな。
―ん!?何だ?この違和感? 何か変だぞ。
握手が終わり、俺は再びハゲ男から距離を取るために元いた場所まで歩き出す。と同時に考える。
何が変なんだ?俺はヤツの何に違和感を覚えたんだ?
確かに俺なんかよりも鍛え上げられた筋肉だったし、握った手も大きかった。
でも…それ以上のモノを感じなかった。 違和感はそこか? でも、だとしてもそれが何なんだ?
俺はハゲ男と対峙する。
ハゲ男はいかにも格闘家っぽく構えを取る。
―え?今、俺、どうして『いかにも格闘家っぽく』とか思ったんだ?
アイツはあの体格からして、どう見たって格闘家だろ?
でも、俺の中の何かが『違う』と否定している。
と、目の前にマーシャのイメージが浮かび上がってくる。
90年間、生き抜くために格闘一筋だったエルフの幼女、マーシャ。
あの子のスキの無い構えと、目の前のハゲ男のそれとを比べると、雲泥の差だ。
これは熟練度によるレベルの差なんかじゃ無い。もっと、こう、根本的な…。
「行くぜ!!覚悟しろ!!」
ハゲ男の声で俺はハッとする。その瞬間、脳裏に1つの答が閃く。
俺は反射的にその場から横に飛ぶ!!
「おりゃあああああああっ!!!!」
そしてハゲ男の右手から撃ち出される火球!!
それは俺の立っていた場所に正確に着弾する!!爆発が起きる!!
ドゴォオオオ―ン!!
野次馬達から次々に沸き起こる驚きの声。
それは、いきなりの爆発への驚き。いや、そして何よりも、
「―中級の火炎魔法!?」
「あの男、魔法を撃ったのです!?」
アスミス達も同様に驚いている。
あのゴリラの様な体格の、格闘家としか思えぬ男が高度な攻撃魔法を放ったのだから。
しかし、この場にいる者の中で一番驚いていたのは誰あろう、その魔法を撃った隻眼の男だった。
「―ば、馬鹿な!?何故、避けられた…!?」
隻眼の男が驚愕の表情で見るのは、爆発した場所から離れたトコロに屈み、今、スックと立ち上がった男。
―ロリ・カイザーだった。
『―危なかったぁああー!!』
俺は心の中で冷や汗を垂らしながら叫ぶ。
横っ飛びするのがあと1秒遅れていたら、間違い無くあの火球の直撃を受けていた。
あのハゲ男に感じた『違和感』から、俺の出した答は正解だったのだ。
「ロリ・カイザーが難なく避けたぞ!!」
「あの攻撃を見切ってたのか!?」
「いや、あんなフェイント、どうやったって判らないでしょ!?」
ざわめき立つ野次馬達。
俺は横っ飛びで転がった時の受け身で、偶然にも特撮ヒーローの様なカッコ良いポーズで片膝立ちしていた。
イカンイカン!じっとしてたら追撃が来る!
俺は急いで立ち上がった。 ―が、それを見た周りがまた騒ぐ。
「うおお!何事も無く立ち上がった!!」
「何と悠然とした立ち方なんだ!!」
う。 何か、また偶然にも、凄くカッコ良い立ち方をしてしまったらしい。(汗)
「け…ケイン殿。カッコイイ…のです。」
「な、何よアイツ…あんなのちょっとカッコイイだけじゃない。…でも、凄く…カッコイイ…。」
「オーナー、カッコイイ…。」
アスミスとワイズィが腰をくねらせて、妙に熱い目線でこっちを見てる。
そのざわめきがハゲ男の怒鳴り声でぶった切られる。
「テメェ!!どういうコトだ!?俺様の攻撃、今までかわせたヤツはいねぇんだぞ!!」
―困ったなー。この後の戦い方がまだ見当付かないや…。
ここはもうちょっと時間を稼いで、出来るだけ様子を見て情報を捉えるとするか。
「フッ、それはお前が今まで戦ってきた連中が弱かった。それだけのコトなんじゃないのか?」
俺は髪をかき上げ、強者の余裕を演出する。この場合は『演出』と書いて『ハッタリ』と読むんだけどな。(苦笑)
「な、何!?」
「お前、本当は魔法使いなんだろ?相手のスキを作るために、格闘家のフリをしているだけの。」
「ぐっ!!!」
「図星か。」
「おぉおおお!!」と、野次馬達が感嘆の声を上げる。いちいち反応が良くて、やりにくいなぁ。
「け、ケイン殿!どうやって判ったと言うのです!?」
「手さ。」
「―俺の…手、だと?」
俺の言葉に一様に不思議がる観衆。うわー、探偵ドラマの謎解きシーンみたいだ。
「握手して判った。お前の手は柔らかいんだよ。格闘家の手じゃ無い。」
「!!」
そう。コレが違和感の正体。
マーシャの手も幼女特有の柔らかさがあったが、その中の筋肉と骨格は鋼のような張りと硬さがあった。
それは、実戦を数えきれない程にくぐって来た者の手。紛うこと無き本物の格闘家の手。
だが、あのハゲ男の手は大きさとゴツさこそあったが、握った時に中から押し返してくる筋力が感じられなかったのだ。
俺はなるべくゆっくり歩いて、なるべくゆっくり語る。
いかにも、謎を解いた探偵が全て判ったかの様に振る舞って。―まぁ、単なる時間稼ぎなんだがね。
「それと、構えだ。」
「構え…だと?」
「格闘家っぽく見せようとポーズを真似してはいたが、お前のは脚に体重が乗っていなかった。」
これは本当だ。マーシャのイメージが浮かんだ時に気付いた。
「俺とこれだけの距離があるなら、普通は遠距離攻撃の出来る武器を持っているものだ。弓とか槍とかな。
しかし、お前は『格闘家』だろ?素手なら近接戦に持ち込まなければ俺を叩けないハズだよな?」
「ううっ…、」
「それなのにお前は距離を詰めようとしなかった。いや、むしろ距離を取りたがってる様に見えたね。
だったら一気に懐に飛び込んで来るのか?―それも無い。下半身に力が入って無いんだから当然だよな。」
俺の解説を聞いて脂汗を垂らすハゲ男。後ろのヒョロガリ君も口をパクパクさせて何も言えない状態だ。
「だから気付いたんだ。お前には武器に頼らない遠距離攻撃の手段がある、って。
それなら『魔法を使うかも知れない』と考えるのは当たり前のコトだろ?」
再び感嘆の声が沸き起こる。
「スゲェ!ロリ・カイザー、マジスゲェ!」
「たったあれだけのコトで、ここまで判ったのか!!」
「やっぱり魔導巨人を倒したって、本当っぽいな!!」
アスミスとワイズィはいつの間にか手を握り合ってる。
「はわわわ…ケイン殿、何という観察眼と大胆な発想!!凄いのです!!」
「流石、アタシが見込んだ男だけのコトはあるわ!!」
「これガ、『凄い』というコトなのですネ…。」
―何かあの2人、ハートマークが宙を飛び交うのが視認出来そうな位に盛り上がってるな…。(汗)
と、その横を見ると…、おい!それはマズイだろ!!




