1
河野里沙は男性が苦手だ。特に自分と年齢の近い異性との会話はうまくいかない。これは自他共に認める真実である。学校の教師だとかそういう人間ならば自分とは遠い存在だと思えるからまだそこまで気にならないのだが、これがクラスメイトともなれば最早里沙がまともに話をすることはほとんど出来ない。
「な? ちょっとの時間だけでいいからさ」
だから、里沙は今非常に困っていた。ナンパをされているのだ。相手の年齢は分からないが、比較的近い気がする。そんな相手と一対一で話すなど、里沙にはかなり困難だったのだが、相手はそれに気がついてくれる様子がない。
夏休みで学校は休み、だからとばかりに真昼間から一人で出歩いていたのが悪いのは分かっている。おまけに、里沙が友人である遥や百合と合わせて比較的派手と言われる類の姿かたちをしているのがそれに拍車をかけているのだろう。大人びた容姿も相俟って、街を出歩くと時々こういうことがあった。要するに軽い人間だと思われているのだ。
誤解を受けないようにするには単にそういう恰好をやめればいいのだが、折角仲良くなれた友人に馬鹿にされたくもないのでやめるにやめられないのである。それでこうやって絡まれては悩む羽目になるのは分かっているのだけれど。
「ほら、そこで食事奢るからさ」
こうしてナンパをされたときにはいつもごめんなさい、と言って走り去ることにしているのだが、相手に腕を掴まれている今それは叶いそうにない。
どうしよう。
里沙がそう思ったときだった。
「おにーさん、嫌がってんだからやめてあげたら? もううまくいかないって」
軽い口調と共に、里沙の手を掴んでいる男の腕を押さえる男の登場に、里沙をナンパしてきた男は目を丸くする。
「べ、別に何もしてたわけじゃ」
ごにょごにょとはっきり分からないことを言いながら、しかしわざわざ他人に窘められてなおごり押しできるほどの人間ではないらしい。男はすぐ周囲に視線を走らせると、そのまま逃げるように駆け出していった。
後には里沙とナンパを止めてくれた男だけが残る。にも拘らず、里沙は引き続き居心地の悪さを感じていた。何しろ先程のナンパ男はいなくなったものの、残ったのも先とは別人とはいえ男性なのだ。かなり気まずい状況だといえる。助けてもらったのは確かなので感謝を伝えなければならないが、さて何と切り出すべきなのか。
「……あ、あの、――ありがとうございました……」
結局何と言ったらいいのか考えたところで答えは浮かばず、可もなく不可もないものだけが里沙の口をついて出た。
「ああ、うん気にしないでいいよ」
里沙を助けた男はさらりと何でもなさそうにそう言って、にこりと笑った。里沙はそこで漸く男の容姿をはっきりと見た。先程の男よりも更に若い男で、里沙と同じ高校生だろう。夏の日差しに照らされて茶色の髪が眩い。人懐こい笑顔を見せている。
なれなれしい男も苦手だが、爽やかなタイプも里沙はあまりお近づきになりたくなかった。尤も、里沙の場合どんなタイプでもそうなのだが。




