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柳玲子はがっかりした。玲子の予想では受けに分類されそうなクラスメイト(攻めには仲がよさそうななんちゃら悟君とかどうだろう)に声をかけ、とうとうゲイカップルと知り合えるかと思ったのだが、どうやらその人は隼人の兄ではなく姉であったらしい。
玲子はがっかりした。これで男装萌えがあればテンションがあがったろうが、残念ながら男装など結局は男女カップルなのである。
寧ろ玲子は女装萌えだった。可愛い女の子かと思ったら実は男だったが女でないと分かった今でも好きという気持ちはもうごまかせない、などという展開などは特に好みだ。ゲイカップル最高。
――話がズレた。
そういうわけで、玲子はそれ以上隼人の姉について接触しようとは思わなかった。
「あーあ、残念。折角ゲイカップルに巡り会えたと思ったのに! じゃあね、隼人く」
帰り際付き合ってくれた友人にそう感謝を述べながらも、玲子の脳内は既に六時半から放送される玲子の愛するアニメのことでいっぱいになっていた。のだが。
玲子はそこで何故か隼人に腕を掴まれ、口を閉ざすこととなった。自身の用はもう済んだし帰りたいのだが、と目線で訴える玲子に、しかし隼人の言葉がそれを許さない。
「あのさ、」
その言葉に真摯な響きを感じて、玲子は隼人の顔を見る。その隼人の口から落とされた一言に、玲子は目が点になった。
「あんまり簡単に男の家に行くって言わないほうがいいよ。そういう意図がないにしろ、期待するから」
ろくに話したことがないクラスメイトからのその忠告に、玲子は目を丸くした。まさかそんなことを自分に言う人がいようとは、という驚きである。言われている内容はBLでよく読む展開だが、クラスメイトの名前もろくに覚えていない自分にそんなことが起こるはずもない。
玲子は軽い調子で笑って否定する。
「大丈夫大丈夫、私に興味ある男なんていないし、それに、」
玲子はそのまま三次元の異性に興味などないのでその類の忠告は不要だと言おうとした、のだが。
「特に俺、前から柳さんのこと好きなんだけど」
聞こえてきた言葉に、玲子は一瞬自分の耳が故障したのかとさえ思ったほどだった。
どう見ても草食系のこの隼人君がろくに話したことがない自分のことを好き?
これがBLならば読んでいて一途健気攻め萌え、などと盛り上がれるところだが、実際自分に使われるとどう反応したものか。玲子からすれば全く想定外の言葉でしかない。
「柳さんが俺のフルネームも覚えてないのは分かってるけど、そういうことだから」
「ふぇっ?」
そんな風に困惑しているうち、話を聞き損なったらしく気がついたときにはそんな言葉を吐かれる。分からず聞き返せば、困っているような苛立っているような何とも言えない表情を隼人君が見せる。
「わかんない? 俺、告白してるんだけど」
言われて玲子はそろそろこの隼人君について理解が出来なくなってきた。こういうタイプの人間だったのだろうか。だとしたら受け攻め判断をし直さなければ――じゃなかった。まずどうしたらいいのだろう。
「俺、佐野隼人っていうんだ。まずは名前から覚えてよ」
にこりと見せられた笑みにどう反応していいのかすら分からず、曖昧に頷く玲子に、隼人君はまた明日、と手を振って走っていってしまう。
残された玲子はそのうち言われた内容に漸く実感が湧き、はぅぅ、と頬に両手を当てしゃがみ込んだ。
なんだ今のは。実際の男の人も皆ああいうものなのだろうか。クラスメイトを、いや、ほとんど全ての男性をそういうふうにしか見たことのなかった玲子はぐるぐると考え込むが、結論が出るはずもない。
結局、玲子がはっ、と我に帰ったのは六時半を少し過ぎ、玲子の愛するアニメが放映されている時間帯で。
玲子は初めて愛しているアニメをリアルタイムで見損なったのだった。
ここでこの二人はひとまずお終いです。




