第八話 マジパンダ
二人きりの試合場で座りながら話し合う。
「しりとりしましょう!」
「うん、いいわよ!」
「よし! それで、これからどうしますか?」
それにしても、同年代の人とは初めて遊ぶから、緊張するなぁ……!
「肝心のクソオヤジたちがいないし、学校の話しない?」
「いいですね! 『魔法学』って知ってます?」
「すっごく難しいらしいわね。面倒だから、学校に行ってから学ぶことにしたわ」
「わぁ……! でも、それが理にかなってるかもしれないですよ。実際面倒ですし」
「知ってるの? カイムは」
「わかってるのは、『魔法陣』を使うことと、それを扱うイメージ力です!」
「すごい詳しいのね……。でも、あたしもアンドレアルフス……アンちゃんから少し聞いたかな。ちょっと面白そうだった!」
「大変なのは会得するまでです! フレイルさんも、既視感あるでしょう?」
「うん。技術の会得って、達成感あるわよね! すごくいい気持ちになるっていうか」
「簡単に言うとそうですね。楽しいというかなんというか……」
それに、年が近い人と喋るのも楽しいなぁ……!
「快感よね! それで、ここまででどう? あたしのこと、わかった?」
なんだろう? その意味深な発言は……
それに、どうしてこっちを見つめているんだろう?
「単純な人かと思ってました。でも実際は、師匠のような自由さと、お父さんのような真面目さがあって、素敵な女性だと……思っ……」
なんでだ……? 顔が熱い。
それに、見つめ合ってしまった!
こういうのは、お付き合いをしてからするべきなのに……!
「もう、そうじゃないっての! マジパンダ!」
「だって、そういう意味に聞こえますから! 普通は!」
「わかってないわね。そうじゃなくて、友達とか、同い年の人としてどうかってこと!」
「と、とりあえず、いい人だと思いました! フレイルさんはどうですか?」
「簡潔に言えば、真面目で、剣士で、二刀流でー、あとパンダ目の……」
「能力とかはどうですか?」
「怪物クラス。そんで、それに対抗できるあたしはすごい! とか?」
「簡略化しすぎだけど、合ってますね。強くなってくれて、ありがとうございます!」
ぼくがそう言うと、突然フレイルさんは立ち上がってから、怒鳴った。
「すごい不快!」
「いいこと言ったのに!? どうしてですか? 何か気に障りました?」
「単純に飽きた! 普通に話さない?」
たしかに変な会話の仕方だとは思う。
語尾の言葉でしりとりをしながら会話するだなんて……
「いいですね! これで終わりにしましょう!」
「うん!」
「よし! しりとり終わり! そしてこの勝負、ぼくの勝ちー!」
「はぁ? 何そのズル!」
「ズルじゃないですよ! 『うん!』って言ったじゃないですか! 『ん』がついたので、ぼくの勝ちでいいですよね?」
「はー、まあいいわ。なら、あたしたちはライバルね! まず、あたしの一敗一分け」
「いいですね。絶対勝ちます! 勝ちまくります!」
ライバルかぁ……
異性だけど、まあいいか!
「師匠のいいところを挙げあうゲームしない?」
「いやそれ、絶対ぼく側が不利でしょう!」
「やっぱりクソオヤジのこと、ろくでもないって思ってんだ?」
「……はい、思ってます。でも、憧れはその程度じゃ揺るがない!」
立ち上がってから右手の親指を立てて、胸の前に構える。
「そうなんだ。あたしだって、魔王さまは好き。クソオヤジは嫌い」
「……あの、どうして師匠が嫌いなんですか?」
「自由奔放で、身勝手で、無責任で、何よりサボり魔! だから、あたしは決めたの。あいつの逆をやってやるって!」
フレイルさんは立ち上がり宣言する。
「そうですか。ぼく、応援します」
「はぁ?」
「要するに、師匠のことが嫌いなんですね!」
「だから、そう言ってるじゃない!」
なんだ、それだけか。
立ち上がったフレイルさんを座らせ、ぼくは口を開く。
「それだけなら、応援します! ぼくも、師匠にはきちんと王様らしくしてほしいし、いまでもサボるし、身勝手で自由奔放だとは思ってます!」
「ふーん」
「でも、無責任ではないし、嘘はつきません。指導中は真剣ですし、ちゃんと芯があります。フレイルさんも同じです」
「え? なにが?」
「多彩な技、『光属性』の魔法、武器を……剣を使うこと、自由に戦ってる感があって、師匠に少し似ている。だから、ぼくはフレイルさんを尊敬します。なので、いつか必ず、師匠をぶっ飛ばしてやってください!」
「……わかった。約束するね」
見つめ合うぼくたち。
顔が赤いフレイルさんと、顔が熱いぼく。
なんでだろう? フレイルさんがじわじわと手を這わせて握ろうとしてくる。
「あの!」
「何……?」
手を繋ごうとしてくるフレイルさんを避けるように、身体を引く。
だけど、だんだん恋人繋ぎに近づいてきていたので、ぼくはこう叫ぶ。
「恋人繋ぎは……好きな人とすることです!」
「…………ふーん。……あるね」
「はい?」
「カイムにも、芯があるねって」
「はぁ……」
「なーんか、そんな気分じゃなくなっちゃった。ごはんにしよ?」
「はぁー……びっくりした……!」
もしかして、ぼくのことをからかってたのかな?
そう思っていると、フレイルさんが口を開いた。
「あと、あたし、カイムのことが好き」
「えっ?」
「あたしを応援してくれた人は、魔王軍にすらいなかったから。みんな過保護で、止めようとするばっかりでさ」
「ああ、ぼくも同じでした。勇者のコスプレをして、剣のレプリカ作って遊んでいたら、お父さんの部下の人たちに止められました」
「ふふっ、そりゃ止めるわ。だって、普通に変だもん」
「ですよねー……」
やっぱり、お父さんだけが味方なのかな?
「でも、あたしはいいと思うよ?」
「えっ?」
「だって、夢があるってのは、目標があるってことでしょう? 夢は掴むもの! ……とは言わないけど、目標があっても目指さないと、自分に嘘をついてるのと同じだから。だから、本当にやりたいことは、目指して、やって、できなかったら諦めるか……それとも、別の道を探せばいい」
「別の道……?」
「例えばだけど、料理人になりたい人は、料理を習うでしょ? でも、手が届かないと知って諦めても、料理を習った『経験値』は、無駄にはならないよね?」
「……はい」
「カイムの『勇者になりたい』って、『勇者』になりたかったの? 『勇者』に憧れたの? それとも、『勇者としてのクソオヤジ』に憧れたの?」
「『勇者としての師匠』です!」
「そっか。あたしは『魔王』に憧れた。でも、『魔王さま』には憧れてない」
なんか、やっぱり血の繋がりを感じるなぁ。
フレイルさんって、師匠に考え方が近いというか……
「そう、ですか……」
「いまは何になりたいのよ?」
「魔王です。お父さんが継がないと困るから、魔王がいい!」
「そんな理由?」
「はい! そんな理由です」
「え? マジで言ってんの? 魔王さまって大変なんだよ? 強さと統率力?ってのが必要で……」
「知ってます。ずっとお父さんの背中を眺めていたので」
「ふーん。なら、あたしも魔王目指そうかな! カイムと一緒に!」
それって、ぼくのことを認めてくれたってことかな?
でも、もしそうだとしても、
「手加減しませんよ?」
「うん。こっちのセリフ」
なんかいいなぁ! これがライバルか!
「あとさ、さっきの嘘じゃないからね」
「え?」
「好きって言ったよね?」
「はい。ぼくも好きです」
「ほんとに!?」
「はい。人間として尊敬してます。あ、ぼくは魔族だけど!」
「この……マジパンダがぁ!」
顔面をグーパンで殴られるぼく。
頬にパンチがめり込んで、軽く吹き飛ばされた。
そして、壁に叩きつけられる。
「ぶはぁ!!」
「あれ? あたしって力持ちだな?」
「『勇者』の血を引く者は、怪力と『回復魔法』と『ワープの魔法』が使えるらしいです……」
「へー、知らなかった。それで、鈍感マジパンダに言っておくけど、あたしはさっきの一言で、ちょっと心揺らいだんだから」
見下すような目線で人差し指をぼくに向け、その手を振り動かすフレイルさん。
「ぼくもです! さっきの言葉、響きました!」
「あと、乗り気じゃなかったけど、許婚の件も、いまは悪くないって思ってるから。じゃあね」
「……え?」
鈍感ってそういう意味だよな……?
もしかして、ぼくのこと好きなのかな? でも、好かれているからって、付き合っていいのか?
いや、落ち着けカイム。
まずは、ぼくのこの気持ちが恋なのか、それとも人として惚れ込んだのかを確かめなければ!
「フレイルさん! 待ってください!」
気を取り直してフレイルさんについていくぼく。
「待ってくださいよ!」
「魔界の食べ物で何が好きだった?」
「ケルベロスの丸焼きです! ……って、なんで食べ物の話を?」
「あー、あれ美味しいわよね」
「忘れられない味ですよね! ……って、だから、どうして食べ物の話を?」
「なんかお腹空いたしさ、ごはんにしましょ?」
「フレイルさんは料理作れますか?」
「え? 作れないけど?」
「ぼくは作れます! 師匠に『夜食作ってくれ』とか『小腹空いたから作れ』って言われて、上達しました!」
「あのクソオヤジ……! 許さない」
フレイルさん、顔が怖い……
「それと、さっきの話ですけど、自分はフレイルさんが好きです」
「……うん」
「でも、これが人としてなのか、異性としてなのかがわかりません!」
「え? カイムって同性にもドキドキすんの!?」
「いや、しませんよ! でも、魔族には珍しくないんです! 性別不明の人もいるから!」
「ああ、そういえばいたわね」
「だから、まだ交際はしないです」
「うん。ぼちぼち行きましょう」
「では、ぼくとは目を合わせないでください! 手も繋がないでください! あとできれば、ぼくのことをチラチラ見ないでくだ……」
「この、マジパンダがぁ!!」
「な、なんで……!?」
殴られた。
しかも、本日二回目だし……
そして、壁に叩きつけられる。
「ぐへぇ」
「それじゃあ親友にすらなれないじゃないの!」
「……だって、恋愛ってそういうものでしょう!? 友達とか親友とは、目を合わせないし手も繋がないでしょうが! 普通は!!」
「恋愛初心者か! そんなわけないでしょう! 潔癖すぎるっての!」
「ならフレイルさんは、友達と恋人繋ぎをするんですか!?」
「しないわ!」
「ほら!」
廊下で言い争いしていると、師匠とお父さんがやってくる。
「悪いな、フレイル。カイムは恋愛下手だから……」
「話しかけないでよ。クソオヤジ」
「カイムよ、男たるもの、押すときは押せ!」
「はいっ! お父さん! 押すときは押して、引くときは引けってことですね! じゃあ、逃げます!」
「えっ」
ぼくはフレイルさんから逃げた。
「待てや、マジパンダ!」
「フレイルさん!」
「なによ!?」
「言葉遣いが荒れるときありますよね!」
「ええ! それが?」
「そういうところ、かわいいです!」
「は、はぁ……!?」
顔を赤くしながら、足を止めるフレイルさん。
「では、料理を作ってきます」
それ以降、フレイルさんは追ってこなかった。
そして、
「「「この世のすべての生命を弔い、今もなお生きようとする生命に対し感謝を。では、今回も……命を美味しくいただきます!」」」
「……何それ?」
「クソオヤジには教えないもんね! べー!」
「師匠が『長いから』って、途中で覚えるのをやめたやつですよ」
「勇者よ、今のは、魔界流の『いただきます』だ」
「ああ、思い出した! あれか!」
こうして、パクパクと食べる師匠。
だけど、
「アイムさんの料理の方が美味しいわね。あ、このおかずは同じくらい美味しいかも!」
「あ、それぼくが作りました」
「やはり天才だな、カイムは……!」
「それよりお前たち、仲良くなれたんだな! 隣に座ってるし!」
「は、はい……」
「カイム。魔界では友好の印に、ほっぺにキスすんのよ」
「いやそんなの知らないんですけど!」
「いまあたしが作ったの!」
唇をほっぺにつけようと狙ってくるフレイルさん。
「師匠、助けて!」
「クソオヤジ、邪魔したらぶっ飛ばす!」
「クソオヤジ……」
「ドンマイだ、クソオヤ……ゲフン、勇者よ」
「誰か助けて〜!」
こうしてぼくたちは、昼ごはんを少しうるさいくらいにぎやかに食べた。
というか、フレイルさんがしつこかったけど、ちょっとだけ楽しいと思うぼくもいた。




