第六話 涙と家族
自由とはなんなのか……それを探して早一年。
あたしは悩んでいた。
「あーもう! 自由ってなんなのさ!」
「魔法学」のこと? それとも生き様!?
なんにせよ、自由とは哲学なのかもしれない。
「ていうか、来て一年半くらい経つけど、みんないい人だし! あたしもみんなに馴染みすぎだし、もうわけわかんない!」
パパとママは忙しいから誕生日を祝ってくれるのが雑だったけど、魔王さまたちは違った。
常に夜のような薄暗い雰囲気の魔王城だけど、魔王軍のみんなは部屋を暗くしてくれたり、年齢の数だけケーキに蝋燭を立ててくれたり、ふーって消したら拍手してくれたり……
普通に祝ってくれたんだよなぁ……。
「もしかして、普通ってこんな感じなのかな……? あたしって、王族ってやつだもんな……」
いまだって、実家よりもベッドが大きいし、部屋広いし、魔王さまの息子さんは愛されてたんだろうな……。
「ああ、くそ! パパ……いや、あのクソオヤジ! あたしがぶっ飛ばしてやりたい!! いままで王様の仕事サボってたくせに、あたしに全然かまわないで自由に生きやがって!! あ……!」
そうか! 自由って、パパみたいな感じで生きればいいのか!
……なら、逆の道を行ってやる。
どうせあのクソオヤジの弟子だ。あいつのせいで真面目になるか、あいつに似るかの二択だ。
あたしも強くなるしかない! この『家族』を守るために!
あたしだって、「本当の家族」よりも『家族ごっこ』の方が好きになるとは思わなかった!
早速行こうかな。アンドレアルフスに強くなる方法を聞きに!
「アンドレさん、いるー!? ……って、いまは出払ってるのか」
「どうしたのだフレイル?」
「魔王さま。魔王さまって、息子さんのこと大事?」
「ああ。カイムのことを忘れたことは一度もない。再会したらハグすると心に決めている。……はっ!? ……なんてことはしたくないが、あいつが望むのならしてやってもいいが」
「いやいや、素敵な関係じゃない? 自分の気持ちに嘘ついたら、本当の自分を見失うかもよ?」
「ふっ……勇者にも似たようなことを言われたな」
「あのクソオヤジはさ、あたしのこと大切かな?」
「……どうかしたのか?」
あー、なんかいまブルーだし、全部言っちゃおうかな。
「実はさ、あたし、誕生日をちゃんと祝ってもらったことないから。だから、蝋燭を用意したり、ケーキみんなで食べたり、甘ったるくても、みんなあたしのために平気な顔作ったりさ……してもらったこと、なかったから……あれ?」
あたしはいつの間にか涙を流していた。
「そうか。われもお前と同じだった。でも、それが魔王の血筋だから仕方ないと思っていた矢先に、勇者に言われたよ。『自分に嘘ついたら、本当の自分がいなくなるぞ』ってな」
「そっか……」
「だから、われは歴代最強の魔王だし、反発したな。それで、奥さんと結婚して、子どもができて……いまではわれの両親も、カイムのためにおじいちゃんやおばあちゃんしてるぞ」
「そっか……!」
「フレイルもいまの勇者が気に食わんのなら、子世代に託すんだな。間違えるのは親世代までにしろ」
「うん!」
「それと、われが勇者に怒っておく。『子どもに心配かけさせるな!』ってな」
「えっ? なんで魔王さまが……?」
そう尋ねると、魔王さまは(見えないけど)キョトンとした顔で言った。
「え? なんでって、わからんのか? われにとっては、もうお前もわれの子どもみたいなものだからな。もはや赤の他人とは言えぬだろう」
魔王さまが当然のように言うので、いつの間にか涙がポロポロと落ちてきて、あたしは泣いた。
「……う……う、うええええ! うえええん!」
泣いて泣いて泣き散らした。
久しぶりに泣いたから、顔が熱くて、喉も少し痛くなる。
「な、なぜ泣く!? われが困るであろう!」
「ご、ごめんなさい。だっで、あたしたち、『家族』なんだなって……」
「え? 当たり前だろう。お前を自由にさせているのは、主にお前の自分らしさを尊重するためだ。魔界で窮屈に育てるのは、ストレスになるかもしれんからな」
「ぐすっ……そうなんだ。それにしても、魔王さまの奥さんさ……」
「な、なんだ?」
「……見る目あるね」
「まあな!」
あ、そうだ! どうせだったら、魔王さまに聞いちゃおう。
涙を拭って気を取り直すあたし。
「魔王さま!」
「なんだ?」
「クソオヤジをぶっ飛ばしたいから、修行つけてよ!」
「断る」
「えー、ケチ!」
「前も言ったが、強くなりたければ盗め!」
「うん!」
そうだった。あたしは魔王さまの弟子じゃないけど、憧れてるんだ!
「魔王」という職に! なら、「いまの魔王」の言ってることを受け入れないと!
「……で、何をすればいい?」
「お前は高速移動ができるだろう?」
「う、うん! でも、内臓が揺れて、気分が悪く……」
「なら、まずはそれを克服しろ。その次は……できるようになってから教えてやる」
「わかった! それじゃあ早速、魔王さまの部屋に行ってくる!」
「うむ!」
よし、強くなるんだ。
……最初は無我夢中で高速移動を使うたびに気持ち悪くなってた。
でも、一時間くらいやると、数十回目の吐き気と共に臓器の動く方向……
臓器の寄る方向がわかるようになった。
「ぅえ……よし、お腹の中が揺れるから……斜めに高速移動して、徐々に慣らしていこう!」
それから一ヶ月で、あたしは高速移動を会得する。
内臓がズレる感覚、最高速度のコントロール、そして、加速したときの身体の振動。
すべてに慣れて、操作可能になった。
「魔王さま! 会得しました!」
「うむ。次は『有物質光技法』の運用だ。鞭だな。まずは鞭を再現してみせろ。難易度が高い順で行く」
「えっ? 逆じゃないの!?」
「お前って、ハードルが高い方が燃えるタイプだろ?」
「もちろん!」
「ならやれ。でも、できないとわかれば質問するのもありだ」
「はい! ありがとうございました!」
鞭のしなりを再現するのは大変だ。
手裏剣とかなら質感を再現できるけど、鞭はさすがに無理だった。
というか、先端なんだよなぁ。
先端の速度が足りなくて音がしない。
三ヶ月後、魔王さまに相談する。
「おお、遅かったな」
「実は、先端の音が鳴らないんだよね」
「フレイル。お前は本物を見ずにそこまでいったのだ。誇っていい」
「うん……」
「本物の鞭の形や質感を覚えろ。われが扱ってやろう。来い」
「はい!」
魔王さまの協力のおかげで、三日で会得する。
「ありがとうございました!」
「うむ。そして、鞭を再現できるなら、お前はほとんどの武器を再現できるようになったのだ」
「は、はい!」
「だから、危険なものは作るな。モーニングスターとか、トゲトゲしたものはな」
「モーニングスター? とりあえずわかりました! 剣は?」
「剣はセーフだ。リーチが長すぎるものを、われは好かんからな」
「そんな理由……?」
「それより、あと二年ちょっとだ。自由に生きろよ」
「はい! クソオヤジをぶっ飛ばしたいんで、強くなります!」
そう決意してから早二年……
身長も伸びたし、部屋にあるおもちゃも増えた。
魔王軍のみんなとも打ち解けられるようになって、もうあたしの「第二の家族」と言ってもいいかもしれない。
それからあたしは、魔王軍の中ではかなり強い方になった。
一番は魔王さまの息子さんだから、あたしは二番目くらいかな?
いや、魔王さまを含めたら三番目か。
「よくぞここまで強くなった。最後に、手合わせしよう」
「うん! じゃあ、いくよ! 『魔力解放』!!」
魔王さまの部屋が、紫色のオーラに包まれる。
「『有物質光技法』! 光分身!」
あたしは光の人型の分身に剣を持たせ、
魔王さまに向かって突撃させる。
「ほう、なかなかやるな! 『紫電』!」
魔王さまが手を下ろすと、部屋が一瞬だけ紫色に光った。
そのあと、一瞬で紫色の雷が落ちる。
「紫の雷!? 初めて見た……! けど、『発光』!」
光の分身が倒された拍子に光り輝く。
「くっ……! 目くらましか!」
「連続『高速移動』! からの、『有物質光技法』! 手裏剣!」
「高速移動」で距離を取り、
移動する勢いそのままに加速した手裏剣を投げつける。
「『紫電一閃』!」
今度はさっきの比じゃないほどの、怒涛の雷が降り注ぐ。
そして、紫色の雷は広範囲に広がって、光の分身たちがかき消される。
投げた光の手裏剣も、いまの「紫電一閃」でかき消された。
「こうなったら! 『聖光魔法』、光のメイス! これだけは魔族キラーだから、できれば使いたくなかったけど……!」
「ほう。ならば! 『魔王の力』、『解放』!!」
これが、魔王さまの「魔力解放」……!?
「次元が歪んでんのに、部屋の奥までがオーラに飲み込まれた!? やばいな!」
「本気でいくぞ! 『魔力強化』!」
一瞬で視界から消える魔王さま。
「き、消えた!?」
「う・し・ろ・だぁ!!」
あたしは頭を鷲掴みにされた。
「まさか、握りつぶす気!?」
「いや、われのみが可能とする技、『魔力吸収』だ」
ギュンギュンと魔力を吸われ、あたしは膝から崩れ落ちた。
「ぐふ……」
「ふぅ、これでもう戦えまい。われは久しぶりに戦ったが、最初に会ったときよりも強くなったな。フレイル」
「……うん! 『紫電』って技、すごかった……!」
「そうか。むこうに帰るのは来月だ。それまで、とことん戦おう。お前は戦闘経験が浅いからな」
「うん! わかった!」
こうして、入学までのひと月の間、毎日激闘を繰り返した。
たびたび武器を試しては、「ナイフはダメ!」とか怒られたり、「強くなったな」と、頭を撫でられたりしたけど、この頃は毎日がすごく楽しかった。
自由とは、自分の信じることを進んでやることだと、魔王さまたちから教わった気がする。
そして、いつの間にか魔王さまが本物の父親みたいになってたけど、あのクソオヤジはこんなに優しくない。
再会したら、絶対にすねを蹴ってやる。
そう決意を抱き、あたしは今日も戦闘訓練をするのだった。




