第十八話 バカップル
「『ワープの魔法』!」
「うん、いつもごめんね。ありがとう、フレイル」
「うん!」
今日も校門前に「ワープの魔法」でワープして登校するぼくたち。
「じゃあ、行こっか!」
「うん! あと、あんまりこっち見ないでね……」
「じゃあ手を……」
「それはまだ早いってば!!」
「なんだとこのマジパンダがぁ!」
胸ぐらを掴んでくるフレイル。
「ちょっ……!? 暴力反対!」
「お前、剣抜いてクソ野郎撃退してたじゃねーか!」
「フレイル、言葉遣い! あと目立ってるから!!」
生徒たちの視線が集まる中、話しかけてくる二人がいた。
それは、
「ちょりーっす! 相変わらず仲良いのな! 魔勇コンビは!」
「目を合わせるのが照れるので、手を繋ぐ方へとシフトした結果、もっと恥ずかしいと気付き、それを断ったのに結果的にはもっと急接近してしまうとは……! グッと来ますね!」
「おいファン一号。少し黙れ」
「あっ、ごめんなさい」
「おれはそんなデボンさんが好きだ!」
「だからライトさん、そういうことは、ひっそりと言わないとめっ! だよ?」
「い、以後気をつけます……」
「おーおー、イチャイチャしおって」
「だね。ライトとデボンさんも仲良いよね」
なんだか、ほっこりするコンビだなぁ。
「じゃあ、いきましょうか。皆さん」
「うん。あたしら二人で行こう? デボン!」
「はい」
こうして、ペアで登校することになった。
そうだ、ライトに聞いてみようかな。
「ライト、さっきは叱られてどうだった?」
「めっっっちゃかわいかった! 特に『めっ!』ってのが……」
そんな会話をしながら教室へと向かう。
「ふぅ……じゃあ、ホームルームまで話そうぜ!」
「うん。またあとでね」
「了解! じゃ、そういうことで」
「ふぅ」
やっぱり親友っていいなぁ。
そんなことを考えながら、ぼくは勉強道具を取り出す。
「ねぇ、カイム」
「えっ? なにフレイル?」
「目を見て」
「う、うん……」
目を合わせるぼくたち。
でも、ぼくはつい目を逸らしてしまう。
「マジパンダが……」
「いや違うんだよ! 反射的に逸らしちゃうの!」
「なら、固定したげる!」
「え?」
フレイルは両手をほっぺに当てて、ぼくの頭を固定した。
「ほら、見て?」
「うん……」
めちゃくちゃ視線を感じる……。
「フレイル、見られてるよ。たぶん……」
「見られるより見てほしいの。あたしは」
「うん……」
そんな会話をしつつ、ぼくは目を逸らす。
「おい、マジパンダ! 目ぇ逸らすな!」
「だから、反射的に……」
そんな会話をしていると、やっぱりライトたちに見られてた。
「いいないいな! デボンさん、おれたちもあれやらない?」
「うん。でも、いまは恥ずかしいから、放課後ならいいかな?」
「わかった! 約束な!」
「うん」
「おいバカップル、見せもんじゃねーぞ?」
「フレイル、言葉遣い! あと、ぼくたちの方がバカップルっぽいから!」
「あ、たしかに……」
「デボンさんは、魔勇コンビをどう見る?」
「えっと……やっぱり、フレイルさんが攻めてカイムくんがカウンターを放つ瞬間が、一番いいなって思うかな」
「でもさデボン、こいつ全然攻めてこないの。どうしたらいいかな?」
「うーん……」
考えるデボンさん。
「押してダメなら引いてみましょう! カイムくんに攻めてほしいなら、受けに徹するのみです!」
「デボンさん、それってカイムに気がないと成立しないやつだよ?」
「大丈夫! カイムくんは意識してるっぽいからね!」
「なんか、ぼくがフレイルを意識してることになってる……」
「いや、カイムも意識してるよ? 前に言ってたもんね? 異性だからドキドキするって」
「うん……それは、そうなんだけど……ていうか、いつ手を離してくれるの?」
「見てくれるまで!」
はぁ……こうなったら、攻めるか。
ぼくはほっぺに置かれたフレイルの手を、両手で掴み、離す。
「おお、カイムが攻めたぞ、デボンさん!」
「うん」
そして、掴んだ手を合わせて、膝の辺りでフレイルの手をぼくの手で覆った。
「カイム……」
「フレイル、ぼくは……」
そう言おうとすると、ガラガラガラッとドアが開けられて、先生がやってくる。
「はい、それじゃあホームルームをはじめます」
そんな先生に、ブーイングが起こる。
「先生! いま、いいところだったのに!」
「空気読め!」
「魔勇コンビがイチャイチャしてたの!」
「先生のせいで台無し!」
「それより、ライトとデボンさんって付き合ってんのかな?」
クラスメイトにブーイングを起こされ、泣きそうになる先生。
ここは、なんとかしないと!
「『魔の力』……『解放』!」
「か、カイム……!?」
教室の空気が紫色に塗りつぶされる中、ぼくは怒鳴るように叫ぶ。
「『声量強化』! 静かに!!!」
教室中に広まったその一言で、辺りはしんと静まり返った。
「先生だってわざとじゃないし、許してあげようよ!」
そう言ってる間に、クラスメイト全員どころか、先生までもが耳を塞いでいた。
「……カイム、『声量強化』解きな? うるさいから」
「あ、うん。『魔の力』……解除!」
「うん。それでよし」
「では先生、続けてください」
「……はい。では、ホームルームを……」
こうして、ホームルームが始まった。
それから昼休みが訪れる。
「カイム、かっこよかったな! おれにも『魔力解放』のコツ、教えてくんない?」
「ライトさん、『魔力解放』は高等部で習うから、別にいま覚えなくてもよくないかな?」
「おれ、強くなりたいんだ! 『勇者』志望だからね!」
二人がそう会話していると、フレイルが口を挟む。
「それで、『元勇者』のクソオヤジを見た感想は?」
「強かったけど、カイムの言ってた通り、だらしなかったかな!」
「師匠はさ、戦いのときは真剣なんだよ? 普段との落差が激しいだけで」
「それはわかってます。わたしの『天敵』でしたので」
ああ、そっか。
デボンさんは初めて対策されたもんなぁ。
「でも、ムカつくけど、クソオヤジは強いんだよね。あたしに『光のあたし』と『雷電落とし』のヒントをくれたのもあいつだし」
「ぼくもたくさん稽古をつけてもらったし、戦闘にだけは真摯なんだよね」
「じゃあ、なんで仕事サボるんだろうな?」
「きっと刺激に慣れたとか、そんな理由じゃないかな? ライトさんはそうならないでね?」
「おっ、もしかして、おれの『勇者』への道を応援してくれんの? デボンさん好きっ!」
「だから、そういうことを本人の前で言わないこと」
「まーたイチャついてるよ……てかデボン、少し顔赤いし」
「でも、ぼくもライトのことは応援してる!」
「あたしも! あんなやつを『勇者』って認めたくないからね!」
「みんな……サンキュー!」
さて、ぼくもライトを見習うか。
ぼくは椅子同士を向かい合わせ、フレイルと対面する。
「フレイル……さっきの続きだけど」
「えっ? なになに?」
「ほら、さっき邪魔された……って言い方は語弊があるけど、言いそびれたことがあるんだ」
「うん。言って?」
クラスメイトから見られてるけど、構うもんか!
ぼくもフレイルみたいに攻めないと、いつか飽きられるかもしれないから!
だから……!
「フレイル、好き……好きな動物は?」
「……パンダ」
「な、なんで?」
「カイムに似てるから。あと……」
「あと?」
「このヘタレマジパンダがぁ!!」
ぼくはデコピンされ、後ろに椅子ごと倒れる。
「ぐあっ!」
「ふん!」
ここは、気を取り直して……
ぼくは立ち上がり、椅子も立てて座り直す。
「フレイル」
「今度はなに?」
「好……好……」
「はぁ……」
目線を外すフレイル。
よし、これなら緊張しない!
「好きだよ、フレイル」
「……え?」
「好きです」
「敬語!」
「はい! ……じゃなくて、うん! ごめん!」
「それで? どんな好き?」
「えーと、人として好き」
「他には?」
「尊敬してる」
「他は?」
「愛してる」
「……ふーん」
「……ん? あっ、いまのは! その、釣られて言っちゃっただけで!!」
「じゃあ嘘なの?」
嘘ではない……のか?
……でも、この胸のドキドキは何なんだろう。
ここは、ぼくらしい言い方で……
「いつか本当にしてみせる。だから、ずっと待ってて! ……以上だよ」
「…………そっか。うん、合格だわ! カイムにしては、頑張ったんじゃない?」
「うん、頑張った。ぼく頑張った!」
「デボンさん! ついにカイムが言ったぞ!」
「すごくよかったですね! もはや語る必要がないほどに! わたし、感動しました!」
デボンさんが拍手すると、教室中が拍手に包まれる。
「よかったぞ!」
「もっとイチャつけー!」
「いやいや、いまの関係性が一番いいだろ!」
「は? やんのか?」
「カイム、漢見せたな!」
「カイムくん、よかったよ!」
「フレイルさん、かっこかわいい!!」
「二人とも最高!」
数々の声援が送られる。
「さて、これでクラス公認のカップルになったわけだけど……」
「なってないよ! ぼくたち、まだお付き合いしてないもん!」
「はぁ? マジパンダ、さっき愛してるっつったよね?」
「だから、それを本当にするまで待っててって話で……!」
「はぁ? やんのかこら?」
「今日は無理! 今日は無理だから!!」
「なんでよ?」
「だって、フレイルが可愛すぎて、戦闘に集中できないから! あっ」
……つい本音が漏れてしまった。
「ふ、ふーん。なら、仕方ないか。あたしも、クソ鈍感ヘタレ真面目パンダ目魔王候補とは戦いたくないし……」
「そ、そっか」
すごい言われようだな……。
「でも……」
「でも?」
「大好き! 愛してる!! 超超超好き!!」
「ふふっ……そっか」
「なに笑ってんのよ?」
「いや、フレイルらしいなって。そういうところ、ほんとに尊敬してるよ!」
「うん。カイムらしいね! でも、それはそれとして、やっぱヘタレマジパンダだわ」
「ごめん……」
ヘタレかぁ……。
いや、合ってるけどね。
「じゃあ、あたしに顔寄せて?」
「な、なんで?」
「いいから!」
「チューとかしたら、詠唱『紫電』だからね!?」
「どんだけ嫌なのよ!」
「いや、嫌というか……照れるから」
それに、みんなに見られてて恥ずかしいし。
「そっか! ならしゃーない!」
「え?」
「あたしが寄せてあげるね!」
「なんでそうなるの!?」
「だって、許嫁だから?」
「それは、そうだけど……」
ぼくがそう言っても、顔を近づけてくるフレイル。
「カイム、横向いて」
「チューしたら……」
「わかってるっての!」
「じゃあ……はい」
そう言って横を向くと、フレイルがほっぺを擦り合わせてきた。
「フレイル!?」
「おー、カイムのほっぺやぁらけーなぁ」
「フレイルのほっぺたも……柔らかいよ?」
「そうかそうか。なんか、恥ずかしいね」
「フレイルにも、そういう感情あったんだ」
「いやあるわ」
「そっか、ごめん……」
何なんだろうこの状況は……?
ほっぺを合わせながら会話してる……
「よし、充電完了! 離すよー?」
「いちいち言わなくていいから!」
ほっぺが離れていく。
……緊張したなぁ。
「あー、あったかかったなぁ!」
「うん、ぼくも……ぼくもそう思った……」
「マジ? よかったー!」
「あ、ライトとデボンさんはどうだった? さっきまでの流れ」
デボンさんとライトはぼくたちのファンみたいだし、一応聞いておこうかな。
「よかったよ! いつもより多めにイチャついてたね!」
「何その言い方!? デボンさんは?」
「よかったですよ?」
「ん? なんか普通だな」
「ああ、デボンさんは浄化されちゃったらしい」
「デボン浄化されたの!? ウケるわ!」
「はい、とっても尊かったです」
「おいカイム、こいつ浄化されてねーぞ?」
「フレイル、言葉遣い!」
「はいはい」
こうして、久しぶりに距離が縮まったような気がするぼくとフレイル。
そして、愛……してるって、ついに言ってしまった。
プロポーズみたいなことも言っちゃったし、これからぼくたちはどうなるんだろう。
そんな不安を抱きつつ、今日も学園生活を満喫するのだった。




