第十三話 魔法学と喧嘩
今日ぼくたちは、いつもとは違う教室で授業を受けている。
これはもしや……
そう期待しながら、ぼくは教卓に立つ先生を眺めていた。
「はい、今日は『魔法学』の授業をします」
やっぱり! 入学前にしっかりと予習したから、活躍してみせるぞ!
「『魔法学』とは、『魔法陣』を使いこなす学問のことを指します。これは知っている方も多いでしょう」
「「「はい!」」」
先生の問いかけに、クラスメイト全員が返事をする。
「では、『魔法学』の分野を解説しますね。『魔法陣』は図形のようなものを円の中に書いた陣を指します。要するに、一般的な『魔法陣』をイメージしてください」
「あの、そこまではわかります!」
「はい、私語を慎むように。ここからが『魔法学』の真価です。まずは『炎魔法』の魔法陣を描きなさい。黒板に描く図と同じように描くこと。魔法陣の大きさと、触れたときのイメージによって、具現化する魔法状態が異なります」
「「「はい!」」」
こうして、ぼくたちは円が描かれた紙を配られる。
「えーと、『炎魔法』の陣は……」
「カイム! じゃーん!」
「おっ、うまく描けてるね!」
「でしょ?」
フレイルが描き終えた頃、周りのクラスメイトたちも描き終えたようだ。
「では、炎をイメージしながら触ってみてください」
「「「はい!」」」
よーし、まずは燃える炎をイメージして……
「……触れる!」
すると、蝋燭に灯す火のように、穏やかな炎が出た。
そして、魔法陣が消える。
「はい。魔法陣は触れたら消えます。それと、その紙は燃えないようにできているので、心配しないように」
「「「はい!」」」
それにしても、みんなで受ける「魔法学」は楽しいな。
「先生! 実戦はするんですか?」
「はい、いい質問ですね。二人の生徒にやってもらうつもりです」
「へー! なら、俺はカイムを推薦する! あいつすごいから、俺は見てみたい!」
「カイムくんですか。……ならもう一人は、『操炎魔法』を使うライトくんでいいですか?」
「えっ!? おれ? おれ、自信ないなぁ……」
「ぼくは……『魔法陣』と暗闇魔法以外は封印してくれるなら、やります」
「はい。では、『魔法陣』の一覧です」
先生は「魔法陣」の載ったポスターを黒板に引っかける。
「二人とも、これらの陣と固有魔法以外、使ってはいけません」
「「はい!」」
こうして、ぼくはライヒトくんと対面する。
「では机を下げるので、少し待ってください」
「「はい!」」
そして、ついに戦いが始まろうとしていた。
けど……
「先生! 『魔法陣』って、どうやって描けば?」
「おっと、忘れていました。二人に『魔法のチョーク』を渡します。これで二人とも、地面や壁に陣を描けますよ」
「あ、ありがとうございます!」
「あざっす。いくぞ、カイム!」
「うん!」
まずはさっき習った『炎魔法』の陣を描いて……!
「触る!」
炎の龍をイメージ!
……ちょっと小さいけど!
「その炎、いただき! 『操炎魔法』!」
「よし。それじゃあ、いまから修行を始めるね!」
「えっ? なんの話?」
「『可視性暗黒技法』! 『暗闇魔法』、発動!」
これでライヒトくんに対してのみ視界を封じられたはずだ。
みんながざわつく中、ぼくはライヒトくんに語りかける。
「ライヒトくん、炎を操作するのをイメージして!」
「見えないのに、どうやれってんだよ!」
「温度のおかげで、『大きさ』、『距離』、『熱さ』、そして『空気の動き』までもがわかるはずだよ!」
「なるほど、サンキュー親友! まずは、近づける! ゆっくりと……」
よし、ライヒトくんの修行のつもりだけど、ぼくが描かないとみんなに怪しまれる!
とりあえず、一覧にあるやつを適当に四つ選んで……
ライヒトくんが感覚を掴む前に陣を描ききらないと……!
「あったかい。この小さいのを、大きく……!」
「いい感じだよ、ライヒトくん!」
「魔法陣」を仕込みながら、ぼくはライヒトくんに話しかけた。
「そして、温度を上げる! 熱い! ……けど、だんだん慣れてきた!」
「『可視性暗黒技法』! 『暗闇魔法』、発動!」
今度は解除するために、全員が見えるように発動!
これで上書きされたはず!
「「「おぉー!!」」」
上書きしたことで、クラスメイトから歓声が上がる。
「暗闇魔法」を二重にかけても見えるんだし、当然か。
「おっ、見える! そして、炎がおれと同じくらいの大きさだ!」
「うん! ここからは、真剣勝負だよ!」
「オッケー! 『操炎魔法』! 『炎の魔法陣』! 形は『炎魔法』!!」
「なるほど! 『魔法陣』を炎で描いたのか! 賢いね、ライヒトくん!」
「おう! 『操炎魔法』! 煉獄!!」
よし、いい感じだ。
「『水魔法』の陣! 発動!」
大きな炎に大量の水を流しかける。
「ああっ! 小さくなっちゃった!」
「そして、『風魔法』の陣! 発動!」
強風で炎を吹き飛ばす。
「よし、これはむしろ強化だ!」
「そうか、しまった!」
「カイムは近づかれたら嫌みたいだね! なら、嫌でも近づいてやる!」
「くっ……! 『土魔法』の陣! 土の壁!」
「なにそれ? まだ逃げるわけ?」
ぼくは後ろに下がる。
「ふっ!」
炎で壁を燃やして固めてから、蹴り上げるライヒトくん。
土の破片がぼくの身体に吹き飛んでくる。
「いてっ!」
「いくよ!」
瓦礫を足でどけて、土の壁だったものを跨ぐライヒトくん。
……よし、かかった!
「ん? なんか踏んだ?」
「『氷魔法』の陣! 発動!!」
「し、しまっ……!」
ライヒトくんが氷漬けになる。
「ライヒトくん、卑怯でごめん。でも、本来ならキミの勝ちだったんだ」
「お……う……」
こうして、ぼくは勝った。
ライヒトくんは、遠距離や中距離で戦うタイプなのに間合いを詰めてきた。
つまり、その強欲さによって敗北した。
「良く言えば経験の差。悪く言えば油断と欲のせいで敗れたんだ。でも、これは授業だから、ぼくに有利過ぎた。次はちゃんとした形で真剣勝負しよう!」
「さ……む……い……」
「あっ、ごめん! すみません、先生! 『流動紫電』!!」
「紫電」を直接流して、氷を砕く。
紫色の電流が氷に帯電して、じわじわと氷にヒビが入り、そして氷は弾けた。
「けど、ビリビリする……!」
「『魔力吸収』!」
「お、おお……!」
「……どうかな?」
「うん。いい感じ! それより、さっき逃げてたのは誘ってたのか」
「うん」
「そんで、おれはまんまとハマっちゃったと」
「うん……」
「ならさ! さっきも言ってたけど、今度はガチでやろーな! これ、約束な!」
「うん!」
拳を突き合わせるぼくたち。
その光景に、みんなが拍手してくれる。
「でもさ、『氷魔法』を隠すのはズルくね?」
「だから、遠距離で攻撃してればよかったんだって!」
「でも、それじゃあつまんなくない?」
「『勝負に卑怯なんてない! 勝てば正義!』って、お父さんはそう言ってたよ! その覚悟がないくせに、『勇者』になるつもりだったの?」
この発言のせいで、ライヒトくんはブチ切れたのか、口調が変わる。
「はぁ? あのさ、おれはなぁ……」
「はい、そこまでです。席に戻りなさい」
「「はい……」」
こうして、ぼくたちは席に戻る。
「はい。『魔法学』とは、いかに自分のペースに引き込むのか。それを補助するものだと思ってください。それでは、今回はここで終わります」
「「「ありがとうございました!」」」
こうして、「魔法学」の授業は終わった。
そして放課後がやってくる。
「カイム、一緒に帰ろ?」
「うん……」
「もしかして、ライヒトに勝ちゃって、罪悪感ある?」
「いや、そっちじゃなくて……」
どう考えても言い過ぎちゃったよなぁ……。
謝らないと……!
「あ、フレイルさん。カイムくんも!」
「おっす! ライヒトは?」
「先に帰るって……」
「ぼくも先に帰る! ちょっと用ができたから!」
「あ、ちょっと! カイム……!」
くそ! ぼくのせいだ!
ぼくがあんなことを言ったから、ライヒトくんは……!
「あ、いた!」
校門を出ると、ライヒトくんを発見する。
でも、こっちに気付いたのか、走って小さくなっていくライヒトくん。
こうなったら、ぼくだって……!
「『魔の力』……『解放』!!」
紫色のオーラがぼくの身体を包み込む。
「『魔力強化』! 脚!」
そうして、勢いよく地面を蹴ると、一瞬でライヒトくんに追いついた。
「カイム!?」
「ライヒトくん……ごめん、さっきは言い過ぎた」
「うん。いや、それはどうでもいいんだけど……おれ、『勇者』目指すのやめようかなって」
「えっ?」
「だって、もしなれたとしても、『勇者』って柄じゃないし、戦い嫌いだし、平和の方が好きだし……それに、『勇者』は命を奪うこともあるしさ……」
「ライヒトくん……」
こういうとき、師匠なら……フレイルなら、なんて言うのだろう。
お父さんなら、なんて言うのだろう。
ぼくは、みんなの影響を受けていま生きてる。
なら、ぼくがライトに影響を与える存在になるしかない!
それが、「元勇者の弟子の魔王の息子」、カイムなのだから!!
「ライト」
「……何? 急に?」
「自由に生きればいい」
「えっ?」
「お父さんも、師匠も、フレイルも、みんな言ってた。だからぼくはここにいる。目指すものが変わってもいい。目指していた頃が楽しかったら、ぼくはそれでいいと思う」
「……うん」
「そして、目標を作ることは偉いことじゃない。目標を目指すことが偉いから。要は、目標を立てるだけじゃなくて、きちんと努力で掴み取ること!」
「……そっか! そうだな!」
「フレイルと師匠の言葉だけどね。そして、『目指した努力』は無駄にならない! 『経験値』として役に立つ日が、きっと来るから! だからこそ、自由に生きて、やめたくなったらやめて、たまに休んでもいいと思う」
「うっす!」
「ライトはさ、それを踏まえて『目標』はある? ぼくは『魔王』になる! これは、きっかけは周りだけど、自分で決めたことだから! そこは曲げない!」
「へー! ならおれも、やっぱり『勇者』だな! 自分で決めたことだから!! カイム、ありがとな! 元気出た!」
「……うん。なんか、説教臭くなってごめんね」
「いいっての! ほら!」
「うん!」
こうして、握手するぼくたち。
「ふっ……ついに握手したな。魔王城のときは、これ以上仲良くなる予感はしなかったのに……」
「ぼくも、こんなにライトと仲良くなるとは思わなかった。だって、普通にウザかったから」
「おうふ……」
「でもいまは、結構爽やかなやつで、すっごく親友だと思ってるよ!!」
「おう!」
拳を合わせるぼくたち。
「あっ、おーい! カイム!」
「フレイル!」
フレイルがぼくたちに追いつくと、フレイルの影からデボンさんが出てきた。
「あれ? 仲直りしたの?」
「うん! ライヒト……じゃなくて、ライトとぼくは、ものすごく親友だからね!」
「そして、フレイルに負けないくらいカイムとおれは仲良しだからな! 言っておくけど!」
「なんだと金髪野郎?」
「まあまあ……」
ぼくはフレイルを宥める。
「ふふっ……ようやくいつも通りですね」
「うん! じゃ、帰りましょう!」
「みんなも来たい? ぼくのいまの家!」
「おれはいいや。でも、また休日前に行きたいかな!」
「そっか! デボンさんは?」
「わたしもライトさんと同じで!」
「サンキュー、デボンさん! おれのことをちゃんと名前で呼んでくれて!」
「はい! その、友達ですし……」
「……それで、フレイルは?」
「ライヒト!」
あ、フレイルは呼び方変えないんだ……。
まあ、フレイルらしいけどね。
「じゃあね、ライト! デボンさん!」
「それじゃ、また明日ね! ライヒト、デボン!」
「おう!」
「はい!」
こうして、二人と別れるぼくとフレイル。
ライトと仲良くなれてよかったと思う反面、ちょっとだけドキドキした自分がいた。
魔族の血のせいかもしれないけど、そこよりライトと仲良くなれて嬉しい気持ちの方が大きいから、良しとしよう。
そして、ぼくも結構学園生活に馴染んできたなと思いながら、王宮へと帰るのだった。




