第6章ー家族の形ー
目が覚めたとき、京慈はまず違和感を覚えた。
(……静かだ)
見慣れない木目の天井。
孤児院でもギルドでもない。
ここが九識家だという事実だけが、妙に現実として残っている。
廊下に出ると、人の気配はある。
だが一定ではない。
誰かが通り、誰かが戻り、誰かは途中で消える。
時間の流れが噛み合っていないような空間だった。
「おはよー」
軽い声。
振り向くと、かぁりが手を振っていた。
「起きてた?」
「おはようございます、かぁりさん」
京慈は軽く頭を下げる。
「朝ごはんの時間だよー」
「今行きます!」
かぁりは距離を詰めるように並んで歩くが、京慈は一定の距離を保つ。
それを気にする様子はない。
食堂に入ると、すでに数人が席についていた。
空席もある。
だが誰もそれを問題にしない。
それがこの家の日常だった。
「おはよう!かぁり!京慈!」
りゅーいちが朝一とは思えない大声で挨拶してくる。
「おはよ。りゅーいち兄ちゃん」
「おはようございます、りゅーいちさん」
「今日もいい日になる!俺はそうだとわかる!」
軽い笑いが飛び交う。
距離は崩れない。
食卓では会話が続く。
だが内容は普通ではない。
「りすず昨日の輸送ルート、ズレてた」
「あーそれ監視入ってんな」
「じゃあ次は迂回しなきゃだね」
京慈は黙って食事を続ける。
(これが朝の会話か……)
視線を感じる。
アスノがこちらを見ていた。
「私たちに慣れた?」
「いえ、まだです、アスノさん」
「まあそうよね。いきなり家族って言われてもね。」
短く返す。
奥の席にはカナムが座っている。
彼は当主であるが中心ではない。
ただ空間に“存在している”だけのような圧。
(この人は、いつ動いているんだ……)
食事が終わると、各自が自然に動き出す。
誰かは外へ。
誰かは別室へ。
誰かは廊下で消える。
「あ、いた京慈」
「はい」
呼ばれて振り向くと、らきが立っていた。
「今日は何か予定ある?」
「特に予定はないです」
「じゃあ家の構造見てく?」
「お願いします」
廊下を歩きながら、らきは軽く話す。
「この屋敷、道分かりにくいでしょ?」
「まあ…はい」
「だよねー」
気軽に笑う。
「そのうち慣れるよ」
「皆さんもそうでしたか?」
「んー、どうだろ。生まれも育ちもここだからな。」
曖昧な返事。
だがそれ以上の説明はない。
途中でらきが止まる。
「ここは入らないで」
「わかりました。理由はなんかありますか?」
「簡単に言えば、危ないから」
それ以上は語らない。
別の廊下。
機械音がする。
部屋の中では*そら*が作業している。
壁がわずかに動いている。
(……家が生きている?)
さらに別室。
りすずが端末を操作している。
「状態安定」
「問題なし」
淡々とした声。
「そら兄ちゃんが設計、りすずが管理」
らきが言う。
「便利でしょ」
「……便利というより異質です」
京慈は正直に答える。
廊下を進む。
「そういえば、カナムさんはどちらに?」
「知らない」
「いつもですか?」
「だいたい?」
軽い返答。
だが違和感は残る。
(中心がない家だ……)
夜。
食事の時間。
再び全員が自然に集まる。
「今日、侵入なかったね」
「いい傾向ジャン」
「そらの調整効いてる」
「珍しく働いてるじゃん」
「毎日働いてます~」
軽い笑い。
京慈は静かに食事をする。
(これが……家族?)
食事が終わる頃。
カナムが食事を終え、立ち上がる。
誰も驚かない。
視線だけが向く。
「京慈」
「はい」
「まだみんなと距離があるな」
「はい、努力はしてるんですけど…」
否定はしない。
「ゆっくりでいい。お前のペースで、私たちを信用してくれれば」
それだけ言うと背を向ける。
京慈はその背中を見て思う。
(ここは何なんだ)
軍隊でもない。
組織でもない。
家族。確かに絆は感じられる集団であった。
夜、京慈は部屋に戻る。
天井を見ながら思う。
(これが、家族か。)




