第5章ー九識家ー
「はあ…、あんた、その持ち方はなくない?」
紫髪の男が片手で抱えている京慈を見て、黄色髪の女の子が聞いた。
空気が一瞬で冷えた気がした。
京慈は目を開けたまま思う。
(……荷物か俺は)
大広間。
扉の先には8人の人間。
だが“人間”という単語で収めるには、あまりに異質だった。
「だって、連れてくるまでに1回逃げられてるんだ。仕方ないだろ。」
紫髪の声が鋭く落ちる。
一歩前に出たのは、黄色髪の少女だった。
「それ、説明になってないでしょ。当主とは言え、そんなことは許されないよ」
視線は紫髪の当主に向けられている。
怒りというより、純粋な正論。
「人様を荷物みたいに持ってくるな」
京慈は心の中で即同意した。
(ほんとそれ)
紫髪の男――当主は気にしない。
「これが一番効率がいい運び方。連行するのとはまた別だからな。安全面を考慮してこれがベストだ。これが説明だ」
「成立してないね。」
後ろでオレンジ色の髪の女性が即答する。
空気が張り詰める。
だが当主は笑うだけだった。
その空気を崩したのは、軽い声だった。
「まぁまぁ、いいじゃん」
緑髪の女性が手を振る。
「まず解こうよ、それ」
気さくに、当たり前のように。
紫髪の男はソファにゆっくり京慈を置いた。
5人くらいが京慈の拘束具に手を伸ばす。
「え、ちょ――」
「動かないでねー」
あっさり解除される。
緊張も警戒もない。
ただ“そうするものだからそうした”という動き。
拘束具が解かれ、椅子に座らせられる。
ピンクの長い髪を揺らす少女が、ぱっと笑った。
「じゃあ、自己紹介するね!」
明るく言った。そして、間髪入れずに、
「逆順でいくねーその方が覚えやすいでしょ?」
ピンク髪の少女は他の面々の有無を聞く前に自己紹介を始めた。
「私はかぁり。末妹の末っ子でーす!一家の回復担当でーす!」
明るい笑顔を見せている。
「よろしくー」
「次、りすず姉ちゃん」
オレンジ髪の女性を指さした。
「…私はりすず…情報系の担当してます。」
「えっと…よろしく…」
怯えてるような緊張してるような感じだった。
「次は僕だね。」
白髪の少年が話し始めた。
「僕はぽた。特技はダンスと音楽。戦うのは得意じゃない」
「でも、リズムなら任せて」
京慈は何となく、無機質感をぽたに感じた。
「次らき~」
ぽたは緑髪の女性を指さした。
「はーい。らきだよ~!特技は変装かな。こんな風に…」
と言いながららきは下を向いて顔をいじり始めた。
「じゃーん!」
らきが顔を上げると、京慈の顔になっていた。
「うおおお」
京慈は驚きのあまり声を上げる。
それを見てらきは嬉しそうに
「いい反応!こりゃやりがいがあるね~」
と言った。
「俺はあきと。しいて言うなら武器担当かな」
青髪の青年が言う。ガタイの良い青年だった。
「他…特に言うことないかな。以上」
「短いな」
と紫髪がボソッと言うも
「十分だろ」
と、あきとが返す。
水色髪の少年に視線が集まり、少年が気づいたように話し始める。
「どうも~そらです。機械と制御系を得意としてます~。よろしくお願いします~。」
そらの自己紹介が終わると、らきが京慈に耳元でボソッとつぶやいた。
「そら兄ちゃんは、機械系のプロフェッショナルなんだけど、最近ニート気味なんだよね。」
京慈はそれを聞いて苦笑いしかできてなかった。しかし、それが聞こえてたのか、
「本気出せば戦場の構造は全部いじれる」
さらっととんでもないことをそらが言う。
「一応こんな感じでもお兄ちゃんなんです~」
と、最後はプライドのようなものがあったのだろうなと、京慈は思った。
黄色髪の少女に視線が移る。
「私はアスノ。得意なのは弓道。」
さっき怒ってくれた人だ。
「私はあんたを連れてきたバカ長男が不在時のまとめ役……ってとこかな」
「りゅーいち、あんたの番だよ。」
「おう」
赤髪の青年に目をやる。
「りゅーいちだ。よろしく!」
「お前冒険者なんだって?」
「戦えるんだろ?一緒に任務に出るのが楽しみだな!」
「うるさい」
らきが即ツッコミを入れる。
「気軽に喋るな」
「いいだろ!」
この距離感が普通らしい。
最後に――
紫髪の当主。
「カナムだ。会話から悟ってると思うが、私が現九識当主。」
それだけ。
だが空気が締まる。
アスノが一歩前に出る。
「じゃあ、本題に移ろうか。」
「京慈…あんたを引き取った理由についてだ」
京慈は黙る。
「まずは、紋章について説明しようかね。」
「紋章には発現しうる可能性が二種類ある」
アスノが続ける。
「遺伝型と突発型」
「そして九識家はその両方を持つ変わった家系さ。」
「つまり、ほぼ全員が何かしらの“発現者”になる家系だ」
京慈の視線が動く。
「でも問題はそこじゃない」
アスノは言う。
「何の紋章が出るかは分からない。それが九識の最大の謎」
「普通はね」
「でも一部だけ例外がある」
「“相伝”」
「代々継がれる紋章がいくつか存在するんだよ。」
視線が京慈に向く。
「あんたのの“硬化”」
「それ、それが九識家の相伝の紋章の可能性がある」
京慈は自分の腕を見る。
「身元不明では危険すぎる。もし仮に、あんたが九識の人間であれば、実験の研究になりうる可能性がある。九識の血は特別だからね。」
「だから確保した」
淡々とした説明。
京慈は言葉を失う。
(俺の…親について何か知ってるのかな…)
聞こうとした、その瞬間。
「警報」
無機質な音。
空気が一変する。
りすずが即座に操作する。
巨大モニター。
映るのは――
武装集団、およそ二千。
「久しぶりに多いな」
りゅーいちが嬉しそうに言う。
「喜ぶな」
らきが即ツッコミ。
「はいはい、みんな配置に着きな」
アスノが冷静に指示を出す。
全員が自然に動き出す。
迷いがない。
カナムが京慈を見る。
「いい機会だ」
そのまま軽く持ち上げる。
「えっ」
京慈は外へ出される。
そこには数千の敵。
だが九識家は動かない。
りゅーいちが斬る。
アスノが弓を撃つ。
そらが戦場構造を変える。
あきとが制圧射撃。
ぽたが蹴り飛ばす。
らきが攪乱。
かぁりが支援。
りすずが全体管理。
そしてカナムが全体を“確認”する
戦闘は一方的だった。
数千が崩れる。
京慈は呟く。
(これが……家族?)
カナムが言う。
「お前もこうなる」
「ここでは、それが普通だ」
「九識家の表の顔は、王国トップの名門名家。しかし、その本来の役割は国内の裏社会を統べる影の統治者。」
そして――
「今日からお前も家族の一員だ」
その言葉は重かった。
そして、京慈の九識家での生活が始まる。




