第52章ー技術の意味ー
九識家地下開発室。
「……それで?」
「今回は何を爆発させたの?」
りすずが呆れたように言う。
その視線の先。
煙と焦げ跡。
そして。
満足げな顔のそら。
「失礼だなぁ。まだ爆発してないよ」
「“まだ”って言った」
その横でめいが目を輝かせていた。
「すごい……!」
「浮いてる……!」
宙に浮く球状ドローン。
淡い光を放ちながらゆっくり回転している。
そらは得意げに笑う。
「最新型多目的支援ドローン」
「掃除、護衛、修理、探索、料理補助、あと簡単な迎撃機能付き」
「最後だけ物騒」
その後ろで京慈が嫌そうな顔をしていた。
「嫌な予感しかしねぇ……」
次の瞬間。
ドローンが突然高速回転した。
「え?」
「待って」
「それまだ――」
ドゴォン!!!
爆発。
京慈が吹き飛ぶ。
「うおぉぉぉ!?」
壁に突っ込む。
めいが悲鳴を上げりすずは即座に距離を取った。
煙の中。
そらが目を逸らす。
「……試作段階ってことで」
「俺を試験台にすんな!!」
地下室に怒声が響く。
騒がしい。
だが。そらは壊れたドローンを拾い上げ、ふと小さく呟いた。
「……武装機能はやっぱり消しとくべきだったかな」
りすずが聞き返す。
「何か言った?」
「ううん、独り言」
その時。
端末が鳴った。
ピコン。
そらの目が止まる。
画面を見る。
そこに表示されていた名前。
『エデン工学会』
空気が少し変わる。
りすずがすぐ反応した。
「……またか」
そらは軽く笑う。
「まぁね」
「昔からしつこいんだよねぇ」
だが。
その笑顔は少しだけ薄かった。
――――――
数時間後。
王都外周。
巨大研究施設。
白を基調とした無機質な建物。
そらは一人で中へ入っていく。
……はずだった。
「…なんでいるの」
物陰から現れたのは京慈、りすず、めいの三人。
りすずは平然と言う。
「危険性を考慮した」
京慈は腕を組む。
「俺たちは巻き込まれました」
「嘘つくな」
「嘘じゃないんですけど…」
めいは元気よく手を上げる。
「私も来た!」
そらは頭を抱えた。
「はぁ……」
「心配しかない」
だが。
少しだけ嬉しそうだった。
――――――
施設内部。
広いが静か。
白い廊下がどこまでも続いている。
その奥。
白衣姿の男が立っていた。
銀髪に細い目。
柔らかな笑み。
「お久しぶりですね」
男は笑う。
「そらさん」
そらの表情が消える。
「……レイン」
レインは穏やかに言った。
「相変わらず警戒心が強い」
「何回もスカウトしてくる奴を警戒しない方がおかしいよ」
レインは肩を竦める。
そして。
施設の奥へ視線を向けた。
ガラス越しにある大量の機械。
義肢。
人工紋章補助装置。
そして。
培養槽。
京慈の顔が曇る。
嫌な空気だった。
レインは静かに言う。
「技術は世界を変えます」
「病を克服し」
「肉体を補い」
「紋章格差すら消せる」
「誰もが平等に力を得られる」
「素晴らしいと思いませんか?」
そらは答えない。
レインは続ける。
「あなたほどの才能があれば」
「世界はもっと先へ進める」
「我々と来てくれませんか?」
沈黙。
そして。
「何度も言ってるけど断る」
即答だった。
レインの笑みが少しだけ消える。
「理由を聞いても?」
そらは静かに言った。
「人を壊してまで進むのは、進歩じゃない」
空気が変わる。
レインの目が細まる。
「停滞ですよ、それは」
「危険だから止める?」
「可能性を捨てる?」
そらの声が低くなる。
「違う」
「技術は人のためにある」
「人を材料にするためじゃない」
その瞬間。
京慈が前へ出た。
真っ直ぐレインを見る。
「そらさんの技術はそんな事のためにあるんじゃない」
そらが一瞬目を見開く。
そして。
少しだけ笑った。
「……京慈ってたまにカッコイイこと言うよね」
「たまにってひどくないですか…」
その瞬間だった。
警報が鳴り赤い光が視界いっぱいに広がった。
床が開き現れたのは。
全身を機械化した男。
片腕は砲身。
背中には増幅装置。
目には人工紋章。
「排除対象確認」
低い声。
めいが息を呑む。
りすずは即座に端末を展開。
「紋章反応確認」
「……かなり危険」
レインは静かに笑った。
「紋章と科学の融合」
「これが次世代技術です」
そらの目から完全に笑みが消える。
「…最悪だな」
次の瞬間。
砲撃と轟音。
京慈が硬化で防ぐ。
床が砕ける。
「っ!!」
そらは即座にドローンを展開。
無数の小型機械が飛び出す。
迎撃。
爆発が起き電子妨害を開始する。
機械兵は止まらない。
破壊されても。
修復。
再生。
増幅。
異常な速度で適応していく。
りすずが叫ぶ。
「そら兄!」
「自己修復じゃない!」
「周囲のナノ機械を吸収してやがる!」
そらが舌打ちする。
「めんどくさ……!」
レインは静かに笑う。
「これが技術進化ですよ」
「これが我々は描く未来です」
その時。
そらの表情が変わった。
怒りだった。
「……未来?」
両目が水色に光る。
創造の紋章。
空間が歪む。
壊れた機械。
散らばった金属。
砕けた部品。
全てがそらの周囲へ集まっていく。
再構築。
再設計。
再創造。
そらは静かに言った。
「僕の技術は誰かを泣かせるために作ってない」
次の瞬間。
再構築された拘束機械群が機械兵へ一斉に襲い掛かった




