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シグナリア  作者: もへもへーぬ
第1部ー紋章の継承者ー
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第50章ー違和感ー

芳骨島での戦いから数週間。


九識家には久しぶりに穏やかな時間が流れていた。


もっとも、完全な平穏とは程遠い。


財団との連携。


各地の紋章反応。


モード残党の捜索。


やるべきことは山ほどある。


だが少なくとも。


命のやり取りをする日々ではなくなっていた。


そんなある日。


らきは珍しく一人で街へ出ていた。


「うーわ、人多……」


休日の王都中央区。


買い物客で賑わう通りをらきは気怠そうに歩く。


目的は買い出し。


正確にはかぁりから押し付けられた。


『薬品切れたから素材の購入よろしく〜』


と言われた瞬間、嫌な予感はしていた。


案の定、紙袋は既に重い。


「絶対量おかしいって……」


ぶつぶつ文句を言いながら歩いていると。


「……らき?」


聞き覚えのある声。


らきが顔を上げる。


「あれ?」


そこにいたのは同年代くらいの少女だった。


黒髪に少し眠そうな目。


だがどこか懐かしい。


らきは数秒考え。


「あ!!もしかして、ゆな!?」


少女――ゆなが少し笑う。


「久しぶり」


「え、マジ!? 王都学校卒業以来!?」


「二年ぶりくらい?」


「そんな経つ!?」


らきが一気にテンションを上げる。


昔からの友人だった。


学生時代から何度か遊んでいた相手。


らきは自然と笑顔になる。


だが、次の瞬間。


違和感を覚える。


「……?」


ゆなの目元。


微かに隈がある。


肌色も悪い。


それに、何より“揺れている”。


らきの表情が僅かに変わる。


普通の人間ではない。


芳骨島以降、紋章反応を見る機会が増えたからこそわかる。


これは…


「……らき?」


ゆなが不思議そうに首を傾げる。


らきはすぐ笑顔を作った。


「いやーほんと久しぶりだなって!」


即座に誤魔化す。


だが胸騒ぎだけは消えなかった。


――――――


その日の夕方。


九識家。


らきは廊下を歩きながらずっと考えていた。


あの違和感は間違いなく紋章反応だった。


だが、敵意はない。


むしろ不安定で暴走しかけているような。


「……どうしました?難しい顔して」


後ろから声がして振り返る。


京慈だった。


らきは少し驚く。


「うわ、びっくりした」


「こっちの台詞なんですけど」


京慈が苦笑する。


「らきさんが難しい顔してるとか珍しいですね」


「えー?」


「いつもアホっぽい顔してる印象があるので」


「失礼すぎるでしょ」


らきが頬を膨らませる。


だが京慈は気づいていた。


本当に悩んでいる時の顔。


らきは少し黙り。


ぽつりと呟く。


「……友達にさ、紋章反応があったんだ」


空気が変わる。


京慈の表情が真面目になる。


「適合者?」


「わかんない。でも普通じゃない」


らきは壁にもたれる。


「なんかさ、めちゃくちゃしんどそうだった」


京慈も黙る。


芳骨島を経験した今、その意味がわかってしまう。


らきが小さく言う。


「敵だったら楽なんだけどな。助ければいいから」


「…でも違う気がする」


京慈は少し考え。


「会いに行きます?」


らきが顔を上げる。


「え?」


「1人で抱えても仕方ないですよ」


「俺も行く」


らきは数秒固まり。


その後。


少し笑った。


「……優しいじゃん」


「そういうんじゃないですよ」


「…ただ、放っておけないだけです。」


「あーはいはい」


いつもの軽口。


だが、少しだけ安心した。


その時だった。


廊下の奥。


カナムが静かにこちらを見ていた。


誰にも気づかれないくらい自然に。


だがその目だけは僅かに鋭かった。

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