第48章ー遺言ー
セブンスター財団管轄、特別更生施設地下三階の最深部。
機械音だけが一定のリズムで響いている。
京慈は目の前の男を見つめていた。
モード。
だが。
もう芳骨島で見た姿ではない。
ただの老人。
本来あるべき時間を迎えた人間。
めいも言葉を失っていた。
「……なんだよ、その姿」
京慈が低く聞く。
モードは乾いた笑いを漏らす。
「反動だよ。零玖号との融合が切れたことで、無理矢理引き延ばしてた時間が戻ってきたって訳だ」
咳き込む。
弱々しい。
もう長くないことが嫌でもわかった。
モードは椅子にもたれながら京慈を見る。
「で?聞きたいんだろ」
「自分の親のこと」
京慈の表情が固まる。
めいが横を見る。
京慈は数秒沈黙し静かに口を開いた。
「…お前が知ってること全部話せ」
モードは笑う。
「怖ぇ顔。カナムそっくりだな」
その名前に京慈の眉が動いた。
モードは天井を見上げる。
「まずお前の親は九識の人間だ」
京慈が息を止める。
「しかも、血縁としては現当主…カナムたち兄妹とは遠くない」
「何ならかなり近い。そうだな…3親等くらいか?」
めいが小さく目を見開いた。
京慈は黙って聞く。
モードは続ける。
「だがな、詳細は俺も知らねぇ」
「正確には、“消された”。記録も、人も、存在も」
京慈の拳が握られる。
「……なんで」
モードは乾いた笑いを漏らした。
「九識だからだろ」
「昔からそういう家系だ」
「表に出せねぇもんは、全部消す」
その言葉に京慈の表情が険しくなる。
モードは視線を向けた。
「お前は気にならなかったか?」
「何がだ?」
「11代目当主だよ」
空気が変わる。
「先代九識当主である11代目は暗殺されてる」
京慈の目が揺れる。
その話は知らない。
モードは続ける。
「その後、数年経ってからカナムが12代目になった」
「異常だ」
「歴代九識当主はな、前当主が死んでから、長くても3ヶ月以内には次が決まってた」
「なのに、カナムまでは数年空白がある」
モードの目が細くなる。
「おかしいと思わねぇか?」
京慈は言葉を失う。
確かに。
九識家ほどの一族が数年間当主不在。
そんなことが本当にあり得るのか。
モードは笑う。
弱々しく。
だが。
どこか確信めいていた。
「九識家…カナムは何かを隠してる」
「絶対にな」
京慈が低く聞く。
「……何を知ってる」
「全部言え」
モードは数秒黙る。
そして。
ゆっくりと京慈を見る。
「九識はな」
「昔から、“何か”を守ってる」
「王国より前」
「もっと古い時代からだ」
めいが息を呑む。
「その因縁が、まだ終わってねぇ」
「お前は……」
モードが京慈へ指を向ける。
「その中心に近い」
京慈の背筋に嫌な汗が流れる。
「どういう意味だ」
モードは笑った。
「さぁな」
「俺も全部知ってる訳じゃねぇ」
「でも――」
そこで言葉が止まる。
「……?」
モードの肩が揺れた。
呼吸が急激に弱くなる。
機械音が乱れ始めた。
めいが気づく。
「京慈……!」
モードは苦しそうに息を吐く。
それでも。
最後に小さく笑った。
「気を…つけろ」
「九識は……お前が…思って…るよりも……」
「ずっと――」
言葉が途切れる。
機械音。
長く一直線に響いた。
沈黙。
京慈は動けなかった。
目の前で歴史の闇を知る男が寿命を迎えた。




