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シグナリア  作者: もへもへーぬ
第1部ー紋章の継承者ー
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第37章ー解析ー

薄暗い通路を京慈は全力で駆けていた。


足音が反響する。


息が荒い。


だが止まれない。


視界の先。


グレーの白衣が一瞬見える。


「待て……!!」


京慈が加速する。


だが、曲がり角を抜けた瞬間、モードの姿は消えていた。


「っ……!」


立ち止まる。


目の前には左右に分かれる通路。


分岐、また分岐。


地下施設とは思えないほど複雑だった。


京慈が歯噛みする。


「どっちだよ……!」


その時。


『京慈』


通信機から声が入る。


りすずだった。


京慈がすぐ反応する。


「りすずさん!?」


『止まって』


即答だった。


京慈は反射的に足を止める。


次の瞬間、目の前の床が爆発した。


ドゴォッ!!


「ッ!?」


熱風と破片が京慈を襲う。


京慈が咄嗟に腕で顔を庇う。


『……やっぱり』


りすずの声。


いつもより少し低い。


『施設全体に罠がある』


『しかも、全自動じゃない』


『モードが遠隔操作してるものがいくつかある』


京慈が舌打ちする。


「クソ……」


『大丈夫』


『その判断は私がやる』


その瞬間。


りすずの声色が変わった。


静かで機械的、そして鋭い。


『解析の紋章、発現』


通信越しでも分かる。


空気が変わった。


りすずの紋章。


橙色の光が両目に現れる。


“解析”。


見る力。


理解する力。


暴く力。


『右壁、三メートル先』


『触らないで』


京慈は即座に従う。


視線を向けるもぱっと見は何もない。


だが、よく見ると極細の糸が壁から伸びていた。


「……見えねぇ」


『熱源感知式』


『切ったら爆発する』


『そのまま左へ進め』


京慈が進む。


『止まって』


ピタリ。


『京慈の歩幅で前方二歩、床が落下する』


京慈が目を細める。


見ても分からない。


『解析結果共有』


『擬装塗装されてる』


『乗ったら落ちる』


「マジかよ……」


汗が流れる。


ここまで完全にりすず頼りだった。


京慈は少しだけ笑う。


「ありがとうございます。りすずさんのお陰で無事に進めてます。」


通信の向こうで少し沈黙。


『……当然』


だが、どこか嬉しそうだった。


京慈は再び走り出す。


『次の分岐点は右』


『今回の十字路は直進』


『左通路を走れ、罠がある』


『その先の監視カメラ見つかるな』


『そこの壁は絶対壊さないで』


矢継ぎ早の指示。


迷いがない。


まるで施設全体を見ているかのようだった。


その時、白衣が見えた。


モードで間違いなかった。


「いた!!」


京慈が加速する。


だが、モードは振り返りもせず奥へ進んでいく。


『追って』


『今なら確実に追いつける』


京慈は全力で走る。


だが、次の瞬間、景色が変わった。


「……は?」


立ち止まる。


さっきまで一直線だった。


なのに気づけば、同じ通路に同じ壁、同じ照明。


京慈が振り返る。


後ろも同じ。


左右も同じ。


「なんだこれ……」


『待って』


りすずの声が入る。


だが、少しだけ焦っていた。


『空間構造がさっきまでとは変わってる』


『そんな……』


京慈が眉をひそめる。


「どういうこと?」


沈黙。


そしてりすずが低く言う。


『……施設そのものが動いてる』


その瞬間。


ゴゴゴゴゴ……


壁が動く。


通路が回転する。


床がズレる。


まるで迷路そのものが生きているようだった。


京慈の背筋に寒気が走る。


「冗談だろ……」


『違う』


『これ……』


りすずの声がさらに低くなる。


『空間制御系の紋章がシステムとして使われてる』


『しかもかなり高度の』


京慈が息を呑む。


通路が変わる。


出口が消える。


道が増える。


無限の選択肢。


終わりが見えない。


まるで巨大な迷宮だった。


そして遠くからモードの笑い声だけが響いた。


「ははっ」


「追えるもんなら追ってみろよ、九識」

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