第31章ー力量ー
病棟フロア。
白い壁に並ぶベッド。消毒液の匂い。
その空間だけ、まるで普通の病院だった。
唯一違うのはそこが敵地だということ。
そして目の前にいる男。
ペパー。
オールバックに細いフレームの眼鏡、白衣を羽織り、冷静な目をしている。
そらとらきは距離を取っていた。
ペパーが軽く髪をかき上げる。
「思ったより耐えますね」
床には無数の弾痕に焼け跡、切断跡。
そらのドローンは既に数機落とされている。
らきも肩で息をしていた。
かなり強い
そらが舌打ちする。
「マジでなんなんだよあいつ……」
ペパーは静かに言う。
「合理的に戦ってるだけですよ」
直後、何もない空間から鋭い斬撃が飛んだ。
そらが咄嗟に後退。
ドローン一機が真っ二つになる。
「っ……!」
見えない。
いや、正確には認識しづらい。
らきが目を細めた。
「また来る!」
次の瞬間。
床、壁、天井。
複数方向から同時攻撃。
そらが機械を展開する。
小型障壁ドローンによる迎撃。
しかし、全部捌ききれない。
「そら兄ちゃん!」
らきが飛び込む。
ナイフで軌道を逸らす。
火花が散り、金属音が響く。
衝撃で吹き飛ばされる。
「っ……!!」
床を滑る。
ペパーが静かに息を吐いた。
両目に灰青色の紋章が浮かぶ。
「これが、私の授かった偏向の紋章」
静かな声。
「対象の軌道、方向、認識を僅かにズラす能力」
そらが顔をしかめる。
(だから読みにくいのか……!)
攻撃自体は普通。
だが“ズレる”。
視線や感覚、距離。
全てがほんの少しだけズレが生じる。
その僅かな差が、致命的になる。
しかも、ペパー自身の技量も高い。
そらが小型ミサイルを放つ。
だが、ペパーが少し身体を傾けるだけ。
ミサイル同士がぶつかり勝手に軌道を逸らす。
爆発し、煙が周囲を包む。
その中から、ペパーが突っ込んできた。
速い。
蹴りが飛んでくる。
そらが防ぐ。
ドゴッ!!
「ぐっ……!」
そのまま壁へ叩きつけられる。
らきが即座に飛び込む。
ナイフを構え連撃する。
だが、当たらない。
いや”当たりそうで当たらない”。
微妙にズレる。
ペパーが冷静に言う。
「感覚頼りですね」
次の瞬間、カウンターが決められる。
らきの腹部へ膝蹴り。
「ぁっ……!」
らきが吹き飛び、そらが叫ぶ。
「らき!!」
だが、そこで。
別方向から声がした。
「おー、始まってる」
軽い声がし、全員の動きが止まる。
廊下奥に男が立っていた。
長身にボサボサの髪。白衣を着用し、ポケットに両手を突っ込んでいる。
気怠そうな目をしている。
ペパーが少し頭を下げた。
「スペアさん。お待ちしてましたよ。」
スペアが欠伸をする。
「いやー、呼ばれたから来たけど」
そらとらきを見る。
「ほんとに九識じゃん。実験してー。」
空気が変わった。
らきが小さく呟く。
「……やばい」
本能が理解する。
強い。
しかも、ペパーとの連携が完成している。
スペアが笑う。
「2対2ねぇ」
その瞬間。
両目に紫黒色の紋章が浮かぶ。
「複製の紋章」
肩を回す。
「見た技術、動き、能力を一定時間再現できる」
そらの顔色が変わる。
「……は?」
最悪だ。
相性が悪すぎる。
ペパーの偏向。
スペアの複製。
つまり、一度見せた動きが通用しなくなるということ。
しかも、ペパーが感覚をズラすせいで、初見殺しも成立しにくい。
スペアが笑う。
「真面目にやろっか」
その瞬間スペアの動きが消えた。
速い。
そらが咄嗟にドローンを展開。
しかしペパーの能力により、スペアが空中で軌道を変える。
「はやっ――」
蹴りが直撃する。
ドゴォッ!!
そらが吹き飛ぶ。
同時にペパーがらきへ迫る。
完全分担かつ完全連携。
隙がない。
らきが歯を食いしばる。
(勝てない)
純粋に今のままでは。




