第30章ー分散と化合ー
停止の紋章による空間制御。
それによって、あきととかぁりは完全に押し込まれていた。
動きづらいし避けづらい。
そこへ蓄積された暴力。
男の一撃が飛んでくる。
ドゴォッ!!
「あ゛っ……!」
あきとが吹き飛ばされ、壁へ激突。
あきとの肺の空気が抜ける。
男が笑った。
「慣れてきたなァ!!」
かぁりが舌打ちする。
「最悪……」
女は冷静だった。
「右」
男が即座に動く。
完全な連携がとられている。
一切の迷いがない。
かぁりが小瓶を取り出した。
透明な液体。
それを男ではなく、女へ投げる。
女が目を細めた。
「無駄よ」
停止の紋章。
発動。
空中で液体が止まる。
――ように見えた。
だが、ピキッ。
「……え?」
液体が止まらない。
細かく分裂。
霧状に拡散。
女へ降りかかる。
「っ!?」
肩、首、頬など様々なところへ液体が付着する。
女が咄嗟に後退した。
「紋章の能力が効かないなんて…何をした!!」
強く叫ぶ。
その瞬間、口元の血を拭いながらあきとが立ち上がる。
そして両目に青色の紋章が浮かんだ。
「俺の紋章の力だよ。俺の紋章は分散の紋章。」
「対象を“分散”させる能力」
あきとが笑う。
「物体でも、衝撃でも、エネルギーでも」
空中へ手を向ける。
「もちろん、液体も」
女の表情が変わる。
停止させた液体。
それをあきとが分散させた。
一点停止を面制圧へ変えた。
「っ……!」
女が再び紋章を使おうとする。
だが発動しない。
「……は?」
もう一度試すも発動しない。
「な、んで……」
かぁりが小さく笑った。
「良かった…効いた」
女が目を見開く。
かぁりが指を立てる。
「今の薬ね、紋章を一時的に使えなくする薬」
一瞬の静寂。
「…………は?」
女の声が止まる。
かぁりは続ける。
「ちなみに実験は一回もしてない」
「――は?」
あきとが思わず振り返る。
「お前それ今言う!?」
かぁりは悪びれない。
「だって本当だし…お兄ちゃんがダメって言うから…」
女の顔が引きつる。
完全沈黙。
一方、男はまだ動ける。
「紋章が使えなくたって関係ねぇ!!」
拳を握り蓄積する。
力を溜め始める。
床、壁、空気、全てが震える。
あきとが顔をしかめた。
「まず――」
だが男は止まらない。
「全部ぶっ飛ばす!!」
力が膨れ上がる。
危険そう理解した瞬間。
男の動きが止まった。
「……あ?」
腕が上がらない。
脚も動かない。
身体が重い。
いや、痺れている。
かぁりが首を傾げる。
「ようやく効いた?」
その瞬間、かぁりはどこからか白衣を取り出し羽織る。
あきとが顔を覆った。
「うわ……出た」
「マッドサイエンティストモード……」
かぁりの雰囲気が変わる。
笑顔。
だが、目が怖い。
かぁりは明らかに興奮している。
研究者の顔。
「私の紋章は化合の紋章」
両目に桃色の紋章が光る。
「原子や分子を操り、新しい物体を作る能力」
周囲に小瓶が浮かぶ。
液体、粉末、薬品。
「最初に投げたのは、基本素材を保存してるだけの容器」
楽しそうに話す。
「用途によって薬にも毒にもなる」
男の顔が歪む。
「お前……」
かぁりは笑う。
「紋章阻害薬は元々作ってあった」
「でも問題はあなた」
男を見る。
「肉体が強すぎる」
「直接飲ませるなんて現実的じゃないでしょう?」
ゆっくり近づく。
「だから空気感染する毒を作ったの」
男が身体を動かそうとする。
だが動かない。
「しかも」
かぁりが嬉しそうに笑った。
「力を蓄積するから人一倍呼吸が多いでしょ?だから毒の巡りが速いの。私たちは抗体があるから大丈夫だけど…何分持つかしらね?」
男の顔が青ざめる。
「……っ」
辛うじて腕を動かす。
だが、遅い。
あきとが前へ出た。
「悪いな」
拳を握り男のみぞおちへ渾身の一撃を放つ。
ドゴッ!!
男が崩れる。
完全沈黙。
残るは女。
だが、紋章を失ったことで、身体がまともに動かないようだった。
「解毒薬を……!」
女が苦しそうに言う。
かぁりはしゃがみ込んだ。
笑顔だが怖い。
「実験のモルモットとしてもう少しだけ、付き合って?」
そう言って解毒薬らしき液体を取り出す。
女の顔に希望が浮かぶ。
しかしかぁりはその場で解毒剤と思われるものを女の目の前で飲み干した。
女の顔から血の気が引く。
「……え」
かぁりは満足そうだった。
「うん、問題なし」
女は絶望した。
完全に戦意喪失。
男も動けない。
勝負は決した。
そしてかぁりは目を輝かせながら、女を観察し始めていた。
「へぇ……症状そう出るんだ……」




