第26章ー化け物ー
施設内部。
薄暗い通路を、京慈達は進んでいた。
コンクリートの壁に無機質な照明。
鼻を刺すような薬品臭が漂う。
「……明らかに研究施設、ですね」
京慈が周囲を見回す。
そらが静かに頷いた。
「中には医療設備も混ざってる」
「それにしては、物騒だけどね〜」
らきが軽く笑う。
その瞬間。
ヒュンッ!!
「っ!」
正面から高速で何かが飛来した。
だが。
ガギィン!!
金属音。
京慈の前に、小型ドローンが展開されていた。
「危ないな~」
そらが指を動かす。
浮遊する数機のドローン。
弾丸のような飛来物を防いでいた。
「ありがとうございます。そらさん助かりました……」
京慈が息を吐く。
すると通路奥から白衣を着た男が姿を現した。
灰色の髪に痩せた身体、眠たそうな目をしてる。
だが、男はどこか異様だった。
空気が違う。
男は軽く肩を竦める。
「今の避けるかぁ」
気怠そうな声。
京慈が目を細める。
(こいつ……)
その時、カナムが静かに前へ出た。
「……お前がモードだな」
男は笑う。
「あー、今はそう呼ばれてるな」
肯定。
それだけで空気が張り詰める。
カナムは目を逸らさない。
「お前のことはそれなりに調べさせてもらった」
静かな声。
「ダンデライオン医院院長代行」
「だが」
一歩。
前へ進む。
「写真や筆跡、発表した論文などの過去の記録…これらを辿ると、最低でも100年は遡れた」
京慈の表情が変わる。
「……100年?」
ありえない。
「信じ難い話だが、」
カナムが続ける。
「旧統一政府軍軍医兼紋章研究第一人者モルガン=ドミニク」
その名を告げる。
「それがお前の本名であり、紋章に取りつかれ、人の道を踏み外した化け物だ。」
空気が凍る。
京慈達は息を飲んだ。ただの暴走事件ではなかった。根幹が違う。
もっと深い、もっと古い。
何か。
モードはしばらく黙ったあと――
「……ひでぇな」
小さく笑った。
右手で顔を覆う。
「俺が化け物だって?」
隠れた表情。
だが声だけで分かる。
笑っている。
「……お前らだけには言われたくねぇな」
ゆっくりと。
手が離れるその瞬間、瞳が光った。紋章を発現している。
片目に浮かぶ異様な模様。
京慈が目を見開く。
(片目……?)
モードは低く呟く。
「――九識一族」
直後。
ゴォォォッ!!
背後から攻撃が飛来した。
「下がれ」
カナムが左腕を振る。
キィン!!
金属音。
見えない何かが攻撃を受け止める。
爆発。
衝撃。
京慈が顔を上げた時には――
モードの姿は消えていた。
「逃げた……!」
京慈が駆け出そうとした瞬間、
「進むな」
カナムが止めた。
京慈が動きを止める。
カナムは静かに前を見る。
黒手袋の指先。
そこから細い糸が伸びる。
見えないほど細い金属糸。
それが通路奥へ触れた瞬間――
バチィッ!!
閃光が走る。
次の瞬間、糸が焼き斬られた。
「っ……!」
京慈の背筋が冷える。
今のは罠。
「……危なかったな」
そらが小さく呟く。
カナムは短く言う。
「この道は使えるようで使えない。回り道を探すぞ」
全員が頷く。
来た道を戻る。
そして反対側通路へ入った瞬間。
「おっと…来たな」
「ここは通行止めだ」
二人の敵が現れた。
片方は大柄な男。
もう片方は、細身の女。
どちらも紋章が浮かんでいる。
敵意と殺気が入り混じったような感覚。
通路を塞ぐように立っていた。
京慈が構える。
だが。
「あー、ここ俺らでやろう」
あきとが前へ出た。
ポケットに手を突っ込んだまま。
気怠そうに。
隣では、かぁりが笑う。
「みんなは先いってー!ここ、やっとくから!」
敵二人が殺気を放つ。
「行かせる訳――」
その瞬間。
パンッ!!
かぁりが何かを床へ投げた。
直後、白煙が広がる。
一気に通路が煙に包まれる。
「っ!?」
敵の視界が潰れる。
そして乾いた銃声が響く。
パァン!!
あきとの弾丸が壁へ撃ち込まれた。
すると、壁際へ粒子のような光が散る。
「こっち」
あきとが言う。
「道、作っといた」
弾丸によって生じた空間の裂け目。
そこだけが、安全に通れる。
カナムが先に動く。
「行くぞ」
京慈。
そら。
らき。
四人は煙幕の中を駆け抜けた。
背後からは敵の怒声と銃声。
そして。
かぁりの楽しそうな声が響く。
「それ、当たんないよー!」




