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シグナリア  作者: もへもへーぬ
第1部ー紋章の継承者ー
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23/54

第22章ー糸ー

大広間に緊張感の残る空気。


作戦会議が続く中――


突然。


りすずの端末が大きく警告音を鳴らした。


『WARNING』


赤い波形が跳ね上がる。


そらが即座に画面を確認する。


「…かなり…近い」


「場所は?」


アヤが聞く。


りすずが静かに答えた。


「…!うちの…九識邸正門前」


空気が変わる。


「数は?」


「確認できるのは2」


その瞬間全員が立ち上がった。


九識邸・正門前。


夜風が吹く。


巨大な門の前。


二人の人影が立っていた。


一人は大柄。


異様な筋肉量。


皮膚の一部が黒く硬質化している。


もう一人は細身でローブ姿。


その周囲には淡い光の輪が浮かんでいた。


京慈は思わず息を飲む。


(……これが)


紋章適合者…なのか。


すると。


大柄な男が口を開いた。


「ここか」


低い声。


細身の男も笑う。


「反応が濃いねぇ」


直後空気が震えた。


細身の男の周囲に、無数の光弾が浮かぶ。


京慈が反射的に前へ出ようとした。


だがその瞬間。


スッ――


カナムが左腕を横へ突き出した。


「私が行こう」


静かな声。


黄金の瞳が敵を見据える。


「お前たちは下がってろ」


京慈が思わず声を上げる。


「でも――」


「下がれ」


短い。


だが、有無を言わせない声だった。


めいも少し不安そうにしている。


だがその横で。


らきが苦笑した。


「あーあ」


かぁりも同じ顔をする。


「これは…かなり怒ってるねぇ」


りゅーいちは腕を組んだ。


「相手、運悪かったな」


京慈とめいだけが困惑していた。


次の瞬間。


轟音が響く。


光弾がカナムに向け一斉に放たれる。


それと同時に大柄な男が地面を砕きながらカナムに突進した。


速い。


見た目に反して異常な速度。


だが当たらない。


カナムは動いていない。


いや、“最小限しか動いていない”。


一歩。


半歩。


身体を少し傾けるだけ。


それだけで、全ての攻撃が外れていく。


しかも、カナムは両手を後ろで組んだままだった。


京慈が目を見開く。


「……なんで」


光弾が直撃するはずだった。


だが軌道が僅かに逸れる。


突進した男の拳も。


届く寸前でズレる。


「チッ!」


男が苛立つ。


攻撃速度がさらに上がる。


だが、やはり当たらない。


カナムは静かに歩くだけ。


余裕すらある。


そして数分後。


カナムがぽつりと呟いた。


「…紋章適合者とはいえ…こんなものか。我々も甘く見られているな。」


その瞬間大柄な男の身体が止まった。


「……は?」


男が目を見開く。


動けないよく見ると身体の周囲に、何かが光を反射した。


細い。


異常なほど細い。


「糸……?」


京慈が呟く。


次の瞬間、男の全身へ、無数の糸が巻き付いた。


完全な拘束。


「なっ――」


男が暴れる。だが糸は切れない。


むしろどんどん締まる。


その光景に細身の男が顔色を変えた。


「おい、お前!何した!?」


直後、周囲へ魔法陣が展開される。


紋章が発光した。


『魔導式紋章・光域』


無数の光槍。


熱線。


爆発。


一斉掃射。


正門前が光に飲まれる。


京慈は反射的に身構えた。


だが爆煙が晴れる。


そこにはカナムは立っていた。


見たところ無傷。


しかもまだ両手を後ろで組んでいる。


「……なんで…カナムさんは無傷なんだ。」


京慈が呟く。


めいも完全に理解できていない顔だった。


すると、アスノが静かに言う。


「糸よ」


「え?」


りゅーいちが続けた。


「兄貴専用の武器」


らきが笑う。


「見えてないだけで、もう戦場全部支配されてるんだよねー」


京慈は目を凝らす。


すると、月明かりに何かが反射した。


細い線が空中や地面、壁に門、全部に糸が張り巡らされている。


そらが説明する。


「九識家相伝武器」


「複合金属製特殊繊維”紫蛛鋼”」


りすずが続ける。


「百本束ねて一本になる。さらに金属割合で性質も変化する。」


「切断、吸収、反射、硬化、伝導」


かぁりが笑った。


「つまり何でもあり!」


京慈が絶句する。


「……あれを、ずっと?」


「最初から」


ぽたが静かに言った。


その時カナムが一歩踏み込む。


細身の男が後退する。


「来るなッ!」


光槍乱射。


だが届かない。


いや“途中で軌道を変えられている”。


魔法系の男も気づき始める。


「……なんだこれ」


「なんで当たらない」


焦りが出たその瞬間。


カナムが右手を軽く動かした。


パキンと金属音がする。


次の瞬間。


男の周囲へ糸が収束した。


「ッ!?」


拘束。


首元寸前で停止する金属糸。


完全制圧。


京慈は言葉を失っていた。


めいも同じだった。


その中でりゅーいちが苦笑する。


「だから言っただろ」


「相手と運が悪かったって」


そして、カナムは静かに敵を見下ろした。


「さて、お前たちにはやってもらいたいことがある。」


敵を見つめる黄金の瞳に、一切の感情はなかった。

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