第20章ー共同戦線ー
「――全員、至急大広間へ集合」
屋敷内へ響いた声はカナムのものだった。
短い、だが、いつもより空気が張っている。
京慈は顔を上げる。
その近くでは、めいも少し不安そうにしていた。
「……なんかあったのかな」
「多分」
京慈は立ち上がる。
「行こう」
めいも頷き、その後をついていった。
大広間へ着き、扉を開けると既に三人いた。
ソファへ座っていたのは、アスノ。
その隣で端末を触っているりすず。
そして窓際には、ぽたが静かに立っていた。
「来たね」
アスノが言う。
京慈は軽く頭を下げる。
「何かあったんですか?」
「あたしたちにもわからない。だけど、何かまずいことが起きたのは確か」
りすずが画面を見たまま答える。
空気が少し重い。
めいもそれを感じ取っているらしく、京慈の少し後ろへ立っていた。
しばらくして。
「全員呼び出しとか珍しー」
らきが入ってくる。
その後ろから、かぁり。
さらに、そら。
眠そうなあきと。
最後に、りゅーいち。
これで全員。
……と思った瞬間。
大広間の扉が再び開く。
「やっほ」
軽い声がし、全員で振り返るとアヤだった。
ラフな格好。
だが、纏う空気はいつもと違う。
その後ろから、カナムも入ってくる。
空気が静まった。
アヤはそのまま中央まで歩き。
軽く端末を操作する。
空間モニターが展開された。
「今日集まってもらったのは前から問題になってる、“紋章発現者増加”について」
アヤの声が響く。
「調べてみていくつか分かったことがあるの。」
京慈も自然と表情を引き締める。
「まずはこれ」
画面が切り替わる。
「紋章が制御できなくて暴走してた人たちだけど」
映像には拘束された人物達が映った後、個人情報が出る。
「全員、“元々紋章持ちじゃなかった”」
その瞬間。
京慈とめいが少し目を見開いた。
「セブンスター財団の医療班と技術班、それに」
アヤが視線を横へ向ける。
「九識家から、そら、りすず、かぁりの協力があって、その情報を得られた。」
三人が軽く反応する。
「その後、共同で解析した結果、一部暴走者から紋章反応の除去に成功した」
「除去……」
京慈が小さく呟く。
「事情聴取も行った」
画面には、複数人の記録が映る。
「共通点はほぼ無し」
アヤが続ける。
「年齢、職業、住居、人間関係、全部バラバラ。」
「でも」
画面が止まる。
一人の男の写真が映し出された。
白衣姿に細い目。
柔らかそうな笑み。
「共通して接触してた人物がいた」
アヤの声が少し低くなる。
「ダンデライオン医院院長代行 モード」
空気が変わる。
京慈は画面を見る。
普通の医者にしか見えない。
だが。
「形は違えど、事情聴取できた全員に接触記録があった」
アヤが続ける。
「セブンスター財団は、こいつを重要参考人として追ってる」
その時。
「あのさ」
あきとが手を上げる。
眠そうな顔のまま。
「なんでその情報、わざわざ俺らに?」
「セブンスター財団で確保すればいい話では?」
率直だった。
アヤは軽く溜息を吐く。
「それができてたら苦労してないよ。」
端末を閉じる。
「モードなんだけど、数日前から行方を眩ましてる。セブンスター財団の目が届かないところにヤツは隠れてしまったんだよ」
その言葉に、空気が少し張る。
ぽたが静かに口を開いた。
「……つまり」
「僕たちにその、モードって人物を探して欲しいってこと?」
だが。
「いや、それは終わってる」
カナムが言った。
全員の視線が向く。
京慈も困惑する。
「……終わってる?」
そらが眉をひそめる。
「じゃあなんで集めたの」
すると。
アヤが少しだけ真面目な顔になった。
「ここからは、あくまで予想」
そう前置きして、ゆっくり言う。
「モードは、“紋章移植”の研究をしてる可能性がある」
その瞬間、空気が凍った。
特に兄妹達の反応が明確だった。
りゅーいちの目が鋭くなる。
アスノは静かに息を吐き。
そらとりすずの表情から、いつもの緩さが消える。
かぁりですら笑っていない。
京慈とめいだけが状況を理解できていなかった。
めいが小さく京慈を見る。
「……紋章移植って?」
だが。
答えたのはアヤだった。
「紋章は原則1人1つしか発現しない。遺伝や突発関係なくね。」
静かな声。
「例外として、極稀に複数の紋章を持つやつもいる」
「でも、大抵は紋章の力に身体が耐えられない」
画面にいくつものデータが映る。
「最悪の場合、死ぬ」
めいの顔が強張る。
アヤは続けた。
「仮に身体が耐えても、扱えない可能性が高い」
「移植も同じ」
「簡単に言えば」
少し考えて。
「未知のウイルスが身体に入るようなもの」
その表現に、京慈は少し息を飲む。
「大半は拒絶反応を起こす」
「最悪、死ぬ」
「一部は抗原化する」
「で」
アヤの目が細くなる。
「ごく稀に、“扱える側”がいる」
静寂。
誰も軽口を叩かない。
カナムが静かに口を開いた。
「つまり」
黄金の瞳が全員を見る。
「紋章を“扱えるようになった者”が存在する可能性がある」
京慈も理解する。
だから皆、ここまで張り詰めている。
「そのようなものを放置する訳にはいかない」
カナムが立ち上がる。
「セブンスター財団と九識家」
「共同戦線を張る」
その一言で空気が完全に切り替わった。
「そして、全員招集した理由は」
カナムの声が響く。
「その作戦会議だ」
そして大広間中央に巨大な戦術モニターが展開される。
共同戦線の入口が静かに、開かれた。




