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シグナリア  作者: もへもへーぬ
第1部ー紋章の継承者ー
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第19章ー九識の日常ー

朝。


目を覚ました瞬間。


めいは少しだけ、自分がどこにいるのか分からなくなった。


見慣れない天井。


広い部屋。


柔らかいベッド。


そして数秒後。


(……あ、そうだ。ここ九識家だ)


思い出す。


少しだけ安心した。


同時に、不思議な感覚になる。


まだ数日しかいない。


なのに。


もう“知らない場所”ではなくなり始めていた。


めいはゆっくり起き上がる。


廊下へ出る。


すると。


「お、起きた?」


声。


らきだった。


今日はラフな格好をしている。


髪も軽く結んでいるだけで、完全にオフの雰囲気だった。


「おはよ」


「……おはようございます」


「固い固い」


らきが笑う。


「敬語いらないよー」


そう言いながら、そのままめいの肩へ腕を回す。


距離が近い。


めいが少し困惑していると。


「あんまり急に詰めるな」


後ろから声。


りゅーいちだった。


「警戒されんぞ」


「えー、もう大丈夫でしょ」


「人による」


そんな会話をしながら歩いていく。


本当に兄妹なんだな、とめいは思った。


大広間へ着くと。


既に何人か起きていた。


そらはソファで端末を触っている。


ぽたは静かに本を読んでいた。


あきとは何故か床で寝ていた。


「なんでここで寝てるの……」


めいが思わず呟く。


「昨日そこで力尽きてた」


そらが説明する。


「運ぶの面倒だったから放置」


「ひど……」


「慣れるよー」


らきが軽く言う。


慣れるものなのだろうか。


その時。


厨房からいい匂いがした。


「あ、今日アスノ姉ちゃんの日だ」


らきが言う。


覗いてみると。


アスノが朝食を作っていた。


手際が良い。


慣れている。


めいに気づくと、アスノは軽く笑った。


「おはよう」


「お、おはようございます」


「昨日はちゃんと寝れた?」


「はい」


「なら良かった」


自然だった。


気を遣わせない話し方。


でも、ちゃんと見ている。


めいは少しだけ胸が温かくなる。


その時。


「お腹減ったぁ……」


かぁりが現れた。


髪ぼさぼさ。


完全に寝起きだった。


そのままめいを見る。


「あ、おはよ!」


「おはようございます…」


「今日なにする!?」


「起きて五秒でそれかい?」


アスノが呆れている。


かぁりは気にしていない。


「せっかくなんだから遊ぼーよ!」


「いや、めい疲れてるでしょ」


「じゃあゆっくり遊ぶ!」


どういう理論なのか分からない。


でも。


めいは少しだけ笑った。


朝食後。


京慈は珍しく掃除をしていた。


「えら……」


めいが思わず言う。


「どういう意味よだ」


「いや、京慈って意外とちゃんとしてるんだなって」


「失礼だな」


そんな会話をしながら。


めいも少し手伝う。


すると。


「あ、そこ違う」


突然、そらが口を挟んだ。


「コードはそっちじゃなくて左」


「……なんで分かるんですか」


「俺のだから」


よく見ると、部屋の隅には機械類が大量に置かれている。


京慈が苦笑した。


「たまに勝手に増える」


「研究資材だからね。いくらあってもいいの!」


そらは真顔だった。


その横で。


りすずがいつの間にか床へ座っていた。


「めいー」


「はい?」


「ゲームやる?」


「急ですね。りすずさん」


京慈が突っ込む。


りすずは気にしていない。


「人間関係はゲームで深まる」


「絶対違うでしょ。」


だが。


気づけばめいはゲーム機を握らされていた。


結果。


三十分後。


「待って強っ!?」


「りすず姉さん容赦ない!」


「ふふん」


めちゃくちゃ負けた。


昼。


庭。


かぁりに連れ出された結果。


何故か全員で軽い運動会みたいになっていた。


「そらさん走って!」


「嫌だよ~」


「ぽたさん助けて!」


「頑張って!負けないで!」


「裏切った!?」


自由だった。


本当に自由だった。


めいは笑う。


こんなふうに笑ったの、いつぶりだろうと思うくらいに。


その時。


「危な」


ふわっと身体が浮く。


転びそうになったところを、京慈が支えていた。


「あ、ごめん」


「怪我すんなよ」


自然だった。


その言葉に。


めいは少しだけ目を細める。


(……変わってない)


優しいところ。


放っておけないところ。


孤児院にいた頃と同じだった。


でも前より少しだけ、自信がある顔をしている。


九識家に来て彼の中で変わったのだろう。


きっとそう。


夕方。


大広間。


皆それぞれ好きなことをしている。


らきとかぁりはソファで騒ぎ。


りゅーいちはアスノに怒られながら何か食べている。


そらとりすずは機械の話で盛り上がり。


ぽたは静かに紅茶を飲んでいた。


あきとはまた寝ている。


カナムだけはいない。


でも。


不思議と空気は回っていた。


誰かが中心というより。


全員で成り立っている感じ。


めいはその光景を見つめる。


そしてふと気づく。


(……ここ)


静かに思う。


(ちゃんと、居場所なんだ)


まだ、自分の場所とは言えない。


でも少なくとも今は、怖い場所では、もうなかった。

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