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シグナリア  作者: もへもへーぬ
第1部ー紋章の継承者ー
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第18章ー信頼ー

京慈が部屋へ戻ると。


めいは、ベッドの端へ小さく座っていた。


扉の音に反応して顔を上げる。


「……おかえり」


「ただいま」


京慈はそう返しながら、部屋へ入る。


少しだけ沈黙。


何を話せばいいのか分からない空気。


だが、不思議と嫌ではなかった。


京慈は近くの椅子へ座る。


「……落ち着いたか?」


めいは小さく頷く。


「うん」


けれど、その表情にはまだ迷いが残っていた。


当然だ。


昨日まで普通に暮らしていた場所を失ったばかりなのだから。


めいは少しだけ視線を泳がせた後、ぽつりと言った。


「……ここの人たちって」


「うん?」


「ほんとに、あんな感じなの?」


京慈は一瞬きょとんとする。


「あんな感じ?」


「…みんな…優しい」


その言葉に、京慈は少し考える。


そして。


「あー……」


妙に納得したような声を出した。


「まぁ、最初は俺もそう思った」


「京慈も?」


「思うだろ普通」


即答だった。


「いきなり知らない屋敷連れてかれて、兄妹九人出てきて、“今日から家族だ”とか言われたんだぞ」


めいが少しだけ目を丸くする。


「……なにそれ」


「俺もそう思った」


京慈は苦笑した。


「しかも最初、カナムさんに気絶させられてるし」


「えぇ……」


めいの顔が少し引く。


その反応が面白くて、京慈は少し笑った。


久しぶりだった。


こんなふうに普通に話すのは。


「でも」


京慈は少し視線を上げる。


「悪い人たちじゃないよ」


短く、でも、自然に言葉が出た。


めいは静かに聞いている。


「りゅーいちさんは荒っぽいけど面倒見いいし」


「うん」


「らきさんは距離感近い」


「それは分かるかも」


「かぁりさんは自由人」


「なんとなく分かる」


少しずつ。


めいの表情が柔らかくなっていく。


京慈も続けた。


「アスノさんは、めちゃくちゃ周り見てる」


「……昨日お茶入れてくれた人?」


「そう」


「優しかった」


京慈は頷く。


「そら兄んとりすずさんはマイペースだけど、優しいし」


「ぽたさんとあきとさんは静かめだけど普通に話してくれる」


「……うん」


「カナムさんは」


そこだけ、少し間が空いた。


めいが首を傾げる。


「怖い人?」


京慈は少し考え。


「……怖い時は怖い」


「じゃあ怖い人じゃん」


「でも」


京慈は小さく笑った。


「誰よりも考えてくれる人だよ」


めいは静かにその言葉を聞いていた。


部屋に少しだけ穏やかな空気が流れる。


やがて、めいがぽつりと言う。


「……みんな、不思議」


「まぁ、それはそう」


京慈は否定しなかった。


九識家は普通じゃない。


生活も。


会話も。


仕事も。


全部どこかおかしい。


でも。


「なんか、ちゃんと“家”なんだよな」


京慈がそう言った瞬間。


めいが少し驚いたように顔を上げた。


京慈自身も少しだけ驚いていた。


無意識だった。


でも、今の言葉は本音だった。


めいはしばらく黙った後、小さく笑う。


「……京慈、変わったね」


「え?」


「前より、ちゃんと笑うようになった」


京慈は少しだけ目を逸らす。


「……そうか?」


「うん」


はっきり言われる。


少しだけ気恥ずかしい。


めいはそのまま、ゆっくり言葉を続けた。


「私、まだ分かんない」


俯く。


「ここにいていいのかとか」


「これからどうしたいのかとか」


京慈は黙って聞いていた。


「でも」


めいが顔を上げる。


「しばらくは、ここにいたい」


小さくても、確かな声。


「まだ決められないけど」


「出ていくか、お世話になるかも分かんないけど」


少しだけ笑う。


「今は、京慈といたい」


その言葉に。


京慈はゆっくり頷いた。


「ああ」


それだけでよかった。


今は、それだけで。


その日の夜。


大広間。


めいは少し緊張しながら、九識兄妹の前へ立っていた。


「……しばらく、お世話になります」


小さく頭を下げる。


すると。


「よろしくねー!」


真っ先に反応したのは、らきだった。


かぁりも笑顔で手を振る。


「一緒に遊ぼ!」


「夕飯食べてからにしなさい。あんたたち」


アスノが軽く止める。


りゅーいちは腕を組みながら、


「困ったら何でも言え」


短く言った。


そらは眠そうに手を振り。


ぽたは静かに微笑む。


あきとは普通に、


「料理めちゃくちゃ美味かった。また食いたい」


と言っていた。


りすずは端末を触りながら、


「部屋分かんなかったら聞いてー」


相変わらずだった。


そして最後に。


カナムが静かに口を開く。


「改めて、歓迎しよう。めい」


黄金の瞳が、めいを見る。


「ようこそ九識家へ」


めいは少し驚いた後。


ゆっくりと笑った。


「……はい」


その笑顔は。


昨日より、ほんの少しだけ自然だった。


その頃。


セブンスター財団。


一室。


アヤが端末を閉じる。


「……見つけた」


ぽつりと呟く。


そして。


カナム宛へ、一通のメールを送信した。


件名。


『例の件について』


送信完了の表示が、静かに画面へ浮かび上がっていた。

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