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シグナリア  作者: もへもへーぬ
第1部ー紋章の継承者ー
10/19

第10章ー紋章不全ー

まだ少し冷たい朝の空気を、浴びながら、京慈は一人中庭で剣を振っていた。


振る。止める。構える。


単調な動作の繰り返し。


(……上手く紋章が出ない)


手を止める。


あの時の感覚を思い出そうとするが、輪郭が曖昧だ。


「どうやって出したんだ……」


呟いても、答えは出ない。


出そうとして出したわけじゃない。


ただ、あの時は――


(守らなきゃって思っただけだ)


小さく息を吐く。


---


「なんか詰まってるね」


背後から声。


振り返ると、そらがいつの間にか石壁にもたれていた。


「見てたんですか」


「最初から」


悪びれない。


「鍛錬するのはいいことだけど効率悪いよ、それ」


「……分かってます」


そらは一歩近づく。


「測る?」


「測る、ですか」


「感覚じゃなくて、条件」


淡々とした口調。


「段階的にやる。紋章を制御できるようになるようデータを取る」


京慈は少し考えてから頷いた。


「お願いします」


---


訓練場。


中庭の奥にある、九識家の設備。


普段は閉じられている扉が、今日は開いていた。


中に入ると――


「お、来たか」


低い声。


りゅーいちが壁際に立っていた。


腕を組み、こちらを見ている。


その隣。


「遅かったね」


アスノが腕時計を見ながら言う。


「朝からいきなり呼び出してごめんね。兄ちゃん、姉ちゃん」


(…そらさんが呼んだのか。)


気配を感じなかったことに、少しだけ背筋が冷える。


「私たちも観察自体は京慈がうちに来た時からしてるよ」


アスノが当然のように言う。


「今回の検証は、私が見る」


「最終段階は俺が相手する」


りゅーいちが肩を鳴らす。


そらが軽く手を上げる。


「京慈、データ取得は三段階でやる。準備して、中央に行って。」


「はい。」


(やるしかない…んだよな)


京慈は少し身体が重たく感じながらも、訓練場の中央へ向かう。

---


■一戦目:軽度魔物


鉄格子の奥で、魔物が唸っている。


犬に似た体躯。だが筋肉の付き方が異様だ。


「まず最初に、反応速度と基礎確認をするよ。その魔物を倒してね。」


そらがそう言い終わると、ゆっくり檻が開く。


同時に魔物が飛び出す。


速い。


低い姿勢で一直線に突っ込んでくる。


京慈は半歩引く。


噛みつき。


首を狙っている。


剣で軌道を逸らす。


(軽い……でも速い)


すぐに距離を詰めてくる。


二撃目に横薙ぎ。


地面すれすれを薙ぐ動き。


跳ぶ。


回避。


着地と同時に踏み込む。


(今だ)


首元へ一閃。


浅い。


硬い。


(骨が厚い……!)


魔物が振り返る。


牙。


急いで腕を振り下ろし、剣で受ける。


衝撃が腕に響く。


(力もある……!)


だが、読める。


三度目の突進。


今度は誘う。


わざと隙を見せる。


食いつこうとしたその瞬間。


京慈は移動速度を半歩ずらす。


牙が空を切る。


京慈は魔物の懐に入る。


下から斬り上げる。


刃が魔物の喉元に深く入る。


魔物の身体がゆっくり崩れる。


---


「……討伐、完了です」


息を整えながら言う。


そらが頷く。


「問題なし。」


アスノも短く言う。


「基礎は十分そうだね。」


りゅーいちは鼻で笑う。


「まあ、これくらいはな」


---


■二戦目:機械戦


次に現れたのは、人型の機械。


関節部が露出し、複雑な可動域を持っている。


「次はパターン戦闘。そのロボットは壊しちゃっていいよ。」


そらが操作する。


「こいつは敵の動きを学習するから注意して挑むように」


起動。


機械が動き出す。


無駄がない動き。


一歩目で間合いを詰める。


速い。


剣を振る。


ロボットは受ける。


金属音が場内に響く。


硬い。


ロボットはすぐに反撃する。


直線的だが、正確な一撃。


京慈は防ぐ。


(重い……!)


力が乗っている。


二手、三手と続く。


単調に見えて、微妙にタイミングがずれる。


(パターンを崩してるのか……?)


フェイントを入れる。


反応する。


だが、すぐ修正。


対応してくる。


(学習してる……!)


長引くほど不利。


ロボットから距離を取り、呼吸を整える。


(コア……)


視線を走らせる。


胸部。


一瞬、隙がある。


ロボットを誘うように、京慈はわざと大振りをする。


ロボットはカウンターを狙う。


その瞬間。


京慈は踏み込む角度を変える。


横から滑り込むように剣を突き立てる。


コアへ向けて剣を振り、強い衝撃を受ける。


ロボットは動きが次第に止まる。


---


「……止まりました」


「合格」


そらが言う。


「でも」


アスノが続ける。


「やはり発現しない。」


京慈は小さく頷いた。


---


■三戦目:りゅーいち


「最後だな」


りゅーいちが前に出る。


木刀を構えたその瞬間、空気が変わる。


「審判は私が務める。」


アスノが位置につく。


「この戦闘はデータ採取が目的のため、勝敗が付いた時点で終了とする。ハンデとして、りゅーいちは紋章の使用禁止、京慈がりゅーいちから一本取れたら勝ちだよ。」


「ただし、危険と判断した場合、即時止める」


「……お願いします」


京慈は構える。


---


開始。


先手を取るために全力で踏み込む。


一撃目がりゅーいちに襲い掛かる。


「遅い」


軽く弾かれる。


力が逃がされることで、体勢が崩れる。


(流された……!?)


りゅーいちの追撃。


動きが速い、回避が間に合わず攻撃を受ける。


重い。


守備のために構えた剣が押し返される。


京慈は咄嗟に距離を取る。


(強い……)


分かっていた。


でも、次元が違った。


---


でも、今は攻めるしかない。


角度を変える。


フェイントを仕掛け、誘い込むも、すべて読まれる。


「見えている」


りゅーいちの声がし、攻撃が入らない。


---


京慈はあっという間に追い詰められる。


防戦一方で体力をどんどん消耗し、息が上がり始める。


(このままじゃ……!)


そんなことを考えているうちに隙をさらしてしまった。


「隙だらけだぞ、京慈!」


振り下ろされる一撃。


(防げない)


その瞬間。


(出ろ――!)


強く思う。


だが、思いは届かず何も起きない。


---


「終わりだ」


衝撃。


吹き飛ばされる。


地面に叩きつけられる。


---


「そこまで。」


アスノの声。


試合終了。

---


京慈はゆっくり起き上がる。


「…紋章…出ませんでした」


りゅーいちは木刀を置く。


「当たり前だ」


---


アスノが前に出る。


「結論として、基礎的な部分と簡易的な応用は人一倍できてる。」


静かな声。


「でもその技術に頼っているからこそ紋章が使えていない」


淡々と続ける。


「発現条件不明、再現性もなし、加えて意志制御不可。…これでは武器とは言えない」


---


京慈は黙る。


---


「考え方を変えなさい」


アスノが言う。


「紋章は能力じゃない」


一拍。


「手足や武器の延長として扱いなさい」


---


「武器の……延長」


りゅーいちが笑う。


「振れねぇ剣はただの鉄だ」


視線を向ける。


「使える形にしろ」


---


「……どうやってですか」


アスノは答える。


「過去のデータを見るのが一番かね。九識にある過去の記録」


「過去の紋章者たちの記録を」


---


「りすずの領域だね」


そらが気楽そうに答える。


---


京慈は視線を落とす。


(知らないから使えない)


なら。


(知ればいい)


---


顔を上げる。


「…りすずさんのところですね?…行ってみます。」


---


紋章の完全制御まではまだ遠い。


だけど、手が届かないわけじゃない。

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