表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相棒はカンフー童女  作者: ユーカリの木
歌姫はキャンディサーカス
30/69

序章:人間は自らの行動の中で、自らを定義する 1

 神秘的な青昏い大気が渦巻いている。淡い光が瞬き、一見すれば田舎の夜空よりも美しい光景。地面は夜もよりも深い漆黒。なにも映さず、反射すらしない。


 こんな不可思議な空間の中に、異様な存在がひとつ。


 縦に伸びた銀色の巨大な八面体。高さは十メートルを超えている。これを中心として、小さな八面体が衛星軌道を取るように無数に回っている。八面体の中心にはこれまた大きい目玉が鎮座しており、あらゆる方向を黒目が眺めている。


 回る小さな八面体のひとつが軌道から外れる。中空で止まり、白い光が一気に収束、一条の光線を発射した。音もなく着弾するも、標的となった白い壁は無傷。


「ルミナスレイって名前から推測してたけど、これは厄介だ」


 ハルキの足元には七つの薬莢。全力展開した壁でなくば今の一撃でおしゃかだ。


「ここの小奈落は難攻不落だ。片づけないと被害が広がる。動くぞ!」


 オライオンが叫びつつ右へ迂回を開始。抜いた魔杖剣《クリスタルラインⅣ》の黒い刀身が闇に消える。


「おうおう、今日も変わらず滾るのぉ!」


 フェンは魔杖棍《青竜三爪》を背に添えて左へ旋回。猛烈な速度でルミナスレイへ近づいていく。


 ぎょろ、とルミナスレイの目がフェンを捉える。小さい八面体が二つ動きを止め、光の収束が始まる。瞬き放つ寸前、爆炎が上がった。遅れて爆轟がハルキの白い壁を激しく叩いた。


「はっ……!」


 ペルテテーの笑い声がかすかに背後から届く。両手に持つのは魔杖双剣《赤鬼と青鬼》だ。


 腰を落とし、右の赤鬼を目標へ向け、左の青鬼を下ろした砲撃態勢となったペルテテーに当てられない敵などいない。


 弾倉交換が終わり、ハルキは魔杖短剣《支配するイデア》の薬室へ初弾を送り込む。今日も今日とて魔弾消費が激しい。経費の悩みはいつだって脳内から離れてくれない。


 小型八面体が次々と動きを止め、光を瞬かせる。そのたびにペルテテーの爆裂魔法が直撃し、一度たりともレーザーを放たせない。圧倒的な魔法精密力。


 迂回して距離を詰めたフェンが一気にルミナスレイへ向かう。八面体の目に憤怒。瞬時に結晶の群れを生み出し、童女へと殺到する。


 フェンの右手がスイッチを切り替え、青竜三爪が棍から三節棍へと変形する。両手で棍を軽く握り、童女が宙を舞う。棍の軌跡が幾重もの円弧を描く。結晶の群れが一瞬にして叩きつぶされる。


「さすが我の武器。ほれぼれするほど頑丈よ! そしてぬしよ、残念。我はおとりよ」


 一閃。


 ルミナスレイの身体に一文字の線が入る。オライオンが剣を振り抜き、フェンの隣に移動していた。直後跳躍、身体を捻り空中から八面体を眺める。


「人類のために、お前は邪魔だ」


 重力による自由落下と共に、オライオンがルミナスレイを縦に斬り落とす。八面体の目が嘆きに変わる。身体に引かれた十字の線に沿って身体が四分割される。


 宙に浮いていた小型八面体がごとごとと落ち始める。ルミナスレイの目が弾けて消えた。


 小奈落が消えてゆく。世界に白い霧が戻ってくる。発生から約一年。難攻不落の敵が落ちた。ルミナスレイの残骸である大きなマナ結晶をオライオンが取り、剣を天へ掲げた。


「今日も完全勝利!」


 フェンは武器の形状を棍へと戻して肩に担ぐ。


「今日は蒸しパン食べたいのぉ。あま~い奴が良い」


「ん、屋台で買ってこうか。西セクターなら出店多いし、帰りがけに買ってこうよ」


 ペルテテーが右手首を回してフェンの話に乗る。ハルキは頭で弾いていた計算機を止める。どうやら脳も糖分を求めてストライキをし出したようだ。


「とりあえず、今日くらい誰か運転変わってくれない?」


「我子どもだから無理~」


 ててててとフェンが小奈落の外へ止めたレンタカーへ走る。


「ハルキの車なら運転するけど、レンタカーは保証が怖い」


 さりげなく酷い言い草でオライオンもフェンの後に続く。


 思わず項垂れたハルキの肩にペルテテーが優しく手を乗せた。


「ごめん、私運転したことなくて……。助手席でおやつ口に入れればいい?」


「気遣いありがとう。でも奈落運転中は気を散らせないんだ」


「ん、そっか。いつもごめんね。なにかで必ず返すから」


 ペルテテーの優しさが心に染みる。前衛の二人は彼女の思いやりを少しでも見習ってほしい。今日西セクター近くの小奈落に来た理由も、ふたりがたまには遠出したいとか抜かしたからだ。お陰様で電車で西区まで訪れ、レンタカーを借りて運転する羽目になっている。


「ねえ、ペルテテー」


「うん?」


「僕はね、最近常々思ってるんだ。あの前衛共は一度滅びた方がいい」


「ん……今日はいい抱き枕を貸してあげる」


「新しい枕買ったのかい? 最近悪夢でうなされるんだ。ふたりのせいで破産する悪夢を……」


「大丈夫大丈夫、今日は安眠できるよ」


 さあ行こう、とペルテテーに促されてレンタカーへ戻る。


 レンタカーの外で待っていた二人が騒ぎ出す。ハルキが車のキーを持っているから入れないのだ。


「ぬしよ、遅いぞ! 我の口はもう蒸しパンを待っているのだ!」


「そうだそうだ! 蒸しパン食べに行こうぜ!」


 無言で近づいたペルテテーが、ふたりの頭に双剣の柄頭を思い切り叩きつけた。頭にたんこぶを作った前衛ふたりが強烈な痛みに呻いた。


「あんたら、今日はご飯抜き。ハルキに謝罪と感謝しな」


「あぅぅー……」と膝を落としたフェンは涙目になっている。


「ぐぉぉー……」オライオンは本気痛がっている。


 ペルテテーが両手を振り上げる。前衛ふたりの小さな悲鳴。


「は・や・く」


「すみませんでしたー!」


 二人がその場で土下座した。


「ハルキ、いつも感謝してる! そうだ、今日は俺が運転する! 大丈夫だ! 任せろ!」


 なんだろう、オライオンの声がすっごく薄っぺらい。


「ぬしよ、我もぬしには感謝しておるぞ! 肩揉むか? それともアメちゃん?」


 食べ物を人質に取られたフェンは必死だ。


「じゃあオライオンは運転席行きな。フェンは助手席で索敵とアヴェスター退治。ハルキは私が後ろで甘やかすから邪魔するんじゃないよ」


 鍵を受け取ったオライオンと、ハルキの足元で縋りつくフェンが顔を見合わせる。


「返事は?」


 ペルテテーの冷たく、冴えた声。


「はいぃ!」


 ふたりの返事が、とてつもなく情けなかった。


 すぐさまオライオンとフェンが所定の位置に着く。ペルテテーが穏やかな表情でハルキを後部座席に座らせると、すぐ隣に陣取った。


「じゃあさっさと出発しな」


「分かりましたボス!」


 オライオンが運転を開始。フェンは逃げるように窓を開けて車上に移動する。状況があまり呑み込めていないが、今日は運転せずに済むらしい。ペルテテーに感謝である。


「ん、ハルキ」


 ペルテテーが自分の膝をぺちぺちと叩く。どうやら膝枕をしてくれるらしい。疲れた脳には休眠が必要だ。ハルキは考える間もなく、頭を彼女の太ももに預けた。すべすべとした肌が心地よい。帰り道はゆっくりできそうだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ