59「カイルの治療」
湖水を受け取ったシュウは胸のつかえが少しだけ軽くなった。
だが、それで終わりではない。問題はカイルの容態だった。
「……なあ、シュウ」
リーダーのザクが気遣わしげに声をかける。
「湖水だけじゃどうにもならねえだろう。おまえの友達、ちゃんと診てもらった方がいい」
「……診てもらう?」
ライラが前に出る。
「私たちの知り合いに、治療士の冒険者がいるの。腕は確かよ」
「呼んでこよう」
フィンとトモアが顔を見合わせ、うなずいた。
それからほどなくして、落ち着いた雰囲気を纏う一人の冒険者が作業小屋に姿を現した。
彼は治療士らしく清潔なローブを身にまとい、腰には小ぶりの杖を携えていた。
「私が診よう。患者は……彼だな」
低く穏やかな声で言い、カイルの枕元へと歩み寄る。
シュウが心配そうに頷くと、治療士は静かに手をかざし、淡い光を放ちながらカイルの体を探るように魔力を流した。
数分の沈黙の後、彼は眉を寄せ、重々しく口を開いた。
「……これはただの薬の影響ではない。彼の体内で魔力が制御を失いかけている」
「魔力……暴走?」
シュウが息を呑む。
治療士は頷いた。
「意識の混濁は、その副作用だ。薬で強制的に感情や思考を縛られた結果、魔力の回路に歪みが生じている。放っておけば、心身が完全に壊れてしまうだろう」
「そんな……!」
ライラが小さく舌打ちし、フィンは沈痛な表情を浮かべる。
ザクは治療士に一歩詰め寄った。
「助ける方法はあるのか?」
治療士はしばらく思案するように沈黙したあと、ゆっくりと口を開いた。
「……一つだけ、試せる方法がある」
シュウをはじめ、その場にいた全員が息をのんで治療士を見つめる。
「彼の体内に蓄積された魔力は、何かによって強制的に溜め込まれたものだ。そのため魔力の流れが歪み、暴走の危険が高まっている。助けるには、体に溜まった魔力を少しずつ体外に放出させるしかない」
「体外に……放出?」
シュウが眉をひそめる。
治療士は頷き、懐から掌に収まるほどの小さな宝玉を取り出した。
それは淡く青白い光を帯び、握るとわずかに温かい。
「これは《魔力貯蔵器》――魔力を吸収し、内部に留める魔道具だ。使い方は単純だ。患者が無意識のうちに魔力を放出できるよう、誰かがそばで手を握り、この器を媒介にして流れを導く」
「つまり……」
ザクが腕を組みながら言う。
「お前かシュウが、この魔道具を通してカイルの魔力を外に逃がしてやるんだな」
「その通り。ただし、これは長い時間がかかるだろう。放出が急すぎれば魔力の回路が破損し、逆に命を危険に晒す」
治療士の声は静かだが、その表情は真剣そのものだった。
シュウは迷うことなくカイルの手を握り、強い眼差しでうなずいた。
「……やるよ。俺がカイルの魔力を引き出して、この魔道具に封じる」
「……決意は固いようだな」
治療士は宝玉をシュウに手渡した。
「ならば任せよう。お前が一番彼を信じているのだから」
魔道具を受け取ったシュウの胸の内に、不思議な熱が宿る。
――絶対に、助ける。




