51「ナード農園へ」
朝靄のかかるバリスタの街道を、シュウは足早にナード農園へ向かっていた。
今日はカイルの件でミーシャに意見を聞きに来たついでに古代麦の栽培状況も確認しておきたかった。
農園に着くと、穏やかな風が麦畑を揺らしていた。
「おはようございます、ミーシャさん」
シュウは声をかけると、若い女性が顔を上げ、にこりと笑った。
「シュウさん、お久しぶりです。何か用ですか?」
「ちょっと相談したくて……あと、古代麦の様子も見せてもらえますか?」
ミーシャは少し考え込むように頷き、シュウを畑へ案内した。
畑の中、芽吹いている麦の列はあるものの、見慣れたレアト麦のように元気ではない。
「……うーん、やっぱり古代麦はまだ育つ目処が立っていませんね」
ミーシャは少し残念そうに言った。
「栽培には環境が合わないことが多くて、まだ安定して収穫できる状況じゃないんです」
ナード農園の畑を後にし、シュウはミーシャを少し離れた木陰に呼び寄せた。
「ミーシャさん……ちょっと相談があるんだ」
シュウは少し低めの声で切り出す。
「どうしたんですか?」
「実は……カイルが、あの牧師のところで薬か何かを盛られて、ほとんど意識がない状態なんだ」
ミーシャの表情が一瞬硬くなる。
「……ああ……おばあちゃんの時と同じ感じですね」
シュウはうなずく。
「そう。だから相談したい。あの時、おばあさんはどうやって回復したんだ?」
ミーシャは少し考え込み、口を開いた。
「正直に言うと……あの時も完全に原因は分かっていないんです。ただ、水分と栄養を摂らせて、身体を安静にさせるのが基本でした。あとは、話しかけたり、そばにいて刺激を与えることも大切でした」
シュウはメモを取るように小さくうなずく。
「……なるほど。回復には時間が必要なんだな」
「はい……でも、焦らずにゆっくり様子を見てください。無理に起こそうとしたり、強い刺激を与えるのは逆効果です」
「わかった。ありがとう、ミーシャさん。カイルが少しでも意識を取り戻せるよう、気をつける」
シュウは決意を固めるように拳を握り、カイルの元に戻る覚悟をした。
ミーシャも微笑み、優しくうなずいた。
「頑張ってくださいね、シュウさん」
その言葉に力をもらったシュウは、ゆっくりと農園を後にした。




