48「回復に向けて」
バルドの酒場の裏手。カイルは力なく担がれ、椅子に座らされたまま顔を青白くしている。
「まずはこれだな……」
バルドが大量の水を手に取ると、カイルに無理やり飲ませる。
数分後、カイルは苦しげに顔を歪め、やがて大量に吐き出す。
胃の中の薬や不純物が少しずつ体外へ排出される。
バルドは手早く、慎重に処置を見守った。
「……これでひとまず安全だ」
吐き出す量が一定に達したことを確認すると、カイルを寝かせるために簡易ベッドに横たえる。
縄で軽く固定し、無理のない姿勢に整えられた。深い眠りに落ちるカイルの顔は、わずかに安らぎを取り戻しているようにも見えた。
その間、シュウとレヴァント、そしてバルドは小さなテーブルを囲み、一連の出来事を整理していた。
「まず、カイルはアクル信教の過激派によって一時的に洗脳された可能性が高い」
シュウが紙にメモを取りながら言う。
「そして、教会内での礼拝行動は、薬と心理的操作の影響で無意識に起こったことだ」
レヴァントは腕を組み、眉間にしわを寄せる。
「となると、次の問題は……このまま放置しておくと、また同じ手口で狙われる可能性がある」
バルドは深くうなずき、手元のビール樽を軽く叩きながら言った。
「俺たちに必要なのは、まずカイルを完全に回復させること。そして安全を確保し、奴らの行動範囲を把握することだな」
シュウは目を細め、決意を固める。
「わかった。次にどう動くか、ちゃんと計画を立てよう」
こうして三人は、夜の酒場の薄暗い明かりの下、緊迫した状況を冷静に整理し、次の行動への準備を進めていた。
とりあえず、シュウとカイルは一時バリスタの作業小屋へ戻ることにした。
そして、バルドは酒場で情報収集、ㇾヴァンは魔造管理庁を通じてアクル信教へ抗議の連絡をすることとした。
シュウはまだぐったりとしているカイルを背負い、重い足取りでバリスタの作業小屋へ戻った。
「よし、ここなら安全だ……」
小屋の簡易ベッドにカイルを寝かせ、軽く毛布を掛ける。安静にしているカイルの呼吸が、少しずつ落ち着いていくのを確認して、シュウはほっと息を吐いた。
そのまま作業小屋を後にし、ネリィの酒場へ向かう。
「相談があるんだ……」
扉を開けると、いつもの賑やかな香ばしい匂いの中に、見慣れた人物が数人。アクル信教の改革派──だ。
改革派の副リーダー レオニード・グラフがそこにいた。
「シュウさん、カイルさんの件で来たのか?」
ネリィが手を止め、にこやかだが少し険しい目つきでシュウを見つめる。
「はい。過激派による妨害が増えていると聞きました。我々も状況を把握したくて、ここに来たのです」
シュウは改めて、カイルの状態や教会での経緯を簡潔に説明した。
ネリィも補足として、過激派のやり方や街での動き、酒場での情報などを交えながら話す。
「なるほど……」
レオニードが腕を組み、考え込む。
「カイルさんの安全と、酒造の権利を守るためには、こちらも協力しないといけませんね」
シュウは頷き、ネリィも含めた三者でテーブルを囲む。
「ここからどう行動するか、具体的な手順を話し合おう」
酒場の灯りが三人の顔を照らす中、緊迫しつつも冷静な相談が始まった。




