47「脱出と礼拝」
シュウの頭上から、ㇾヴァンが駆け下りてきた。
「シュウ! カイルを背負ってここを出るぞ!」
しかし、カイルは微動だにせず、腕を固く組み、まるで拒絶するかのように体をこわばらせた。
「……くっ……」ㇾヴァンは唇を噛む。
そのとき、牧師の低く響く声が礼拝の調べを始める。
静かな歌声とともに、教会の空気が変わる。
蝋燭の炎が揺らめき、カイルの目がわずかに輝いた――だがその輝きは意思ではなく、まるで引き込まれるような光。
そして、カイルは体を揺らしながら立ち上がると、牧師の唱える言葉に合わせて、無意識に礼拝の姿勢を取った。
ㇾヴァンの腕に乗せられるどころか、カイル自身が礼拝の列に混ざり、声を低く震わせながら呟く。
「……アクルに……感謝を……」
シュウは歯を食いしばり、必死に頭を振る。
(カイル……俺が助ける! 絶対に、こんなのに染まらせない……!)
教会の奥、牧師の微笑みがゆっくりと広がり、静かに支配の力を増していく。
その影に、シュウたちの決意がぶつかろうとしていた。
教会の外、昼下がりの光が差し込む小道に、バルドが息を切らしながらやってきた。
酒場の店員たちを何人か連れ、慌てて教会の扉を押し開く。
中の様子を見渡したバルドの目に映ったのは、祈りの列に合わせて微かに揺れるカイルの姿。
必死にカイルを目覚めさせようとしているシュウとㇾヴァンはバルドが来たことに気づく。
シュウはバルドのそばに駆け寄り、息を呑む。
「……カイル、洗脳されてるかもしれない」
シュウの声に、バルドは眉をひそめる。
「なら力ずくででも連れていくしかねぇな!」
酒場の店員たちが一斉に動き、カイルを抱きかかえて外へと引き出す。
その瞬間、教会内から牧師の声が響き、低く穏やかに、だがどこか怪しげに微笑む。
「……フフフ、ようこそ、我が祈りの場へ」
「さぁ、皆さんもご一緒にアクル神を称え、祈りましょう。」
カイルは、力ずくで引き離されながらも、まだ礼拝のリズムに合わせ、微かに身体を揺らす。
だが、外へ出る道は確保されていた。
教会の扉が閉まると、牧師のほほ笑みだけが、冷たく、ゆっくりと教会内に残った。




