45「合流」
港町カランサの街並みは、昼下がりの潮風に包まれていた。
石畳の道を駆け抜ける馬車の音と、行き交う商人たちの喧騒。だがシュウの心は、そんな賑わいを感じる余裕もなく、ただひとつのことに焦っていた。
(カイル……無事でいてくれよ)
街の中心にある評議会庁舎。その奥、酒造部門の顧問室でシュウを迎えたのは、レヴァンだった。
「来たか、シュウ。急ぎ呼び立ててすまなかった」
「……カイルが捕まったって聞きました」
「正確には“行方不明”だ。だが目撃証言がある。フード姿の集団に連れ去られたそうだ」
重く沈む空気。
レヴァンは顎に手を当て、視線を窓の外に向けた。
「その集団……恐らくはアクル信教の過激派だろう。やつらの教会が、この町の近くにある」
「教会……」
「表向きは巡礼者の宿泊所だが、裏では密かに集会を開いていると噂されている。カイルが連れ込まれているとすれば、そこだ」
シュウは立ち上がる。
「案内してください。今すぐにでも行きます」
レヴァンは短く息を吐き、頷いた。
「わかった。だが軽率に踏み込めば、返って危険だ。……私も同行しよう」
◇
夕暮れ、カランサ郊外。
森を抜けた丘に、ひときわ高い尖塔を持つ石造りの教会が姿を現した。
静かすぎる。鳥の声も、潮騒すら遠くに引いているようだった。
「ここか……」
シュウが息を呑んだ瞬間、教会の扉が軋む音を立てて開いた。
出てきたのは、黒い法衣に身を包んだ牧師だった。
だが、その眼光は慈悲ではなく、狂信に染まっている。
「……異国の者よ。我らの祠に何用か」
レヴァンが一歩進み出る。
「この町で商人がさらわれた。お前たちの仕業ではないのか」
牧師は口元に不気味な笑みを浮かべた。
「さらった? 否。我らは神の意思に従い、堕落した者を正すのみ……酒を広めし罪人を、焔で浄めるのだ」
「っ……!」
その言葉に、シュウの胸に熱が走る。
「カイルを返せ! あいつは何も悪くない!」
怒気を孕んだ声に、牧師の笑みはさらに深まった。
「……ならば証を立てよ。汝が“酒造りの徒”ではないと。さもなくば……友もろとも炎に包まれよう」
教会の中から、複数の影がざわめく気配がした。
フードを被った男たち——過激派の信徒たちが、闇に蠢いていた。
(カイル……中にいるのか?)
拳を握りしめるシュウ。その横で、レヴァンもまた険しい目をしていた。
対峙は、緊迫の色を濃くしていく——。




