41「大盛況の裏側」
シュウは週一で試食、試飲会を続けていた。黒ヤミやヤミシラに合うかわからないが、ツマミを少しずつ増やしていった。
チーズを燻製にしてみたり、香草を練りこんだ焼き団子を試したり——ときには参加者の反応が薄く、首をかしげることもあったが、それも次の改良の材料になる。
「次はもうちょっと塩を効かせたほうがいいかもな」
常連客の一人が、半分残った皿を指しながらそう助言する。
失敗も多いが、成功した時の笑顔や「これ、うまいな!」の声は、何よりの報酬だった。
そんな試行錯誤の積み重ねは、やがてネリィの酒場の看板メニューをじわじわと増やし、常連客たちの間で「週一の新作発表会」がちょっとしたイベントとして定着していった。
客席はいつも賑わい、笑い声とジョッキのぶつかる音が絶えない。だが——その喧騒を遠くから見つめる視線があることに、シュウはまだ気づいていなかった。
「よし、今日も大盛況だな!」
試食・試飲会が終わった後、カイルは満足げに帳簿を閉じた。
「黒ヤミもヤミシラも、かなり評判が広まってきてる。市場での知名度も上がってきたし、そろそろ販路拡大に本腰を入れてもいい頃合いだ」
シュウはジョッキを片付けながら顔を上げる。
「カイル、もう動いてるんだろ?」
「もちろん。バリスタの町から先、海沿いの港町と内陸の大商業都市へ。それぞれ商人仲間に声をかけてある。うまくいけば、酒場だけじゃなく、各地の商隊にまで黒ヤミが出回るぞ」
にやりと笑うカイルの目は商人らしい野心に輝いていた。
だが、その野心と同じ熱量で別の者たちも動いていた。
港町カランサ。
薄暗い倉庫の中、アクル信教の過激派の一団が集まり、密談を交わしていた。
「……最近、“黒ヤミ”なる酒が広まっていると聞く」
「はい。味は強く、飲むと奇妙に心が昂るとの噂。魔造酒に近い効能を持つやもしれませぬ」
「酒造免許を持たぬ者が勝手に造り、神を冒涜している。放ってはおけぬ」
重苦しい沈黙のあと、首領格の男が静かに口を開いた。
「製造者を突き止めろ。……そして、“神に仇なす異端の酒”をこの世から消すのだ」
港町から内陸へ向かう商人たちの荷に、彼らの耳と目が潜り込むのに時間はかからなかった。
——カイルが描く拡大の未来と、過激派が狙う破滅の未来。
二つの流れは、いま静かに交わろうとしていた。




