↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/61

29話「検問を突破しろ」

ネリィの店の奥座敷。

 黒ヤミの樽を三つ並べ、革袋に包んで固定しているカイルの手は、いつになく慎重だった。


 「樽は俺の馬車に積む。目立たないように荷台の底に隠すが……正直、これを全部無事に運べる保証はねぇ」

 「やるしかないさ」シュウは肩を回し、魔力操作の訓練で少し鍛えられた指先を見下ろす。「途中でぶっ壊れたら、その時はその時だ」


 ネリィは壁際の棚から地図を引き抜いた。

 「普通に街道を通れば二日で港町に着くけど、過激派が待ち構えてる可能性がある。山越えの裏道なら四日はかかるけど……そっちのほうが安全よ」

 カイルは唸った。「安全でも長旅は樽に響く。揺れが続けば味が変わるかもしれん」


 話が途切れ、三人の視線が自然と黒ヤミの樽に集まった。

 この三つの樽が、全てを変える鍵になる——そう思うと、妙な重みが室内に広がる。


 「……よし、裏道で行こう」シュウが決断した。「味は俺が責任持つ」


 その夜、シュウは作業小屋に戻り、出発に備えて最後の魔力放出の練習をしていた。

 しかし、外で馬の蹄の音が止まり、誰かが静かに扉を叩いた。


 「……シュウ、起きてるか?」

 声の主はカイルだ。だが、その表情は昼間の軽さとは違っていた。

 「今、街の入り口でアクル信教の連中が検問を始めてる。……どうやら、お前の顔も探してるらしい」


 樽を運び出す前に、すでに包囲網は狭まり始めていた——。


夜明け前、街道を覆う薄靄の中——

 カイルの馬車は、いつもより深く積み荷を覆い隠していた。黒ヤミの樽は半分だけ酒を残し、蓋をして、その上に色鮮やかな果物をぎっしり詰め込んである。見た目は完全に「旅の行商人の荷台」だ。


 「いいか、シュウ」カイルが低い声で言う。「お前はあえて目立て。信教の奴らは俺よりお前を追ってる。お前が別の道から入れば、検問の目はそっちに向く」

 「おとり、ってやつか……」

 「悪いが、そうだ」


 ネリィは不安げに腕を組む。「本当に大丈夫なの? 変な気起こされない?」

 「起こされても、俺は逃げ足には自信ある」シュウは笑った。

 ——まあ、捕まったら終わりだけどな、と心の中で付け足す。


 作戦はこうだ。

 カイルは裏街道の入口へ向かい、検問所の横を堂々と通り抜ける。その時、別ルートでシュウが検問近くを歩いてわざと見つかる。過激派も役人もシュウを追えば、馬車は素通りできる——そんな博打のような手段だ。


 そして、夜が明けきらぬうちに作戦は始まった。


 カイルの馬車が検問所に近づく。役人たちは荷台に視線を送るが、果物の甘い香りと商人風の笑顔に気を取られている。

 その瞬間——


 「おい! あそこだ! 藤原だ!」

 街道脇の林から姿を現したシュウに、過激派の怒号が飛ぶ。


 「やっべ、見つかった!」

 シュウは全力で駆け出す。追いかける鎧姿の役人、そして武装した信教の男たち。

 砂利道を蹴る足音が遠ざかるのを背に、カイルは馬の腹を軽く叩き、馬車をゆっくりと検問所の外へ進めていった——。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。