25話「免許への道と迫る影」
翌朝。
薄曇りの空から、わずかに冷えた風が吹き込む作業小屋の中。
シュウは、昨夜までに覚えた魔力操作の感覚を確かめるように、指先からじんわりと淡い光を流し込んでいた。
狙いはもちろん——フラミンを使った酒造りへの応用だ。
「……よし、昨日よりはスムーズだな」
独りごちたそのとき、
「おーい、シュウ!」
元気な声とともに扉が勢いよく開き、カイルが顔をのぞかせた。
「なんだ、朝から珍しいな」
「いや、ちょっとヤバい話を聞いたんだよ」
カイルは持っていた荷袋を脇に置き、声をひそめる。
「旅の途中、隣町で噂を耳にした。——ヤミヒレのことだ」
シュウの手がぴたりと止まる。
「……あの酒のことか?」
「そう。どうもアクル信教の過激派と、魔造管理庁の役人が“製造者”を探してるらしい」
嫌な汗が背中を伝う。
ヤミフラはネリィの店で出している。看板には店の名前が出ていて、シュウの名前は出していない。
——だが、それで安心できる状況じゃない。
「酒造免許を持ってない俺が見つかったら……」
「間違いなく裁かれるな」
カイルは冗談めかすことなく真顔で言った。
外の風が、ひときわ冷たく感じられた。
「……とにかく、このまま黙ってるわけにはいかないな」
シュウは魔力操作の練習を中断し、作業小屋の棚から外套を引っ張り出した。
「ネリィに知らせるのか?」
「ああ。あいつの店で出してる以上、無関係じゃいられない」
カイルも頷き、二人は足早に街の中心部へと向かった。
昼前のネリィの居酒屋は、仕込みの真っ最中で、香ばしい匂いが漂っていた。
「ちょっといいか、ネリィ」
声をかけると、奥から小麦粉まみれの腕で顔をぬぐったネリィが出てくる。
「なんだい、そんな真剣な顔して」
「……ヤミフラのことだ。アクル信教の過激派と魔造管理庁が製造者を探してる」
ネリィの表情が一瞬で固まる。
「……マジかい。あんたの名前は出してないけど、いつ嗅ぎつけられるかわかんないね」
カイルが口を挟む。
「だから、酒造免許ってやつを取る方法、教えてくれないか?」
ネリィは腕を組み、ふうっと息を吐く。
「酒造免許は魔造管理庁の認可がいる。普通はギルド経由で推薦を受けて、試験に合格するか、長年の商業実績を証明する必要があるんだ」
「……めんどくさそうだな」
「めんどくさいどころか、最近は魔造酒の不正製造が多くて審査が厳しい。特に新参のあんたみたいなのは、試験内容もきつくなる」
シュウは頭をかき、ため息をついた。
「要するに、正面突破は難しいってことか」
「ただし——」
ネリィが声を潜める。
「例外が一つある。『特例醸造枠』ってのがあってな。異国から伝わった新しい製法や素材を使った場合、試験なしで臨時免許が下りる可能性があるんだ」
「……異国からの製法?」
「そう。つまり、あんたの“ビール”ってやつは条件に合うかもしれない」
希望の光が、ほんの少しだけ差し込んだ気がした




