24話 「魔力操作と魔造酒」
街へ戻った俺は、真っ先にネリィの居酒屋へ足を向けた。
昼間の店内は夜ほど賑やかではないが、香ばしい料理の匂いと酒の香りが混じり合い、相変わらず落ち着く空気が流れている。
「お、戻ったか」
カウンターの奥で洗い物をしていたネリィが顔を上げる。
「ちょっと聞いてくれ。少しだけだけど、魔力を放出できるようになったんだ。だから──フラミンに試してみたい」
期待を込めて言うと、ネリィの表情が曇る。
「……あんた、気持ちはわかるけどね。フラミンは普通の発酵酒よりもずっと魔力の影響を受けやすい。下手すりゃ全部ダメになる」
「そこを何とか……」
「わかったよ。ただし、まずはあたしがやって見せる。あんたは見てな」
ネリィは奥の棚から、まだ発酵途中のフラミン酒の小瓶を持ってくる。
手のひらをかざし、ゆっくりと魔力を流し込む──その瞬間、瓶の中の液体が淡く輝き始め、やがて鮮やかな緑色へと変わった。
「……おお……」
見た目だけなら、まるで宝石を砕いて溶かしたようだ。
ネリィは慎重に一口含む──そして眉をしかめた。
「……ダメだね。香りが全部飛んじまった。味も、ただの水っぽいアルコール」
瓶を置き、深くため息をつく。
試しに俺も一口飲んだが、とてもうまいとは言えない代物だった。
「あたしは魔力操作が細かくできないんだ。強く流しすぎて、酒の風味まで消しちまったんだよ」
「ってことは、俺も……」
「今のあんたじゃもっと粗いはずだ。残念だけど、フラミンを使った魔造酒はまだ作れないよ」
俺は肩を落としながらも、瓶の中の緑色の液体から目を離せなかった。
──この輝きに、必ず味を追いつかせてやる。
昼下がりのネリィの居酒屋。
仕込みを終えてカウンターで一息ついていると、入り口の扉が勢いよく開いた。
「おお、いたいた! やっぱりここだったか!」
聞き慣れた声──カイルだ。荷車を引いて旅立ったはずの商人が、埃をかぶった笑顔で店に飛び込んできた。
「……お前、出発してまだ二週間しか経ってないよな?」
「いやぁ、途中の村で“ヤミヒレ”って名前を耳にしてな! まさかお前がそんな酒作ってるとは思わなかったんだが……気になって戻ってきちまった!」
カイルは早口でまくし立てながら、当然のようにカウンターに腰掛ける。
「カイル、あんた……仕事はどうしたの」
呆れ顔のネリィがグラスを磨きながら睨む。
「仕事より先に、友の新作酒だろ!」
「いや、順番逆だろ……」と言う俺。
そのとき──。
ガラリ、とまた扉が開き、フード付きの外套をまとった数人がぞろぞろと入ってきた。
彼らは無言で席に着くなり、いきなり声を張り上げる。
「これが噂の“自制の酔い”をもたらす酒か!」
「ありがたや、改革派に栄光あれ!」
乾杯の声とともに、ジョッキが次々と空になっていく。
「ちょ、ちょっと静かにしてくれ! ここは説教堂じゃないんだぞ!」
ネリィの叱声も空しく、店内はあっという間にお祭り騒ぎだ。椅子がずれる音、笑い声、どこからか飛んでくる「もう一杯!」の声。
カイルはにやにや笑いながら、主人公の肩を小突いた。
「なぁ、すごいことになってるぞ。お前、もう立派な有名人だな」
「やめろ……こういうのが一番危ないんだ」
そう言いつつも、シュウの心の奥で、妙な高揚感が抑えきれなかった




