23話 「農作業と魔力操作」
農園の朝は、思ったより早い。
まだ空が青白いころから、ミーシャに起こされ、畑に出た。
「今日は麦の手入れと、あとは新しく植えたハーブの根元の草取りね」
畑の一角では、黄金色の麦が風に揺れている。別の区画には、深緑の葉をつけた低木が並び、その下に小ぶりな白い花が咲いていた。どうやらこれが新しいハーブらしい。
さらに奥に進むと……そこには俺が見慣れたはずの作物があった。
「……米?」
「そうよ。ただし《クチナ米》って品種。普通の米より香りが強くて、炊くと甘い花の匂いが漂うけど、口に入れると少し渋いの」
稲穂は薄紫色が混ざった金色で、風に揺れるたびに独特の甘い香りが漂う。
横の畝では、土の上にごつごつした塊が顔を出していた。
「こっちは《ヤケイモ》。さつまいもの仲間だけど、皮ごと焼くと甘いけど、中身はほんのり辛いの。芋焼酎にすると香りが強烈で、慣れない人はむせるわね」
米も芋も、俺が知っているそれとは似て非なるもの。扱いやすそうで、実はくせ者だ。
──だが、クセがあるならあるほど面白い。
作業の合間、ミーシャは魔力の基礎を教えてくれた。
「魔力は呼吸と同じ。吸って、吐く……その“吐く”ときに、体の中の温かいものを外に押し出すイメージ」
言われたとおりにやってみるが、指先がじんわり温かくなるだけで、何も起きない。
「それでいいの。今は“温かくなる”を覚えなさい。力を出そうとすると、かえって暴走するから」
麦を刈り、草を取り、芋を掘り、米を干す。
農作業の合間に繰り返す魔力練習は、まだ形にならなかったが、確かに指先の奥に何かが芽生えている気がした。
三日間、朝から晩まで農園で働き、ミーシャの指導を受けながら魔力操作を練習した。
最初は指先が温かくなるだけだったのが、三日目の夕方、干していた麦束を抱えた拍子に、掌からふわりと熱が漏れ出す感覚があった。
「──今の、見えたわよ。ちゃんと外に出てた」
ミーシャが少しだけ口元を緩める。
まだ狙って放出できるわけじゃないが、前より確かに魔力を扱えるようになっている。
帰る支度をしていると、ミーシャが土間の奥から小さな麻袋を二つ持ってきた。
「これ、クチナ米とヤケイモ。あんたなら面白い使い方するでしょ」
「いいのか?」
「ちょっとくらいならね。あ、もちろん麦とハーブも持っていきなさい。せっかく覚えた魔力、酒造りで試さないと」
振り返ると、外で薪を割っていた大柄なおじさんが、無言で片手を上げてくれた。
寝室の方からは、おばあちゃんの静かな寝息が聞こえる。
この農園とも、またすぐに会える気がした。
麻袋を背負い、夕暮れの道を街へと戻る。
袋の中から、米と芋の独特な香りが混ざって漂い、鼻をくすぐった。
──さて、これをどう酒にしてやろうか。




