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第20話「パリッといかない」

ジュワァ……と音を立てるはずのフライパンが、なんとも頼りない湯気を吐いた。

 試作第一号フランクフルト。

 見た目は悪くない。焼き目もきれいだし、香ばしい匂いもしている。

 だが――ひと口噛んだ瞬間、俺は絶句した。


「……ぱさっ」


 そう、肉が乾いている。

 ジューシーさのかけらもない。肉汁があふれるどころか、口の中の水分を全部持っていかれる。

「……俺のフランクが……ただの肉の棒に……」

 厨房に膝をつき、がっくりと肩を落とす俺。


 どうしても納得がいかず、俺は材料を抱えてネリィの店へ向かった。


「ほう、肉がぱさぱさねえ」

 事情を聞いたネリィは、手を腰に当てて笑った。

「そりゃあ脂の量が足りないわね。こっちじゃ脂身は家畜の餌に回されることが多いから、挽き肉は赤身だらけになるのよ」

「なるほど……そりゃパサパサにもなるわ」

「あと、詰め物はもっときっちり空気抜きしないと。肉汁が逃げるからね」

 さすがは料理人、的確すぎてぐうの音も出ない。


 と、そこで俺はふと店内を見渡した。

 あのフードをかぶった連中が、また来ている。4人ほどで、静かにテーブルを囲み、酒とツルノ芋をつまんでいる。


「なあ、あの人たちって――」

「ああ、気になってた?」

 ネリィは声を落とした。

「あの人たちはアクル信教の改革派よ」

「……改革派?」

「精神が乱れるような酩酊は悪だが“完全禁止”じゃなくて、“自制できる酔い”なら許容してもいいんじゃないかって考え方。

 アンタの酒が、ちゃんと飲み方を選べば楽しく飲めるっていう口コミを聞いて、興味を持ったみたい」


 俺は少し驚いた。てっきり敵視されると思っていたアクル信教の人間が、むしろ興味を示しているとは。

 ただ、その興味が協力に変わるのか、摘発の口実になるのかは、まだわからない。


翌朝、市場の肉屋で俺は肩透かしを食らった。

「脂身? なんだ、そんなのか。ほらよ」

 大ぶりの脂身が、どさっと麻袋に入れられる。赤身より安いし、腐らせる前に欲しいくらいだという。

 昨日の絶望は何だったのかと思うほど、あっけなく入手できた。


 作業場に戻り、脂身を挽き肉に混ぜ、香辛料と共に練り込み、腸詰めにする。

 じっくりと焼き上げると――

「パリッ!」

 噛んだ瞬間、肉汁が溢れた。脂のコクが香辛料を引き立て、口の中を満たす。

「……これだ。これだよ!」

 俺は一人ガッツポーズを決めた。


 その夜、ネリィの店へ行くと、あのフードの集団がまた来ていた。

 ネリィが厨房から顔を出し、俺を手招きする。

「そうそう、あんたのこと、紹介しとくわ。ほら、この人たちが言ってた酒を作った張本人よ」

 俺が名乗ると、フードの一人が笑みを浮かべた。

「やはりあなたが。噂は聞いていました。よければ、今夜はご一緒に」


 席に混ざり、俺は彼らと盃を交わした。

 異世界産ヤミシラ+ヒレツナの苦味酒は、やはり評判がいい。

 「苦いが、喉の奥で広がる香りが心地よい」「これは自制できる酔いだ」――そんな言葉が並ぶ。

 彼らの目は真剣で、ただの酔客とは違った。


「そうだ、今日は試作品があるんだ」

 俺は厨房に戻り、皿に熱々のフランクフルトを並べた。

 皮を噛み切った瞬間、パリッと音が響き、肉汁がほとばしる。

 ハーブの香りと脂の旨味が、ビールの苦味と絡み合って、口の中で祭りが始まる。


「……これは、酒を飲むための食べ物だな」

「危険だ。これが広まれば、誰も自制などできなくなる」

 冗談めかしたやり取りに笑いが起こる。

 だが、その笑みの奥に、彼らの興味と計算の光が見えた気がした。

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